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14話

 

 ですよねー。このくらいで死ぬわけないよねー。ディートリヒは何事もなかったかのように無傷で現れた。

 

 「侮っていた。この俺が一方的に切り刻まれるとは……とんでもない魔剣だ。だが、所詮はただの斬撃。上級吸血鬼の再生力があればどうとでもできる」

 

 確かに奴の再生力は厄介だ。どれだけ生命力のステータスが高いのか。それとも再生系のスキルの効果は生命力とは別枠のダメージ計算になるのか。実際、俺の生命力6しかないけど、腹かっさばかれても死ななかったし。

 

 「もう一度だけ聞くぞ。おとなしく魔剣を渡せ」

 

 「渡したら命は助けてくれると?」

 

 「ああ、そうだ」

 

 「くっくっく……お断りだぁ!」

 

 白々しい台詞を切り捨てるように、俺は魔剣を構えた。この剣は、構えただけで敵を断つ。その剣撃のリーチは明らかに刀身の長さを越えている。離れた敵を一方的に切り裂くのだ。

 

 何度も斬撃を放つうちに、少しだけこの剣の性質がわかった気がする。俺は最初、鞘から刀身が抜けないことに困惑したが、どうもそれは違うらしい。剣を抜こうとして力を込めると、いつの間にか“もどした”状態になっているのだ。

 

 つまり、抜剣したつもりが納刀している。そして気づいたら斬撃を放った後なのだ。推測するに、剣を抜き、敵を斬りつけ、そして鞘に収めるという一連の動作が俺の認識を越える速度で自動的に処理されている。

 

 例えるならキングクリムゾンだ。過程がすっ飛ばされた感じ。あと、ケルト神話に登場するフラガラッハという剣を思い出した。どんな鎧も切り裂く剣で、鞘から独りでに抜け出して敵を倒して戻ってくるという。

 

 だから“剣”で戦っているという感覚は全くない。疲労もそれほどない。その代わり、細かいコントロールはしにくい。なにしろ、自分でも斬った感覚なんて持っていないのだ。今も、放った斬撃は的をはずれてディートリヒの背後の岩を一文字に切り裂いた。

 

 「シィッ!」

 

 ディートリヒが走り出す。コントロールに難はあるが、だったら手数で攻めればいいだけの話だ。追加の斬撃は、一瞬のうちにいくらでも撃ち出せる。

 

 驚くべき身体能力を発揮して一瞬で距離を詰めてくるディートリヒ。だが、その速度を遥かに超越した不可視の斬撃がマシンガンのように撃ち出され、地面に無数の斬り傷を残しながらディートリヒを面で制圧する。

 

 だが、予想外にディートリヒの勢いは止まらなかった。斬り裂かれることを覚悟していたのだろう。体が両断されても瞬時に接着してしまい、わずかな足止めにしかならない。斬撃が鋭すぎるのも問題だった。恐るべき切れ味のために、それ以外の余計な負荷が一切かからない。だから吸血鬼に対するマンストッピングパワーがない。

 

 接着が間に合わない速度で撃ち出された斬撃がディートリヒの体をゴッソリと斬り捌いていくが、それでも彼は止まらなかった。殺意をほとばしらせる眼は、その光を少しも曇らせることなく俺に迫ってくる。

 

 「死ねぇ!」

 

 「うっ」

 

 これはまずい。後ろに下がりながら距離を取るべきか。間に合わなかったら、フルバーストで微塵切りにしてやろう。

 

 だがそのとき、あと数メートル、奴の脚力なら瞬く間に踏破できるであろう距離まで近づいたディートリヒが突如として止まった。急ブレーキをかけて立ち止まり、腰から剣を引き抜き、高らかに掲げる。何をする気だ。

 

 「『我が名はディートリヒ・スエイフェン! 騎士の高潔なる魂とこの剣にかけて! 貴殿に決闘を』……」

 

 やばっ、これもしかして魔法の詠唱か!? 俺は慌てて斬撃を放つ。棒立ち状態のディートリヒは良い的だ。バラバラに裁断されていく。

 

 「キサマアアアアアア!!」

 

 何とか詠唱は阻止できたようだ。でも、魔法で攻撃するつもりなら最初から距離を取って詠唱すれば良かったのに。なんでわざわざ近づいてきたんだ? 馬鹿みたいに棒立ちになって剣を掲げてるし(しかもその剣は俺の斬撃を受けて刀身がほとんど残ってない)。何か使用条件のある魔法だったのだろうか。

 

 「貴様だけは絶対に許さん! かけらも残さず灰にしてやる!」

 

 ディートリヒは俺の剣の間合いから離脱した。体を細切れにされる直前、身動きが取れる状態のうちに、自分の頭部を遠くに投げ飛ばしたのだ。その頭部から体が生えて再生してしまった。吸血鬼キモイ。

 

 しかし、キモがっている場合ではない。ディートリヒは虚空に指を動かして魔法陣を描き始めた。これはクーデルカのときにも見た魔法発動の動作だ。しかも、クーデルカは片手で陣を描いていたが、ディートリヒは両手を使っている。陣も複雑で大きい。これはヤバい魔法が来るんじゃないか。

 

 「遠距離から魔法攻撃なんて卑怯だぞー!」

 

 「フハハハ! 己の弱さを恨め!」

 

 魔剣の射程範囲はかなり広いが、ディートリヒには先ほどの戦闘で見切られている。それだけ敵も遠くにいることになる。どんだけ大規模な魔法を撃つ気だ。さすがの『早討ち』でも魔法を防ぎきれるかわからない。そもそもこれ防御に向いてない。ちょっと焦る。

 

 「まあでもなんとかなるか」

 

 だが、不思議と切迫感はなかった。なんとかなるような気がする。もしかしてこれも“傲慢剣”の効果なのだろうか。気持ちが傲慢になっているのか……だとしたらあんまり良くないことだ。油断しすぎないように気をつけないと。

 

 ディートリヒはとんでもない速度で陣を完成させてしまった。邪魔する隙もない。陣が輝き、魔法が発動する。というその寸前、なぜかディートリヒは空中の陣をかき消した。

 

 「『高潔なる騎士は遠距離から魔法攻撃を撃つという卑怯な真似はしない』!」

 

 あっそう…………何がしたいんだ、こいつ?

 


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