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13話

 

 グッ

 

 「ん!?」

 

 引き抜いた。つもりだったが、抜けない。まるで鞘が接着されているかのようにギチギチに固まっている。くそっ、あんだけカッコつけておいて、こんな間抜けなオチだなんて恥ずかしいにもほどがある。

 

 「きっ、さま……ァ!」

 

 まずい! 怒りの声があがる。慌ててそちらに振り向くと、体が半分になったディートリヒがこっちを睨んでいる。肩口からわき腹にかけて、まるで袈裟がけに切り裂かれたかのように胴体が分離しているのだ。

 

 いったい何を仕掛けようとしているのか。とにかく黙って見ている暇はない。早く剣を抜いて戦闘態勢を整えるべきだ。

 

 グッグッ

 

 「うわあああ! なんで抜けないんだああ!?」

 

 魔剣ドーピングで筋力も上がった気がしていたのだが、気のせいだったのか。それとも、選ばれし者にしか抜けない伝説の聖剣みたいな設定でもあるのか。全力を振り絞って抜こうとするが、ビクともしない。

 

 グググッグッ

 

 「ま、まてっ、ゴバッ!? きさまいったいグボォ! なにを……!?」

 

 一方、ディートリヒの方はと言うとさらにカオスな状況になっていた。何やら体が5等分くらいの大きさのブロックになっている。何のスキルを使っているのか。それぞれの肉塊が連携しながら飛びかかってきそうで怖い。そうなったらマジモンのホラーだぞ。

 

 「こんの……抜けろっつってんだろうがああああ!」

 

 ググググーッ!

 

 必死で抜剣しようと試みるが、どうにもならない。それを嘲笑うかのように、部屋中に無数の傷跡ができ始めた。まるで巨大な刃物で切り裂いたかのように、壁やら家具やらとにかく滅茶苦茶に切断されていく。クーデルカの体も無残に両断されている。ディートリヒの体も再生する端から次々に切り払われていく。

 

 ……え? これディートリヒがやってるんじゃないの? むしろ彼はやられている方に見える。じゃあ、この斬撃はどっから来てんだよ。今のところ奇跡的に俺は当たっていないが、いくら【再生強化】を持っているからと言って食らいたいものではない。

 

 まるでカマイタチだ。一瞬で斬り跡が量産されていく。室内は斬撃の嵐だ。しかし、俺はいまだに無傷。さすがにおかしいと気づいた。手を、剣から離してみる。

 

 嵐が止まった。

 

 「俺のせいかよ!?」

 

 どうやらこの魔剣の効果らしい。びっくりした。だが、そうとわかれば頼もしい。抜こうとしただけで斬撃が走る剣。まるでとんでもない速度で早斬りしたような……いや、感覚としては早撃ちと言った方がいい。もはや銃器をぶっ放す感覚なのだ。よし、この技を『早討ち』と名付けよう。

 

 パラパラ……

 

 感慨にふけっていると、上から何かの破片が落ちて来る。見上げれば、天井に走る無数の斬り傷。その隙間からボロボロと土がこぼれ落ちている。なんで天井からこんなものが。

 

 メキッ!

 

 柱が折れまがった。壁が崩れ、土砂が流れ込む。もしかして、ここって地下室だったのか? 吸血鬼の隠れ家なんだからそれも不思議ではないか。

 

 そうこうしているうちにどんどん天井から落ちて来る土屑の量が増えていく。暴れ過ぎたかもしれない。これ崩落するんじゃ……。『早討ち』があっても、生き埋めにされたらたぶん身動きが取れなくなる。

 

 「よし、逃げよう!」

 

 ダッシュで離脱を計る。そのとき、倒れ伏すクーデルカの姿が目にとまった。彼女も逃げようとしているが、ふらついて立ち上がれずにいた。真っ二つにされた傷は見た目上、回復しているように見えるが、内部の組織は完全に再生しきっていないのだろう。

 

 「……」

 

 はっきり言って、助ける義理はない。俺を殺そうとしていた相手だ。そうしなければならない状況だったとはいえ、殺されかけたのは事実だ。ここで見捨てたところで文句を言われる筋合いはない。

 

 でもまあ、別にそこまで嫌っている相手でもなかった。ヴァイデンの姉上が初登場したあのとき、最初の爆発のときにクーデルカは俺を守ってくれた。故意か偶然か知らないが、少なくともあのときは、俺を抱きしめて爆風の衝撃を和らげる盾となってくれたのだ。

 

 「行くぞ!」

 

 「あっ……」

 

 悩む必要はない。助けたいか、助けたくないか。好きな方を選べばいい。その程度の余裕を見せる“傲慢さ”は持ち合わせていた。俺はクーデルカの手を取って肩を貸す。

 

 「どこに行く気だッ! この吸血屍人ゴミクズがあ!」

 

 ちっ、だいぶ細切れにしてやったのに、もう復活しやがったのか。振り向きざまに追加の斬撃をお見舞いする。

 

 「オラオラオラオラオラオラオラオラ!!」

 

 レーザーカッターで裁断されたように肉のブロックと化すディートリヒ。ついでに近くの壁や天井を壊して瓦礫の下敷きにしてやった。

 

 急いで部屋の外に出る。外の廊下は予想以上に短かった。廊下というかただの通路だ。すぐそこに出口が見えている。外の光が差し込んでいた。

 

 地下室ではなく、構造は洞窟だった。さっきまで俺たちがいた部屋と、その向かいに一室があるだけの2LDKである。吸血鬼真祖が住まう場所というのだから、てっきり恐ろしげな古城みたいなのを想像していたが、現実は質素だった。ヤンデレ(デレ抜き)姉ちゃんからの逃亡生活みたいだったからしかたないね。

 

 「うおっ!? まぶしっ!」

 

 外は昼間のように明るかったが、空には月が出ていた。まだ夜だ。【闇の者】によって強化された夜目のおかげで視界は良好である。俺はすぐに、今しがた脱出を果たした洞窟の入り口目がけて『早討ち』を放つ。

 

 「オラオラオラオラオラオラオアロアオラオロアオラオオラァ!」

 

 数多の斬撃を飲みこみ、ついに音を立てて洞窟は崩落した。土煙がもうもうと立ち込める。これでディートリヒは本格的に生き埋めだ。

 

 「やったか!?」

 

 徐々に風に流されて晴れていく土煙の中から、人影が姿を現す。目つきの悪い青年は、その眼光に強烈な殺意を宿して俺を見つめていた。

 


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