6月の恋
季節は静かな雨を伝えはじめ、降りそうでまだ降らない今日の空を見つめながら君は、僕の手をそっと握って淋しそうな溜息をついた。
時々、他の恋人たちが、幸せそうに手をつないでいるのを見る。何の悩みもないのだろうと、ただ羨ましく思っていた。君とこうして手を握るまでは。恋人同士しかわからない、二人の未来は。
桜の季節に僕たちは出会って、それとなく打ち解けあい、いつの間にか特別な感情を抱くようになっていた。恋はもっと激しいものだと、友人の何人かは僕に言ったけれど。必ずしもそうじゃないと、君の前で思う。
反対されるのが怖くて、どんな大人にも言えずにいた。大人はいつも、型にはめるのが好きなのだから。きっと僕のこの大切な感情も、ありきたりな名前をつけて納得しようとするのだろう。そんな事、して欲しくなくて。やっぱり言えない。
自由というものがもしもあるなら、それはこんな半分憂鬱な、半分不安な感情なしにはあり得ないのだと知った。
君は僕をどう思っているのだろう。「もうすぐ降るのかな」と僕は君を見ずに言った。この恋は、奥行きだけが続いている、迷路みたいだった。どうしたら本物の君にたどりつけるのか、手を握っていても、やっぱり少し寂しかった。
恋人同士しかわからないはずの、二人の未来。だけど本当は、神様にしかわからない。
そうしてやっぱり今日も、雨が降りだした。納得したように僕と君は、互いに少しの間見つめあった。もう少しだけ、君の隣にいられるような気がして。それでも何だか、不思議な力が働いて、僕らは引き離されはしないかと不安を抱えて。
色々なものが、当たり前のように壊れていくこの世界の中で。もしも永遠というものがあるのなら、それは思い出の中にしか存在しないのだということ。
そんな事を思い煩いながら、僕はやっぱり、君の手を離してはいけないと、静かに願って雨を眺める。
雨は今日も、僕らを包んでくれていた。