1日目〜はじまり〜
絵本、それはたくさんの思いが詰まっている世にも不思議な本
楽しい物語に悲しい物語、桃から太郎が生まれたり、太郎が熊と戦ったり
そんな絵本の中に入れたらどれだけ楽しかっただろうか、夜寝る時にお母さんが読み聞かせてくれた絵本「ユミールと青空の巨人」
主人公の女の子が病気の母のために青空の巨人の家にある薬を取りに行く話だ。
私は今その本を探している途中だった。
作者も不明、分かってるのはタイトルだけネットで探しても、古本屋に行っても見つからない。
母は本が好きだったらしい、特に絵本が好きだったらしい、何故らしいかと言うと私は母の記憶がほとんど無くなってしまっているのだ。
頭の病気なのだと、みんなはまだ若いのに可愛そうだとか勝手な事を言っているけど記憶がなくなるだけで死んでしまうわけじゃないし、今書いているこの日記だって私にとっては書いたことすら忘れてしまうその程度なのだから。
いつか、私が全てを忘れてしまう前にあの絵本を見つけたいこれが私の最後の夢だ。
チュンチュンチュンチュン
カーテンの隙間から差し込む朝日と小鳥の鳴き声で目が覚める。
景色は一面白、白いカーテン、白い天井、白いベット
私は病院に居た。
記憶が無いのだから仕方ない朝起きたら日課のようにナースコールを鳴らす。
鳴らせばものの5分もしないうちにいつもの優しい看護師さんがやって来る。
だけど今日は違った、昨日の夜自分で書いたであろうクシャクシャのメモを握りしめていた。
そのメモには私の字で桃太郎と書かれているが記憶を辿ろうにも記憶が無い、しかし私は不思議と何かに導かれるように枕元にあった1冊の絵本を手に取る。
「ももたろうだ…」
私は自然に声が出た。
その瞬間だった。
「誰だい、俺の名前を呼ぶのは」
私は驚き絵本を枕の下に隠した。
それから一呼吸置いて冷静になり、もう1度絵本を枕の下から取り出す。
「おい、誰だか知らないけどちょうど良かった助けて欲しいんだ」
やっぱり絵本の中から声が聞こえる。
「助ける?何かあったの?」
状況を受け入れないままに会話を進めた。
「誰かに家来を奪われたみたいなんだ、早く鬼を退治しないといけないのに…」
「私に何かできることがあるの?」
ガラガラガラ
突然に病室の窓が開くと、そこには胡散臭い風貌の一人の男がいた。
「病院で本に話しかける少女さん、やっと見つけたよなんにも言わなくていい、だって話してわかることじゃないでしょう…行って見ておいで、そして思い出しておいでよ」
「えっ?」
次の瞬間、私は既に絵本の中にいた。