掃討
簡単な任務だ。狩人たちは誰もがそう思っていた。まさか外部からの侵入があるものかと帝国の兵士の誰もが考えもしないことをしているのだから。不意を打つのは簡単なことだと考えていた。
物陰からこっそりと弓を引き、音を立てずに一人を殺す。そしてその一人に釣られて近寄ってきた別を再び射抜く。狩人の常套手段だ。それにたとえ気づかれたとしても遠距離から悠々と狙えるだけの距離はとっている。反撃を許すことのない、一方的な攻撃を続けられる。
近づくことなく敵を排除すること自体、難なくこなし順調そのものであったが若い兵士はいても立ってもいられなかった。敵味方に別れてしまったとはいえ、敵の中には見知った元同僚がいる。たとえ殺さなくてはならないとわかっていても、そう簡単に割り切れるものではなかった。
なんども急所を外すように狩人に頼むが、バカを言うなと狩人に鼻であしらわれる。その繰り返しの問答を指定いるうちに、いつしか狩人からは相手にされなくなり、兵士は押し黙るしかなくなった。もしかすればまだ息がある兵士もいるのではないか。儚い希望を抱きながら手を横たわる死骸の口元に当てて見るが、手の平に測れる息はなく無駄に終わった。
己の手を汚さずに済んでいるというのに、何をしているのかと狩人たちは思うが、陰口を叩くほどの余裕はない。兵士を睨むだけに止めておく。
「若造、行くぞ」
狩人が兵士に向かって静かに言葉をかける。兵士、若造は仲間だったはずの兵の亡骸から離れると、すぐに仮腕に追いついて後を追いかける。
しかし、それまで順調であった狩人たちの足並みが、二階をすぎて一階へと降り立った時に止まった。何事かと狩人の一人に若造は尋ねるが、口を抑えられ、それ以上言葉を吐くことができない。
彼らの足は階段を降りて次の曲がり角を過ぎようかというところで止まっている。狩人達と若造は窓枠の下まで体を屈ませ、注意深く曲がり角の先を見つめる。
廊下の先から歩いてくるのは二人の兵士。隣り合っているように見えたが、実際は前後に分かれていて、見え方によって並んでいるように見えているだけだ。
ここは二人同時に殺してしまった方がいい。狩人は仲間に目配せをし(この時近くに若造がいたものの、使い物にならないと判断して見もしなかった)一人の狩人が意を決し廊下の中心へとおどり出る。
突然の登場に兵士たちが反応を見せる前に、弓をしならせて狩人の矢が兵士の一人の目を捉える。眼球を貫いた矢は兵士の後頭部へと突き抜け、絶命させるに十分な致命傷を与える。ぐらりと後ろへと首を傾けた兵士は言葉を発することなく、また後ろへ傾いたまま仰向けに倒れていく。
敵だと気が付いた兵士はすぐさま剣を抜いて狩人に挑みかかろうとする。しかし、物陰に隠れていたもう一人の狩人が曲がり角より矢を打ち、兵士の喉を撃ち抜いた。
目の前の敵を仕留めたことでつかの間の安心を得られた彼ら。しかし、それが油断に繋がったのか、廊下の先。曲がり角に隠れていたもう一人の存在には気がいかなかった。
狩人の放ったものではない風切り音が廊下に響く。何事かと考える前に、廊下に立っていた狩人の口からくぐもった声が吐かれる。見れば、狩人の脳天を一本の矢が貫いていた。
ゆらりと揺れる仲間の体。悲鳴をあげることなく、また仲間への悔やみをいう暇もなく、物陰よりこっそりと廊下の奥を覗く。すると、聞こえてきたのは警笛の声。甲高く耳障りなその音色は、静寂を切り裂いて館に響き渡る。まずいと思ったのは狩人ばかりではない。怖気付いていた兵士もまた冷や汗をタラリと額から溢れていく。
狩人の一人はしんがりを務め、残る狩人は兵士をひっつかまえて後方へと走る。そしてポーチの中から煙幕を掴みだす、思い切り床に叩きつける。篭った破裂音の後に白煙が廊下に立ち込めてたちまち視界を奪っていく。狩人は首に巻いていた布で口を塞ぎ、引き連れていた兵士は鼻と口を塞いで息を止める。
一息に煙を走り抜ければ、背後からはぞろぞろと、どこに隠れていたのか鎧を着込んだ兵士たちが追いかけてくる。たった一人の足止めではなんの意味もなかったらしく、悲鳴だけが廊下から二人を追いかけてくる。殿を務めた奴の運命なぞ想像するに難くはない。しかし、想像すれば胸糞が悪くなるばかり。それより己の命可愛さに逃げてしまう方がよっぽど有益だ。
脇目も振らず廊下を走り、階段の手前までくる。すると、上からもいくつもの足音が聞こえてきた。このままでは挟み撃ちになってしまうが、けれども進まないわけにもいかない。一階に隠れでもすれば虱潰しに探されて、いくら屋敷が広いとは言えすぐに見つかってしまうのがオチだ。
階段を上がり、中段の踊り場へと差し掛かる。少し上を向けばいくつもの足が階段をふみ鋼色の獲物を握って待ち構えている。きっとにたりとあざ笑っているに違いない。囲い込んだネズミが噛み付いたとしても、少しの痛みを与えるだけで突破口は開けない。
さて、これはどうあがいても詰んでいる。投降したほうが身のためだが、命の保証は一切ない。待っているのは尋問か、拷問か。五体満足でいられる保証は一切ないが、ここで死んでしまうよりかは猶予がある。辞世の句くらいは用意ができるだろう。
「ははは、こりゃダメだ」
本当に追い詰められた時、人は笑ってしまうらしい。何かが可笑しくって笑っている訳ではない、もはやどうすることもできない現状に対して、ただただ呆れて笑うしかない。そういったものだ。
あちらがこちらに危害を加える前に、弓矢とナイフに手を伸ばし、床におろしていく。隣に立っていた若造は驚いたとばかりに目をまん丸開いていたが、止むを得ず自分も武器をおろしていく。
段上の兵士。つまりは二階部分にいる兵士が、抵抗する気合のない輩に肩透かしを食らったような気持ちでいたが、しかし一旦強者の立場に立ってしまえばそんなことはつゆほども気にならなくなる。
ニヘラと笑いながら階段をゆっくりと下る。狩人の横にいる兵士に視線をやると意外そうな表情を見せるが、すぐに興味も失せたのか視線を外して狩人をみる。
「ネズミが二匹も捕まったか」
ニタニタと優越感に浸りながら、兵士は狩人の頬に剣を当てる。頬に一筋の傷をつけながら、狩人の面を改める。男に対する公職持ちではないが、ツラを診終えた途端にふっとさらに頬を歪める。
「どうやら大層暴れてくれたようだが、ここでそれも終いだ。残りの仲間がどのくらいいるのか、洗いざらい吐いてもらおう。そっちの裏切り者にも、色々と聞いて診なければな」
その手の尋問が得意なのだろう。やけにゆっくりと剣で狩人の顔を撫で、襟首から下へと下げていく。
厄介な人間に捕まったものだと、狩人は内心ぼやくが、一言でもそれを口に出してしまえば神経を逆撫でて余計に自分の首を締めるだけであることは狩人自信もわかっていることだ。
と、その時だ。狩人の視線が目の前に立つ兵士から、二階より現れた人物の影に移った。狩人の視線の動きにつられて、兵士もまたそちらを向くように背後へと体を向ける。
「横にとべ」
二階より声が降ってくる。と同時に三階の踊り場の手すりから飛び降りた人物は狩人に剣を当てている兵士めがけて飛びかかる。狩人と若造は彼の言うままにそれぞれ左右に飛び退けば、彼の膝が背後を振り向こうとする兵士の頭を捉えた。
頭から彼、ジャックの全体重をまともに受けてしまった兵士は、受け止めることもできず、ただ床に顔を打ち付けるほかなかった。
くぐもった吐息が兵士の口より漏れ聞こえる。しかし、目を背中にのしかかる男へ向けようと思ったときには、すでにジャックの手が兜を握って引き上げ、剣が兵士の頸につき立とうとしていた。待てと兵士は口にしたように聞こえたが、その言葉はジャックには届かず、その場は兵士の血によって彩られることとなった。
「戦えるか」
無事か、怪我はないか。などと言う二人を案じる言葉はジャックの口からは出てはこない。その代わり、ついて出たのはその言葉だった。
「ああ、すまねえな。面倒なことになっちまった」
頭を掻いて、狩人はジャックに首を下げる。
「構わん。援護を頼む」
「了解」
それだけのやりとりだけだったが、狩人とジャックにはそれだけで十分だった。床に下ろした弓矢を拾い上げ、矢を番え、弦を引く。若造はようやく決意を固めたようで、剣を握りしめるときっと前を見据えている。
廊下の闇からは絶えず足音が響き、どんどんと階段の方へと近寄ってくる。姿が見える前から、ジャックは闇の中へと走りすすむ。階段を駆け下りて曲がり角より現れた兵士に振りかぶった一撃を叩き込む。咄嗟のことに慌てる様子の敵の頭が、壁に叩きつけられ、そのまま動かなくなった。兜をしていたとはいえ衝撃までも守ってくれるわけではない。そして、その兵士を殺さずにすておき次なる獲物へと狙いを変える。
足音だけでは把握はできなかったが、敵は合わせて7人ほど。うち一人はそこで伸びており、残るは6人。人数の有利さは兵士の間に余裕をもたらす。突然の襲撃によって一人を失われたとしても、一瞬動揺が走るだけで、それ以降の混乱はない。慌てずジャックに二人の男がかかる。
二つの剣が同時に振られ、一つはジャックの首を、もう一つは胴を狙って横薙ぎに振るわれる。ジャックは背後に飛びのくことで攻撃をやり過ごすと、一方の腹に蹴りを食らわせる。鎧があることで痛みはないが、それでも距離を足らせるには十分だ。たたらを踏んで後方へと兵士は下がる好きに、もう一方の兵士の相手をする。
敵は下方より剣を斬り上げてくるが、ジャックはそれを避けずに義手で持って掴んでみせる。一瞬だけは馬鹿や阿呆と脳内において罵った輩も、ジャックの手のひらで受け止められた剣を見てそうではないと考えを改める。
下手に抵抗をされては叶わない。ジャックは兵士が驚きを見せている間に懐へとにじり寄り、首筋に剣を突き刺す。そのまま横に首を掻っ切ると、肩で兵士の体を押し、兵士の背後に並んでいた仲間へ突き飛ばす。少しは足止めになろうと思ったものだが、温情なしの死体の同僚たちは、かの死体を受け止めることすらせず、ジャックへと切り掛かっていく。
一つを受け止めても、二つ三つの剣が迫ってくる。一人で一度に相手するには苦労をせざるを得ないが、しかしジャックは一人ではない。ジャックは剣を一つ一つ捌けば、階段から剣を握った若造が血気盛んに飛び込んでくる。
そこにもはや同僚だの、元は仲間だのという邪念は存在しない。若造の太刀筋に迷いはなく、敵めがけて振り下ろしていく。とっさに剣を腕で受け止めようとした兵士は、若造の剣によって腕を寸断されてしまう。
響き渡る男の悲鳴。腕を切られた兵士は血の滴る断面を抑えてきっと若造を睨む。それで怖気付いてしまえば、若造もそこまでの技量と度胸しか持ち合わさっていなかっただけ。しかし、若造はそれでは止まらなかった。
血のついた剣を兵士の胴を狙って振るう。鎧に阻まれ肉を切り裂くには至らなかったが、全力をもって振り抜かれた剣によって後方へと押しこむことができた。そして、悶絶する兵士の首に狩人の放つ矢が突き立った。
腕に首。痛む箇所を抑えようとするも手が足りず、恨みに染まった目で若造と狩人を睨みながら、兵士は倒れ伏せる。
一つに死体に気を引かれることなく、狩人は弦に矢を番えて引き放つ。緩やかな曲線を描き、真っ直ぐに兵士の脳天へと飛んで行く。しかし、その一矢は兜に遮られ兵士を絶命させるには至らず、兵士の首を衝撃で傾かせただけに終わる。折れ曲がった矢が床へと落ち、兵士たちの足に踏みつけられる。兵士の足はジャックに狩人、若造へと向けられ分散する。
それぞれに相手にするのは一人か二人、先ほどの様子よりも随分相手がしやすくなった。ジャックの前に立っているのは二人。この際意地なのか、血眼になってジャックを睨みつけている。
仕掛けてきたのは兵士の方からであった。一人が突っ込み、もう一人は懐からナイフを掴み取ると、ジャックに投げる。ジャックはナイフを弾くと、突っ込んできた兵士に相対する。
右の下段より切り上げられる一撃を受け流し、ジャックはさらに兵士の懐へと潜り込む。そして首根っこをむんずと掴むとそのまま兵士を壁に叩きつける。その隙をついて後方よりナイフを投げ込んできた兵士が、ジャックへ切り掛かってくる。
袈裟懸けに振り下ろされる剣をジャックは受け止め、間髪入れず兵士の股間へ蹴りを入れる。つま先がズボン越しに肉袋に突き刺さり、兵士の口からは嗚咽とも取れる絵が唾液とともに漏れ出していく。
悶絶する兵士を蹴り飛ばし、壁に叩きつけた兵士の顔を剣の柄で殴りつける。兵士の鼻はへし折れ、顔の真ん中に真っ赤な血が兵士の顔を彩っていく。痛みで苦しむ時間は少なく、次の瞬間にはジャックの剣は兵士の首を断っていた。傾いた兵士の首はズルと床に落ちる。そしてその首をジャックは拾い上げ、蹴り飛ばした兵士へと投げる。
股間を押さえながら、目の前に迫る仲間の顔に兵士は驚いた様子を見せる。兵士はすぐに手で首をはねのけ、剣をなんとか握りしめる。しかし、気づいた頃にはジャックの姿はどこにもない。どこに行ったと探してみれば、自分の真下に揺れる影を見つける。そちらに視線をやろうとすると、冷たい感触が兵士の顎に当たり、口内へ、そしてそこから先へと突き抜ける。
黒く塗りつぶされる視界。全ての感覚がなくなり、兵士の手は力なく垂れ下がる。剣をずるりと抜き去れば、吊り糸の切れた人形のごとく、床に這いつくばった。
二人を片付け残る敵を片付けようとすぐさま若造と狩人の方へ目を向けると、どうやら自分の手助けは必要なさそうだとジャックは理解した。二人はそれぞれ敵兵士に相対し、苦戦をしている様子ではあるものの、苦戦より先の段階へは行きそうにはない。
狩人は距離に応じて短剣と弓矢を交互に使い分け、兵士は未だ技量は未熟ながら、根気よく敵兵士の攻撃を受けて、避けて、致命傷を受けないようにしている。そして、その根気は若さがあるがゆえに時に武器となる。
若造へと振り上げた剣は体力の衰えの表れか、随分と大きなものだった。若造は兵士の攻撃を悠々とよける。兵士の剣は虚空を捉え、何もない空間を切り裂き、甲高い音を立てて床を叩いた。痺れが剣を通して腕に響いてくる。兵士は構わずに二撃目を与えようと腕に力を込める。
若造はこれを好機と見たのだろう。短く息を吐くと兵士の剣を蹴り飛ばし、大きく広げられた兵士の懐へとはいる。そして、兵士の足を両腕で抱えると力一杯、思い切り上に引き上げる。兵士はバランスを崩し、若造の力に誘われるままに背中を床に打ち付ける。強かに後頭部を打ち据えたことで苦悶が兵士の顔に浮かんでくるが、その顔がさらに歪むことになったのは、兵士の腹の上に若造がのしかかってきた時だった。
うぐっ、と苦しげな吐息を漏らす兵士だが、それどころの騒ぎではないことはすぐに気がつく。兵士の上にまたがった若造は握っていた剣を兵士の首目掛けて真っすぐに突き下ろす。兵士は両手で刃を握り必死に堪えるが、体重のかかる剣を両手で挟んだところで止めることはできない。どうしても隙間が空いてしまい、ずるずると兵士の首元へ落ちていく。そしてついに兵士の肌を剣先がなぞるまでに近寄った。
この際なりふり構ってはいられなと兵士は体を揺すり、若造を自分の体から落としにかかる。そうはさせまいと足で兵士の体を挟み必死にしがみつく。しがみついてなお剣に入れる力を緩めることはなく、落としていく。皮が貫かれ剣は確かに兵士の肉を貫いていく。
痛みは力を緩め、また兵士に恐怖を与える。剣がまた深く首に入ると、兵士の体がさらに暴れ、跳ね回る。構わずに剣を辛いていけば、肉はきれ避けに傷口が広がっていく。口からは血反吐が溢れ喉を詰まらせる。
ぐっ、ぐっ、とさらに押し込めてやれば兵士の体が一段と跳ねて、それ以上動かなくなった。痛みでこわばり怨念に染まった兵士の双眸が若造を睨みつける。それは生き絶えたとてその視線を若造からそらすことはなかった。
若造が兵士を殺す時を同じくして、狩人もまた相手をしていた兵士の命を立った。眼窩に二つの矢が刺さり、トドメとばかりに狩人の探検が兵士の首を掻っ切る。膝から崩れさる兵士は仰向けに倒れて行った。
敵勢力の討伐は果たされ、ようやく一息をつける。3人は3人が互いに顔を見合わせて一抹の安堵を享受する。しかし、まだ警戒を解くには早い。未だどこに残党がいるとも分からない。二階、三階と同様に一部屋づつ見て回り信徒に討伐を果たしたことを確認してからでも、警戒を解くには遅くはない。
「流石に、手を焼く相手ではなかったか」
顔についた返り血を手でぬぐいながら、狩人がジャックに言う。
「部屋を見て回れ。用心は怠るな」
しかし、狩人の言葉にジャックは反応を示さない。ただそれだけを伝えるとジャックは廊下の奥へと進んでいく。
「へいへい。仰せのままに」
肩をすくめる狩人は、若造の方へと近づき肩を叩く。
「お前もお疲れさん」
労いの言葉をかけながら、ジャックの後を狩人は追っていく。
若造は剣を握りながら、半ば呆然とどこか遠くを見つめていた。我に返った時には若造一人がその場に取り残されていて、慌てて二人の後を追っていく。
一階にいた兵士はどうやら廊下で倒しただけの人数しかいなかったらしい。客間らしきベッドの並んだ部屋には、乱雑にめくられたシーツが乗ったベッドが並んでいるが人はいない。また食料庫だろうか。いくつもの野菜が木箱に入れられて保管されている部屋があるが、ここにも人はいない。
あらかたの部屋を見て回り、敵はいないと判断すればようやく剣を収められる。
「三階に戻るぞ」
それだけをいうとジャックは三階へと階段をのぼる。少し遅れて狩人と若造がついていく。犠牲は出したものの、目的を全て達成することができたのは、喜ばしい結果だ。
窓の外を見れば、闇の色にうっすらと青が濁り始めている。もうすぐ夜があける。迎えがくるまでにいくばくか時間を持て余すことになるが、それも体を休めると考えれば苦にはならないはずだ。ようやく一息つけると思えば、ジャックの肩も少し楽になる。
しかし、部屋に戻った彼らに待っていたのは、喜びには似ても似つかぬ悲しみを浮かべる面々だった。




