表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【絶賛改稿中】戦死転生  作者: 小宮山 写勒
第二章 新生活
32/122

2-14

 エリスの家へと移動した三人は、一晩の宿とするために家の中を一通り片付けていく。

 散らかった皿やグラスの破片を掃き集め、倒れた家具などを立て直す。

 血のりを雑巾で拭き取り、あらかたの汚れをとる。

 その全てを終える頃には、とっぷりと日が暮れて、あたりはすっかり暗くなっていた。


「何か狩ってくる」


 ユミルはそう言って一人弓を担いで家を後にする。

 ジャックとエリス、二人きりとなった家の中。

 ジャックは暖炉に火を灯し、暖をとる。


 火が大きくなるにつれ、家の中に灯りが行き渡っていく。

 ジャックは無言のまま、火の中に薪をくべて、勢いを強めていく。

 エリスはその後ろで椅子に座っている。


「……満足したか」


 下を向いていたエリスの顔がゆっくりと上がり、ジャックの背中を見つめる。

 その目は赤く、涙で腫れている。


「魔物達が憎いか」


 ジャックは肩越しにエリスを見る。コクリと頷くのが見えた。


「お前の家族を殺したのも、お前の友人を殺したのも、全て魔物だ。人間もエルフも、その他の種族も関係ない。仲間が殺され、その恨みを殺した奴と同じ種族に向ける。至極当たり前の事だ」


 ジャックの投げ入れる薪木が炎に飲まれ、煌煌と火の手を強めていく。


「だがな。憎しみはたちの悪い麻薬みたいなものだ。いつまでもまとわりつき、人をどんどん悪い方向に操っていく。自らで克服しなければ、死ぬまで殺戮からは逃れられない」


 エリスが聞いているかは分からない。だが、ジャックは言葉を続ける。


「お前はそうなるなよ。そうなれば私と同じ、人でなしの仲間入りだ。それは村の連中の望んでいることではないし、お前の両親も、娘の手が血まみれになってまで、自分たちの復讐を望んじゃいないはずだ」


「じゃあ、どうすればいいの。魔物達を許せっていうの」


「家族や友人達を思って祈ってやれ。今のお前に出来る事はそれだ」


 このとき、初めてジャックはエリスに向き直る。膝を追って屈み、泣きはらした目元を拭い、彼女の膝の上で握られた拳を、ジャックは手で包み込む。


「何かを恨み、憎むことは罪ではない。だが憎しみを糧に生きていく事はするな。憎しみを正当化するような者にはなるな。正義やら大義やら、御託を並べた所で所詮はそれを隠すための綺麗ごとにすぎない。どれだけ大層な事を言っても、最後に残るものは、虚無感だけだ」


 そう言って、ジャックの腕は自然とエリスの頭へと向かい、そっと、そしてどこかぎこちなさを残したまま、エリスの頭を抱き寄せる。


「これから先、同じ事起こるとも限らない。そうなったとき、お前は憎しみの虜にならないよう、強くならなければならない。精神(こころ)肉体(からだ)も、両方をな。まだまだ時間はある。私が死ぬまでにそうなってくれ」


 耳元でそう語りかける。

 エリスは自分の言葉をどう受け取ったかは、ジャック自身には分からない。届いていないかもしれない。あるいは聞き流していてしまっているかもしれない。


 ただジャックのの胸に顔を埋めるエリスは、喉をひくつかせて泣くばかりだった。そ

 れを鎮めることも、やめろと言うこともない。

 ただ彼女の気がすむまで、ジャックはエリスを胸の内に抱き続けた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ