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【絶賛改稿中】戦死転生  作者: 小宮山 写勒
第二章 新生活
29/122

2-11

 二日間の旅の終わり。ギルドに約束の薬草を納品し、報酬を受け取る。


「お疲れ様でした」


 受付嬢のその一言が、冒険者としてのジャックの初仕事を締めくくる言葉となった。


報酬は約束通りジャックが七割、三割をユミルが受け取った。

ここから家賃や食料などの雑費を引けば、おそらく手元に残るのは本来の半分ほどの金額だろう。

 しかしもう一人を養うには、少し心もとない金額だった。


 だが、その心配は杞憂に終わる。

 というのも、ジャックがユミルを連れてアパートへと戻った時、思いもよらぬ光景に出くわしたからだ。


 アパートの一階にはディグの経営する居酒屋兼ダイナーがあるのだが、ちらりと窓越しに中をのぞいた時、見慣れた顔が給仕として働いていることに気づく。

 エリスだ。黒いワンピースの上から白いエプロンをつけて、走るたびに髪紐でまとめた髪が、ゆらゆらと揺れている。


 何をしている。と声をかけようとも思ったが、いつかエリスの言葉をその時思い出した。元から彼女は自力で稼ごうと考えていたのだ。その働き口を、一階のダイナーで見つけたらしい。


「何、あの子にまで働かせてるわけ?」


 信じられないと言わんばかりの口調で、ユミルが言う。


「あいつが決めていたことだ。私がとやかく言う問題ではない」


「でも、まだ子供なんだから、無理させなくてもいいじゃない」


「文句があるのなら私にではなく、あいつに言ってやれ」


 ジャックは店の玄関を開いて中に入る。と、エリスが不意に玄関に顔を向けた。


「い、いらっしゃい」


 ぎこちない笑みを浮かべて、気恥ずかしそうに頬を赤らめる。


「ここで働くのか」


「う、うん。ディグさんがちょうど手が足りないから、働いてもらおうって。許してくれた」


「そうか」


 当のディグといえば、カウンターで何やら作業をしていて、こちらには一切顔を向けてこない。

 ちらりと視線だけを向けると、すぐに背中を向けて厨房へと入っていった。


「仕事は、終わったの?」


「ああ。……今時間はあるか?」


「えっ、うん。ちょうどお客さんもまだだし、時間はあるけれど」


「ユミルとともにお前の村に行くことになった」


 エリスは息を飲んだ。思いも寄らない提案に彼女の思考が停止する。

 思わず落としそうになったグラスを、ジャックが掴み取った。


「ユミルが村人達の弔いをやる。私はその護衛だ。お前の意思次第では連れて行くことも考えている。もちろん、嫌ならやめていい。お前が決めろ」


「急に言われたって決められないでしょ? ゆっくり考えていいのよ。別に、今すぐに発つって訳じゃないからさ」


 ジャックの物言いに思うところがあったのか。

 ユミルはジャックの背後から前に出ると、エリスの視線に合わせて膝を折る。

 頭を撫でながら、優しい声色でそう言った。

 エリスは俯いたまま、黙っている。指を組み合わせては解いてを繰り返す。


 椅子に腰を下ろして、エリスの答えが導き出されるのをジャックは待った。

 

「……行く」


 エリスの口から、思った通りの言葉が出てきた。

 予想通りの答えだ。


「うじのわいた死体。白骨化した死体。村にあるのはそんなものばかりだ。生きているものがいるなんていう期待は持つな。いいな」


 まっすぐに目を見つめながら、エリスは頷いた。


「予定は追って伝える。いいな」


「わかった」


「よし。……ここはもういい。仕事に戻れ」


「うん」


 淡々とした返事。それを返すとエリスは立ち上がって、カウンター奥へと向かっていく。


「優しいのね」


 ユミルが言う。


「他人に興味がないだけだ」


 ジャックはそう言うと、階段へと周り自室へと戻っていった。

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