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それから数日たったある日。アパートにユミルがやってきた。エドワードから住所を聞き出して、顔を出したのだという。突然の訪問に驚きはしたものの、ジャックは彼女の部屋に招き入れる。そこで、二人のエルフが初めて対面することになった。
いや、初めてというわけではなかった。ユミルがジャックを射抜いたという話は、以前に話してあるためここでは省略させてもらおう。ユミルの話では、エリスとともにジャックを村に運んだのだから、お互いに知らない中ではなかったはずだ。
「久しぶり」
「うん。久しぶり」
短いやり取りだったが、お互いにそれ以上の言葉は必要なかった。
ユミルは早速、今日訪れた理由を説明してくれる。先日ジャックと約束した依頼が見つかったようだ。
本当ならばギルドで待ち合わせていたから、その時に見せればよかったのだが、ついでだからと伝えにきたらしい。
内容は薬草採取だが、特殊な場所に行かなければ取れないために、報酬はそれなりに高くつく。
証拠として依頼書を持っていたため、ジャックはそれに目を通す。確かに、ユミルのいう通りだった。
「これでいいかしら」
異論はなかった。早速受理をするために、エリスに留守を任せて二人はアパートを出た。
午前十時を少し過ぎたくらいに二人はギルドについた。仕事に出ているのか。それとも多くの冒険者が休養を取っているのか。ギルドの中は閑散としている。ユミルを先頭に、ギルドの中を進み受付へと向かう。
受付嬢に依頼書を提示すると、早速手続きに入った。が、作業はそう難しいことはない。前もって受け取っていた会員証を店本人であることを確かめると、冒険者の名前が刻まれた印鑑で、捺印していく。それが 終われば、今度は冒険者自らで署名欄にサインをする。これだけである。
数分のうちに手続きを終えると、その足で遠征の準備に入る。依頼された薬草が生えているのは、帝都から二日はかかる場所だ。そのために最低でも食料と水を用意しておく必要があった。
あらかたの買い出しを日中に終えて、帰宅の途につく。食料をユミルが、水をジャックが分担して預かルことになった。が、彼女の住むアパートまではジャックが運んだ。自ら買って出たというよりも、ユミルから自然に渡され、運ばされているといったほうが正確だろう。
袋を背負って歩いてみると、なかなかどうして重く感じる。ユミルの住んでいる場所は、ジャック達のアパートからそれほど離れた場所ではなかった。似たような立地にあるコンクリートの建物。頑丈そうな見た目とは裏腹に、中に入ってみると、木材の温かみを感じるフロントに出る。
大家らしき老人が、ロッキングチェアに座って、うたた寝をこいている。彼の首が動くたびに、椅子がゆらゆら、ゆらゆらと揺れ動く。ユミルとジャックはかの老人を起こさぬよう、足音を忍ばせて登り階段を上った。
一つの階に一つの部屋という、作りになっている。そのため独り身には贅沢なくらいの、広い室内だった。リビング、キッチン、寝室。さらにはちょっとしたベランダまで。なかなかにいい部屋だった。
広さの割に家賃が安いのだ。というユミル。なるほど、もう少し探していれば、こういう風な物件にも出あてかもしれないと、ジャックは思う。しかし、もはや時すでに遅し。いまさら変えるつもりも、変える金もなかった。
荷物を置くと、ユミルとはその場にて解散をすることなった。
「荷物を運んでくれてありがとう。馬の方が私が手配しておくから、心配しないで。初めてのお仕事、楽しみにしておいて」
ユミルはそういって、ジャックを見送った。
ただの金稼ぎに、ジャックはそこまでの情熱を燃やすことはできなかった。




