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【絶賛改稿中】戦死転生  作者: 小宮山 写勒
第二章 新生活
24/122

2-6

 翌日からジャックとエリスの引っ越しが始まった。と言っても、そう大層な荷物があるわけではない。エリスの場合には、シャーリーやアリッサからもらった衣服と下着。ジャックの場合は新たに買い足した衣服と、武器、装備があるほで、大した量はなかった。


 荷車に詰め込んでみると、それでもあまりが出た。隙間を埋めるように、エドワードが選別だと酒をいくつか詰め込んでくれる。準備は朝のうちに終わり、午後には出発の途についた。


 家で見送るとばかり思っていたが、エドワード達は、引っ越し先にまでついてきた。そこまでする必要はないと、一応ジャックは断ってみたのだが、アリッサのためとそれなりの理由をつけて、エドワードは彼の言い分を聞き入れようとはしなかった。


 こうなってしまっては仕方がないと、ジャックはそれ以降何も言うことはしなかった。諦めもあったが、エドワードの言い分も理解できたためだ。


 エリスと寄り添うようにアリッサと、そしてシャーリーとが仲良く歩いている。それはそれは楽しそうで、どこか邪魔のできない雰囲気がある。ジャックがここでどうしてついてくるのだと、問い詰めることこそ無粋というものだろう。そのくらいの甲斐性は、ジャックにもわずかにながら残っていたのだ。


 アパートに到着すると、ディグに挨拶をして、部屋に入る。

 荷物を用意された箪笥に詰め込み、部屋の掃除をする。五人で分担してしまえば、あっという間に方が付く。それから男二人は酒を酌み交わし、女三人はシャーリーが用意した紅茶を楽しんだ。


 それだけでも気づけば夕暮れ時に差し掛かっていた。


 引っ越し祝いにと、この日はエドワードの好意によって、ささやかな夕食会を執り行われることとなった。場所は一階のディグの店。本来は居酒屋という名目なのだが、金を払ってくれるのであれば、酒を飲まずともいいという風だった。


 テーブル席を用意して、料理を注文する。ディグはそれを聞き届けると、厨房へととって返す。そして再び姿を現した時には、トレーにいくつもの料理を載せていた。


 ミートソースをかけたパスタ。鉄板に乗せられた熱々のハンバーグ。湯気のたったシチュー。カリッとあげられた細切りのポテト。チーズを混ぜ込んだ焼きたてのパン。クラッカーに果実酒。


 どれもこれもが食欲をそそり、芳しい匂いを放っている。

 子供達が急いで手をつけて、その後を大人達がゆっくりと味わう。ディグは他の客の応対にせわしなく動き回っている。しかし、忙しさをおくびにも出さずに淡々と料理を運ぶ様は、なかなかどうして目を奪われてしまう。


 この店は一人で切り盛りしているという話だが、なるほど確かにあの様子では一人で事足りる。妙に納得してしまったが、エドワードに促されて食事に戻った。


 さて、夕食会が終わって、エドワード家族との別れがやってきた。別れを惜しむように、アリッサとエリスは何度も会う約束を取り交わしている。短い間に随分と仲良くなったものだ。ジャックは静かに感心する。


 そしてついに二人きりになって、部屋に戻る。互いのベッドに横になって、あとは朝になるまで眠りに通までだ。


 …………

 ………………

 ……………………


 それから何時間が過ぎただろうか。気配を感じてふと目が覚めてしまった。

 やおらに起きようとした時、個室のドアが開かれる音が聞こえた。肩越しにチラとみてみると、そこにはエリスが立っていた。


 彼女はおもむろにジャックの方へと歩いてくる。そしてベッドの脇に止まると、じっと彼の背中を凝視する。


 一体こんな夜中に何の用だろうか。疑問に思いながらも、彼は背中を向けたままで様子を見ることにした。


「わがままを、聞いてくれて、ありがとう。それと、ごめんなさい」


 ポツリとエリスがつぶやく。それは自分の願いを聞いてくれたジャックに対しての、心からの感謝と謝罪だった。


「貴方にしてみれば、いい迷惑、と思う。それは、私にも、わかる。見ず知らずの子供に、無理強いされて、きっと怒ってるよね」


 自虐するような口調でエリスは言葉を続けた。


「だから、これからは、自分のことは、自分でやる。貴方に迷惑をかけないように、ちゃんと働くし、貴方の助けになるように、頑張る。長い間貴方の世話には、ならない。約束する。だから……」


 どうか、見捨てないで。

 そう言い残すと、エリスは足音を忍ばせて部屋を出ていった。

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