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ユミルとの親交を深めているうちに、彼女からある提案を持ちかけられる。
それはジャックの初仕事に自分も一緒にやろう、というものだ。これにはジャックもエドワードも多少なりとも意外そうな表情を見せる。
報酬はジャックが七割、ユミルが三割とジャックに有利な条件だ。これは先日の比例のお詫びとジャックの初仕事祝いを兼ね備えている。こちらに有利とあれば文句はなく、それに経験者と行動できるのであれば、要領を覚えることもできるだろう。
エドワードから一切反論はなかった。明日までに依頼を選んでおくから、またここで会おう。と約束をしてユミルと別れた。
ギルドを後にした二人は、その足で帝都内の店を訪ね歩いていった。服飾店、薬屋、鍛冶屋、雑貨屋。などなど、エドワードの薦める店を一軒一軒回っていく。そうしているうちに、とっぷりと日が暮れ始めていた。
帰宅の途につく二人。前をエドワードが、その後ろをジャックがついて歩く。エドワードの持つカードを使えば、早く帰れるのだが、ここはあえて歩こうとエドワードが提案してきた。ジャックも急ぐ予定はなかったから、特に反論はなかった。
「一通り店は回ったが、覚えられそうか」
街並みに沈む夕日を眺めながら、エドワードが言う。
「ああ、たぶんな」
「そいつは良かった」
会話が途切れ、二人の靴音だけが響く。
「……エリス君のことなんだが」
と、エドワードはジャックに顔を向けることなく、つぶやくように言った。
「あんまり怒らないでやってくれ」
「別に、怒ってはいない」
「本当か?」
「……最初こそ、苛立ったのは事実だが、最後にそう決めたのは私だ。あの娘のためじゃない。俺にとって都合がいいと思ったから、あの娘をそばに置いてやるだけだ」
「俺の出した条件に惹かれた、ってことか」
「それ以外に何がある」
当然、ジャックの口調はそう言いたげだ。エドワードは肩越しに、ジャックを見る。
「まあ、それでもいいかもしれないな。だが、それだけでも不安だ」
「私が甲斐甲斐しく、あの娘の面倒を見ると思っているのか?」
「いいや。そういうタイプの人間には見えない」
ハシゴを担いだ男が、ガス灯に火を灯していく。紫色の空に星々が瞬き始める。もうすぐ夜がやってくる。通りを歩く人々の足も、少し早くなっていく。
「それにだ。エリス君よりも、間違いなくお前の方が早く死ぬ。寿命もそうだが、それ以前に仕事で命を落とすことだって考えられる。それよりか、孤児院に送ってやった方が安全なんだろうな」
「ならお前の方から言い聞かせてやってくれ」
「言われなくてもやったさ。だが、彼女は聞く耳を持たなかった。頑として自分の主張を曲げはしなかったんだ。全く、きっとご両親も芯の強い方々だったんだろうな」
エリスの両親に思いを馳せながら、エドワードは笑う。
「間違ってもらっても困るから言うが、俺は別に彼女の賛同者じゃない。今でも彼女は孤児院に行ってもらった方がいいと思っている。だが、彼女はカゴの中には入りたくはないんだ。自分の足で自分の人生を歩んでいきたいと思ってる。全く、強い少女だよ。……いや、強くならざるをえなかったのかもしれないが」
エドワードの家にまで戻ってきた。玄関から明かりが溢れている。中からは楽しそうな少女の声が二つ、聞こえてくる。
「貴方が面倒を見ないことは、彼女もわかっている。だから、甲斐甲斐しく世話をする必要はない。ただ、自分の身を守ってくれさえすればそれでいい」
「あいつが言っていたのか」
「ああ。これからどうするかは、おいおい決めていくそうだが、あの子もあの子なりに、仕事を見つけるつもりらしい。あの子の頑張りを、見守ってやってくれ」
「まるであいつの父親にでもなったみたいに言うんだな」
「娘と同じ年頃で、しかも孤児になった子供だ。同情もするし、その、なんとなくそう言う目で見てしまうんだな。自分でもおかしいとは思うさ。……貴方も、子供を持ってみればわかる」
「一生、わからんだろうな」
ジャックは吐き捨てるように言うと、エドワードを追い越して屋敷に入っていく。エドワードは肩をすくめると、彼の後に続いて、玄関をくぐった。




