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エドワードは二人の様子を見守っていた。が、どうも様子がおかしい。最初から様子がおかしいとは思っていたが、どうもただならぬ空気がジャックと見知らぬエルフの間に漂い始める。
嫌な予感がした。そして、それは現実になった。
突如としてジャックがエルフの胸ぐらを掴み上げたのだ。
その場に居合わせた冒険者も色めき立ち、喧嘩だなんだのと囃し立てる。
まずい。そう思ったエドワードは椅子から立ち上がって、二人の元へ早足で向かう。
だが、意外なことに彼の心配したことは起きなかった。ジャックはしばらく睨み続けていたが、ため息をひとつつくと、手を離してやった。
「何をやっているんだ」
ほっと息を吐きながらも、ジャックに声を掛ける。
「……なんでもない」
「なんでもないわけがないだろう。……こちらの方は」
「俺に弓を射かけて、殺そうとした女だ」
「違ッ……。その、ただあの娘が襲われていると、思っただけで……」
とっさに反論の弁を立てようとしたが、彼女の声はしりすぼみに小さくなっていく。
「どういうことだ」
その経緯について、エドワードにジャックは話す。エドワードはそれを聞き、ジャックの対応も、またエルフの女の態度にも、ようやく合点がいった。
「それはエリス君を守ろうとしたからだろう」
「その勘違いで俺は殺されそうになったんだ」
「だが、お前は生きているし、こうして話すこともできている。それもこれも、エリス君とこの方が村に運んでくれたからに他ならないだろうが」
「どうしてそう言い切れる」
「冷静になって考えてみろ。大の男を、少女の力だけで運んでいけると思うか? 別の誰かの力を借りたとは思わないのか? あの場に居合わせたのは、エリス君とこの方だけ。村の方から人を呼んだとしても、それまでにお前が死んでいた可能性は充分にあったはずだ。なら、二人が力を合わせて村に運んだ方が早いに決まってる」
この推測が本当なのか。
言葉を切ったエドワードが、彼女に目を向けた。
「……ええ、確かに運んだわ。あの娘と一緒にね」
「本当なのか」
ジャックが鋭く睨め付ける。
「信じられないでしょうけど、本当よ。貴方が倒れた後、私とあの娘と一緒に村に運んだ。私もあの村で育ったから、場所もわかっていた。それで村長に頼んで治療をしてもらったんだけど、あの後も仕事が残っていたから、村に残ることができなかったの。その……、本当にごめんなさい」
もう一度、彼女は深々と頭を下げた。
「お前も、言うことがあるだろ」
そう言うのは、エドワードだ。
「言うこと?」
「さっきの非行を詫びるんだ。いいな」
まるでジャックの親父にでもなったかのように、エドワードがたしなめてくる。ジャック自身そんなつもりは一切なかった。間違ったことはしていない。謝る必要はないとさえ思っていた。
だが、いつまでも付きまとうエドワードの視線に、だんだんとばつが悪くなってくる。そして、ため息を一つつくと、
「さっきは掴みかかって悪かった」
とそっぽを向きながら言ったのだった。
「これでいい。そら、仲直りの握手と行こう」
エドワードは彼女の手とジャックの手とを取り、無理やり握手を組ませる。とてもそう言う仲ではなかったが、二人ともなんとはなしに視線を合わせて、肩をすくめた。
「ユミルよ」
彼女が言う。
「……ジャックだ」
やや間をおいてジャックがぶっきらぼうに言う。
エドワードの愉快そうな笑い声が響いた。




