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翌日。
結論から言おう。ジャックはエドワードの提案、つまりはエリスの提案を一旦は飲むことにした。それはエリスの頼みを聞くというより、エドワードの提示した条件に惹かれた結果である。
エドワードはどこかホッとした様子を見せつつも、約束通り今日は彼の仕事探しに協力してくれることとなった。エリスの面倒はシャーリーとアリッサに託してある。夕食という共同作業を経た結果か。彼女たちからは文句はなく、むしろ喜んでいる気配すらあった。
さて男二人は屋敷を出て、エドワードのカードを使って、あのくらい廊下を進んでいた。
昨日はエリスのこともあって気にかけていなかったが、あのカードというのもなかなか奇妙な代物であった。なんでもエルフと学者の共同研究によって生み出された技術で、シンプルに『転移装置』と呼ばれている。
使用者の血液と金属、そして魔術の術式を組み込んだそれは、特殊な経路を使い、離れた場所にある指定した三つの場所を、自在に転移できるものだという。
アーサーの場合は自宅と執務室、アーサーの部屋を転移することができる。今も何気なく通っている廊下は、その転移に使われる、見えざる経路というわけだ。
この日は自宅から執務室へと出て、そこから街へと繰り出した。
勝手知ったる道を、アーサーはどんどんと進んでいく。曲がり角を一つ、二つと曲がり、直進。さらに交差点を右折する。と、一軒の建物の前に出た。
冒険者ギルド。と看板には書かれている。玄関をくぐると、鎧に武器を身につけた多くの人間たちでひしめいていた。
冒険者。という職業は今も昔もそう変わってはいない。起源は傭兵崩れや兵士上がりによって組織された、一旅団という話だが、実際の起源はよくわかっていない。
帝都内外の雑用や、ちょっとしたお使いまで。他の組織と比べ依頼まで煩雑な手順もなく、また比較的安く依頼をすることができる。場所や身分に区別なく、報酬を約束すればどこへなりとも仕事に向かう。その身軽さと向こう見ずさから、冒険者という称号を奉っている。
とまあ、ある程度の知識はジャックにもあったが、いざ本物の中に入ってみると、活気の在りように驚かされる。もっと金に困った連中が、ひっきりなしに依頼書を剥いでいくだけかと思ったが、身なりや態度を見る限り、そういった印象は皆無であった。
「こっちだ」
エドワードに連れられてカウンターへとやってきた。
「おはようございます」
受付嬢が会釈をする。
「こいつを新たに登録させてやりたいんだが」
「新規のお申し込みですね。かしこまりました。でしたら、こちらにご記名をお願いいたします」
差し出してきたのは一枚の羊皮紙だ。住所、氏名、年齢、性別と各項目が並んでいる。
「住所はウチを使ってくれて構わない。あとからも変更ができるから、住む場所が決まった時にでも変えてくれ」
そうなればあとは三項目を書けばいいだけだ。
羽ペンにインクをつけて、それぞれの項目に書き連ねていく。住所の項目には、エドワードから教わった。全ての項目を書き終えて、羊皮紙を受付嬢に差し出す。
「ご記名ありがとうございます。でしたら、会員証を発行いたしますので、そこでお待ちくださいませ」
軽く頭を下げて、受付嬢が背後の部屋に入っていく。数秒後、その部屋から何かを潰すような音が聞こえてくる。そして、受付嬢が戻ってくると、その手には小さなタグが握られていた。
「これが会員証になります。お受け取りください」
タグには名前と性別、年齢、住所と先程書いたばかりの事柄が刻印されている。手早い仕事に感嘆しつつも、ジャックはそれを受け取った。見た目の重厚さとは違って軽い。上部には穴が一つ空いており、そこから細いチェーンがつながっている。
「ご依頼を探したい場合は、あちらの掲示板をご参照ください。お眼鏡に適ったご依頼がありましたら、こちらの方にお持ちください。順次承認いたしますので」
「試しに見てきたらどうだ。俺はここで待っているから」
エドワードはそういって、近くにあった椅子に腰を据える。多少迷ったものの、一体冒険者の依頼とはどんなものか、興味はある。別に危険はあるまい。だから、この機会に覗くだけ覗いてみることにした。




