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空振

 敵兵の数は進むごとに増え、抵抗も激しくなる。どうにかエルフたちの魔法によって退けてはいるが、退けることばかりにとらわれていては一向にたどり着けない。


 謁見の間ではなく、寝所でこうなのであれば、謁見の間に向かったジャックたちも相当苦労しているに違いない。エドワードはそう思いながらも、目の前から迫り来る敵兵の剣を弾き、堂に蹴りをいれる。そして首に衝撃を与えて気絶させる。


 帝国兵と帝国兵。同じ国を守護するもの同士が争うなど、愚か以外の何者でもない。しかし、今やエドワードたちは帝国にとっての反逆者に過ぎず、胸についた帝国の刻印はなんの意味も持たなくなっている。エルフの村での戦闘のように、説得の余地があればそうするのだが、生憎それをする猶予を敵方の兵たちは与えてはくれない。


 エドワードや味方の兵士だけでも帝国兵を気絶させる。しかし、兵士に情けをかけるいわれのないエルフたちは、問答無用で魔法を敵兵士たちに打ち込んでいく。


 雷に身を焦がすもの。炎に包まれ悶え苦しむもの。氷柱によって四肢を撃ち抜かれるもの。風によって首を寸断されるもの。騎士団を含め、味方側の兵士に殴られ気絶させられる兵士はごくわずかで、ほとんどの敵兵士は無残にも血の海の中に溶け込んでいく。


 疲れとは無縁の憤りがエドワードの心にふつふつと湧き上がる。次々に元は同僚であった敵兵たちを殺めていくエルフにも言えたことだが、争わせる理由を作り出したドミティウスへの怒りがこみ上げてくる。それは城に来てからというもの刻々と燃え上がり、剣を握る手には力が込められる。


 鬱憤を込めたエドワードの剣が敵兵の頭を打ち抜き、胴を打ち抜き、首を打ち抜く。鋭利に研がれた刃ではなく、剣の腹を当てることでどうにか殺さずに意識ばかりを失わせているが、それでも怪我をさせずというのは難しい。命を取らないだけありがたいと思ってもらうほかない。


 最後の敵兵の意識を奪い、いよいよ寝所へと押し入る。両開きの扉を押し開けると、そこには震えながら肩身を寄せ合う侍従と無人のベッドがあるだけだった。


 「ドミティウスはどこだ」


 エドワードは侍従に尋ねる。


 「こ、ここにはおりません。早くからお目覚めになり……」


 「ここにはいないのか」


 「え、ええ。そうでございます」


 侍従長らしき老人が震えながらそう答えた。


 「どうやら、ハズレのようだな」


 ロドリックが言った。そのようだとエドワードはロドリックに視線をやる。


 「ど、どうしてここにエルフがいるのです」


 うろたえながら侍従長が口にする。それに応える時間はエドワードには用意されて痛かった。


 「外は危険です。この部屋にこもっていなさい。決して外には出ないこと。いいですか」


 それを言えばロドリックの横を通り抜けて部屋の外へと向かう。ロドリックはしばし侍従たちを見つめていたが、すぐに視線を切ってエドワードの後を追っていく。


 「ここではありませんでしたか」


 部屋の外で待機していた副長がエドワードに声をかける。


 「ああ。急いで戻るぞ。ここにもはや用はない」


 そう言ってエドワードが引き返そうかとした時だ。

 戻るべき廊下の先から何やら蠢く影が近寄ってくる。それは次第に大きくなり、点がことして見え始めた時、その正体がようやく理解できた。


 何体ものゴブリン達が、廊下の先よりエドワード達の方へ押し寄せてきたのだ。


 「……全員今一度気を引きしめろ。今度は手加減はいらないぞ」


 抜き身の剣を固く握り締め、エドワードはその場にいた全員に向けて声をかける。しかし、エルフ達にはその言葉の意味はわからない。エルフ族の全員が全員人間の言葉を理解できているわけではないから。だが、言葉の意味を理解できずとも目の前に迫る魔物どもをみれば、何をすべきかどうかは容易に理解できる。


 杖を構え、狙いを魔物達に合わせる。挨拶がわりの一撃にエルフ達の杖から魔法が飛ばされた。

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