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【絶賛改稿中】戦死転生  作者: 小宮山 写勒
第一章 少女と兵士
1/122

1-1

 私は生きながらに死んでいた。

 自我という自我もなく、ただ飯を食いくそをする人形だった。

 人形に与えられたのは、剣と、人殺しの才覚だった。


 帝国の戦に駆り出された私は、エルフとの戦に明け暮れていた。

 兵士は剣で。エルフは魔法で。互いに命を奪い合い。殺し、殺され、踏みにじる。

 そうしてできた死体の山に新たな死体が積みさなっていく。


 死体になったエルフを蹴飛ばして、後方に控えていたエルフに斬りかかる。

 杖を頭上に掲げ一撃を防いで見せたが、そのせいで足元はがら空きだ。

 足を払うと簡単にエルフの態勢は崩れ、右肩から地面へ倒れ伏せる。


 そして剣を高く掲げ、一息に切っ先を心臓めがけて突き落す。

 エルフの口から血があふれ、涙と共に大地を濡らしていった。

 剣を引き抜くと、呼吸の乱れを整えて前を見据える。


 疲労とは裏腹に、エルフの攻撃は激しさを一層強めていた。


 エルフ族の歩兵が戦列を並べ、魔法による一斉射撃を敢行する。

 雷がほとばしり、火炎が肉を焼き、旋風が命を刈り取り、寒風吹きすさぶ荒野を血が彩っていく。

 

 魔法の衝撃で作られたくぼみに身を隠し、第一波の攻撃をやり過ごす。

 土ほこりに紛れて立ち上がり、西へ走る。

 他の兵士に注意が向いている間に、横合いから奇襲を試みた。


 だが、そう簡単にはいかなかった。

 三人のエルフが岩陰から姿を現し、私に杖を向けてくる。

 私は剣を投擲して一人を殺すと、残り二人に突貫した。


 炎が左手を襲い、風が右太ももを切る。

 猛烈な痛みだが、構わずにエルフに組みかかった。

 

 エルフを地面に押し倒し、もう一人を蹴り飛ばす。

 たたらを踏んで転んだ隙に、押し倒した方のエルフに馬乗りになり、短刀の切っ先をエルフの心臓めがけて振り下ろす。


 仰向けになったエルフは両手でそれを抑え抵抗をする。

 体重をかけ、火傷を負った腕でなんどもエルフの顔を殴る。

 鼻が砕け、頬骨が折れ、エルフの力が抜ける。


 その瞬間短刀がエルフの胸を貫き、口から血液が溢れ出す。

 勝利の余韻に浸る余裕はない。

 蹴り飛ばしたエルフから魔法が放たれる。

 鋭利な氷柱が私の元へ一目散にやってきた。


 エルフの体を盾にしてやり過ごし、投擲に使った剣を取り、エルフに駆ける。

 旋風が放たれ、私を両断しようと迫る。

 私はそれを避けず、火傷で使い物にならなくなった腕を犠牲にした。

 痛みが肩を駆け抜け、焦点が合わなくなる。

 だが立ち止まらない。


 自殺行為とも取れる私の突撃は、エルフに一瞬の動揺を与えた。

 その隙を私は見逃さなかった。


 剣を横なぎに振るう。

 剣はエルフの胴を捉え、深々と横腹にめり込んだ。

 耳長の顔には苦悶が浮かび、口元からは赤黒い血が溢れる。


 だがまだ立っている。

 まだ私を殺そうと杖を握りしめている。


 殺さなくてはならない。

 動くのならば、動かなくなるまで剣を突き刺さなくてはならない。

 抵抗するものは、叩いて潰さなくてはならない。


 私はエルフにとどめを刺すべく、すぐに剣を引き抜こうとした。

 だが、それを妨げる二つの手が私の目の前から伸びてきた。

 私が斬りつけたエルフの手だ。


 杖を捨て、私の手を握りしめる。

 死に際の馬鹿力とでも言うのだろう。

 振りほどこうとがむしゃらに腕をしならせるが、いくらしならせてもエルフの手は決して私の腕から離れはしない。


 振りほどけないなら、殺す他に手段はない。

 エルフの体に刺さったままの剣を、横に無理やり切り裂いていく。

 肉の裂け目から血が滴りおち、臓物がこぼれ落ちていく。

 激痛のはずだった。だがエルフの顔からは笑みが消えることはなかった。

 

 あれほどあたりに響いていたエルフたちの声が、ピタリと止まった。

 静寂が吐息をより大きく聞こえさせる。

 それが何を意味しているのか、学の一つない私でも理解できた。


 視線をエルフ達へと向ける。

 杖先には魔力が宿り、たまりにたまった怨嗟と激情を今にも放とうとしている。


 死がやってきた。


 火が、雷が、氷の礫が、私の肌を焼き、肉を貫き、片目を抉る。

 頭から、胸から、脇腹から、太腿から、目玉を失った眼窩から。

 私の身体にとっぷりと流れる血液が、体温ともに溢れ出していく。


 執拗に襲い掛かる光によって、私の身体は赤に染まっていった。

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