序
『女って、こんなにも汚いんだ。』
これが僕が初めて母に抱いた感情だ。
母と言っても血の繋がりは無い。
義母と僕の間には何も無い。愛さえも。
只あるのは、卑しく浅ましい快楽だけ。
それだけが彼女と僕を繋いでいる。
七月-
真夏の昼間。
蝉の鳴き声が
焦げた様にどす黒いアスファルトに反響し
教室に響き渡る。教室は生徒達の汗や外からの湿気で
ジメジメとした空気が漂っている。
僕も例外ではない。額はうっすらと汗ばみ
朝から着ていたシャツが汗臭い。
その匂いをかき消すかのように
前の席から甘い香りが漂った。
汗とシャンプーが混ざった
蒸せ返るような甘ずっぱい匂い。
僕はこの匂いが嫌いだ。
何故なら、この匂いは卑しい牝の匂いだからだ。
僕はこの匂いを知っている。
''アイツ''と同じ匂い・・・。
大嫌いな義母と同じ匂いだ。
相川紗江。
それが僕の前の席で卑しい匂いを放っている牝の名だ。
成績は中の上、容姿も言うことはなく
性格も大人しい女子だ。
クラスの男子達は皆口を揃えて言う。
『相川って、なんかいいよなぁ・・・』
『勉強できるし、それに''清楚''だし』
『家庭科の授業じゃぁ料理も出来るみたいだし』
『男の''理想''だよなぁ』
''理想''? ''清楚''?
笑わせるな。こいつは卑しく浅ましい牝だ。
皆騙されてることに気づいていない。
済ました顔で清楚なキャラクターを演じているのだ。
僕は騙されない。こいつの化けの皮を剥いでやる。
途端に憎悪に包まれた僕に、牝が話しかけてきた。
「・・・高瀬君、大丈夫?」
「なんだかすごい怖い顔してるから・・・」
「具合、悪いの?」
不安そうな顔で問いかけてくる牝。
そのつぶらな瞳に吐き気がする。
「あぁ・・大丈夫だよ。ありがとう相川さん。」
僕は牝にニッコリと微笑み
口にしたくもない感謝の言葉を述べてやった。
「そっか、ならいいんだけど・・・
なにか悩み事とかあるなら言って?
私でよければ相談に乗るから」
僕はもう一度礼を言って
静かに机に開いたノートへ目線を写した。
悩み事?お前に言いたいことは沢山ある。
言ってやりたい。コイツに。
「牝豚!牝豚!!牝豚!!!」
「卑しい糞牝豚が!清楚なふりして人の心を
貪り喰らうアバズレが!」
そう言えたらなんて愉快なんだろう。
こんな僕は壊れているだろうか?
いや、違う。壊れているのはコイツだ。
だからもっと壊してやりたい。
コイツの化けの皮を剥いで、殺してやりたい。
そんな事を考えていたらチャイムが鳴った。
学校という所はなんて無意味な場所なのだろう。
下らない男連中と牝が入り交じった掃き溜めだ。
毎日毎日、よくも飽きずに友情ごっこや恋愛ごっこに浸れる。
もっとも家よりかはマシだ。
何故なら家には最も卑しく浅ましい
元凶の牝豚が、僕の帰りを待っているのだから。