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羨ましいだなんて、言わないでください

 ご覧いただきありがとうございます。

 この場を借りて、私の最高に幸せで不幸な日々について語ろうと思います。

 どれだけの方が見てくださるか分かりませんが、とりあえずよろしくお願いします。


(前回からの続きです)

*少しいかがわしい会話をするので、注意してください。 

 全然大したことないですよ。

 むしろ私にとっては大好物です。


 いくら私立とは言っても、本人の了承無く学科を異動させるなんて酷いと思いませんか。もちろん私も抗議しましたよ。でも、学科を新設させるほど優秀な生徒が集まるクラスに転入することは、ご褒美以外のなにものでもありません。会社で言えば栄転です。断れる社員などいるでしょうか。思春期の子供や臨月の妻が居れば免れるかもしれません。いえ、その場合は単身赴任でしょうか。このご時世、転勤を辞退することなんて出来ませんよね。

 話が脱線しましたね。会社員でも妻子持ちでもない私は、おとなしく受け入れるしかなかったということです。

 私の「趣味」からすれば、確かに天国のような出来事ですよ。こんなに素晴らしい方々に囲まれて。ただ、前にも書いたように、私は遠くからそっと見つめて妄想するのが好きなのであって、陽の当たる部屋で堂々と向かい合うことは望んでいません。キャンドルの灯りは眺めていられるけれど、太陽は眩しくてずっと見上げていることは出来ないのです。

 しかし、やはり人間というのは耐性が出来るのもなのですね。

 数か月経って、ようやく慣れてきましたよ。最初の頃は、毎日目が潰れるかと思っていましたけど。

 

 さて、そろそろ前々回に書いたクラスメイト(などというのはおこがましいですが)の紹介を続けましょう。

 

 薔薇そうびさんの後に付いて教室の奥へ行くと、眼鏡美女が本を読んでいます。菖蒲あやめさんです。


「ああ、白妙しろたえか。お早う」


「お早うございます」


 菖蒲さんは立ち上がって私の方へやって来ました。腰のあたりまで伸ばした、濃紺の髪がさらりと揺れています。ああ、このつやつやストレートを眺めるだけでも、今日一日のエネルギーになります。いつもシルエットがゆったりめの黒っぽいワンピースを着ているので分かりにくいですけど、物凄くスタイルの良い方です。もっと華やかなお洋服を着た姿も見てみたいものです。


「この間お前が言っていた本を持って来た。持ち帰ってゆっくり読むがいい」


 菖蒲さんはそう言って、ケースに入った本を渡してくれました。あ、ありがとうございます。装丁が素敵ですね。

 でもね、菖蒲さん。私、確かに興味があると言いましたが、それはその場の話題のひとつだったわけで。十数万円もする本をぽんっと貸さないで下さいよ。


「どうした?気に入らな…「大変気に入りました。ありがとうございます」


 心して読ませていただきます。私は頭を下げました。


「うん?なんだ、それを読みたかったのか。言ってくれたら、僕も持っていたのに」


 私の手元を覗き込んで、薔薇さんが言いました。赤い髪から薔薇の香りがします。美少女は匂いも美しいのですね。さすがです。


「薔薇、お前の手元にあるのはおそらく初版本だろう。いくら友人同士といっても、あまり高価なものを貸し借りするのは感心しないな。白妙の性格からして、困らせるだけだ」


 ああ、菖蒲さん。そういった感覚をお持ちだったのですね。安心しました。一般人サンプル係として嬉しい限りです。後は「高価なもの」の基準をもっと下げてください。それが一般常識というものです。


「ふむ。善処しよう」


 菖蒲さんは、頷いてくれました。あれ、私、声に出してましたっけ?


「あら、何の話?」


 上の方から声がしました。

 見上げると、らんさんが螺旋階段を降りてきます。


「蘭、窓から来たのか」


 薔薇さんが小さくため息をつきました。


「ごめんなさいね、そうちゃん」


 蘭さんは、胸のあたりで手を合わせます。


「この辺りは蝙蝠がいないから、目立ってしまうだろう」


「寝坊しちゃったのよ。次から気を付けるわ」


 蘭さんは、声も見た目もれっきとした男子なのですが、やわらかな言葉遣いと物腰で、特別科のお姉さん的存在の方です。少し長めの前髪からのぞく紫色の瞳が、濡れたように光ります。


「今日はわたしが最後だったようね。おはよう、白ちゃん、菖蒲」


 蘭さんは、菖蒲さんと私の手を取ると、甲に唇を近づけました。これが蘭さんの挨拶なのです。牡丹くんのハグも照れますが、これも相当キツイです。「クラスの女の子にだけよ。白ちゃんが来てくれたから、ひとり増えて嬉しいわ」と言って、初めてこれをされた時は、顔が燃えてなくなるかと思いました。心の中で「欧米か!」と叫んだのは言うまでもありません。


「ふん。寝坊とはな。またふしだらなことをしていたのだろう」


 菖蒲さんが、蘭さんの手を振りほどき、睨みつけました。菖蒲さんも薔薇さんも女性にしては長身な方ですが、蘭さんもモデル並みにスタイルの良い方です。下から凄んで見せても効果があるかどうか。いえ、それよりも、眼鏡美女に上目遣いで睨みつけられるというのは、むしろ絶景なのでは。


「ふふ。その通りよ」


 え、認めるんですか。蘭さん。というか、菖蒲さん「また」って言ってましたよね。よ、よくあることなんですか。


「それがアタシの本分だもの」


「今は、学生だろう。勉学が本分のはずだが」


「お腹が空いていたら、お勉強も出来ないでしょう?ホントにお堅いんだから」


「ペース配分を少しは考えろ」


「ハイハイ。菖蒲こそ、そんなにカリカリして、欲求不満なんじゃないの?アタシが相手をしてあげても…」


「…な、下品なことを言うな!」


「そこまでにしろ」


 薔薇さんが二人の間に入って言いました。


「白妙がいるだろう」


 私が何か関係あるのでしょうか。ああ、確かに一般生徒が朝一から話題にすることでもないですよね。私としたことが、うっかり趣味の方に気を取られて役目を忘れていました。お二人とも、もっと聞かせ…じゃない、喧嘩は良くないですよ。


「あら、そうね。ごめんなさい白ちゃん」


 蘭さんが私の頭をポンとしました。


「すまなかった」


 菖蒲さんもそれに続きます。いえいえ。加減に気を付けていただければ…。ああ、でも聞いていたかった。


「そういえば、あの二人は?」


 私が、うーんと考えていると、蘭さんが言いました。そうです。特別科は、あと二人いるのです。

 すると、奥の書架から、がたん、と何かが倒れる音がしました。何やら言い争う声も…。


「センパイ、今日こそイイですよね?」


「な、何言ってんだ。朝っぱらから」


「えー。じゃあ、いつならイイんですか?あたし、ずっと待ってるんですよ」


「と、とにかく。落ち着け、向日葵ひまわり。~!!脱がすな!!」


「ダメです。もう我慢できません」


「あ、も、ま、待っ…」


「センパイ。あたしのことキライですか?」


「いや、だから俺は…。あ、あ、」


「ふふ。センパイかわいい。大丈夫ですよ。あたしに任せてください。すぐに気持ち良くなりますからね」


「…やぁ…!も、あ、あ、」


 やめろぉぉぉぉ!!!!という声がして、半裸の男子がこちらへ走ってきました。水色のシャツは完全にはだけて、何やら赤い跡がポツポツと。銀灰色の瞳には、涙が浮かんでいます。男子は、そのまま薔薇さんの胸に飛び込みました。


「薔薇!あいつ、あいつ何とかしてくれ!」


「ああ、すみません先輩。よく言って聞かせます」


 この方が、桂竹けいちく先輩です。竹を割ったような潔い気性で、男気に溢れ、とても頼りがいのある方で…この説明はもっと前に書くべきでしたね。同学年なのですが、特別科の他の皆さんより少しだけ年上だそうで、先輩と呼んでいます。


「牡丹、先輩を頼む」


 薔薇さんは、入口の方の机でうとうとしている牡丹くんに声を掛けました。


「白妙も一緒に行ってくれるかい?」


「あ、はい」


 桂竹先輩は女子が少し苦手だそうなので、まず牡丹くんが先輩を支え、椅子に座るように促しました。私も後に続きます。


「センパイだいじょうぶ~」


 牡丹くんがのんびりとした声で言いました。


「あ、ああ」


 桂竹先輩、悪夢から覚めたように呆然としています。向日葵さんに魂を抜かれてしまったのではないでしょうか。


「しろしろ、ボタン付けとかできる~?取れちゃってるから~」


 牡丹くんが先輩のシャツを指さしながら言いました。


「は、はい。ちょっと待っててください」


 私は、裁縫箱を持って来て、シャツを受け取ります。つい、先輩の首筋とお腹のあたりに目が行きますが、ぐっと我慢です。

 やっぱり赤いモノが見えますけど。特に首筋がすごいことになってますけど。

 真面目にボタン付けをするフリをして、私は耳に全神経を集中させました。



 今日はこの辺で。

 また次回もよろしくお願いしますね。




 

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