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そちらの事情なんて知りません

 ご覧いただきありがとうございます。

 この場を借りて、私の最高に幸せで不幸な日々について語ろうと思います。

 どれだけの方が見てくださるか分かりませんが、とりあえずよろしくお願いします。

 

(前回からの続きです)

 

 今回は、私が特別科に所属することになった経緯を書きたいと思います。

 少し時系列が前後しますが、お許しくださいね。


 1年前の4月、青藍高校入学式式場は騒然としていました。

 青藍の入学式ともなれば、毎年それなりに目立つ生徒がいるものです。学問やスポーツ、芸術の世界で期待されている人は教師やライバル達から熱い視線を投げかけられますし、最近バラエティに出始めたファッションモデルが入場すれば、男女両方から感嘆のため息がもれます。いえ、そのはず、でした。

 急遽新設された学科についての説明、そしてやたらカラフルな容姿をした6人。姿だけで、彼らはその場を圧倒させました。服装自由な私服校なので、当然見た目が派手な生徒はいくらでもいます。でも、それだけではないのです。まだ一言も発していないのに、誰もが思いました。

 自分たちとは違う、と。

 私は、講堂中の注目を浴びても平然としている彼らの姿を見て、格が違うのというのはこういうことなのかと思いました。離れた席に座る生徒たちが、なんとか彼らの姿を捉えようとあちこちから刺すような視線を向けてくるので、学籍番号の関係で近くの座席になってしまった私は、式典の最中ずっと下を向いていなければいけませんでした。

透明人間になりたい、と久々に思いました。

今思えば、この時に彼らと私の間に縁ができてしまったのでしょうね。


 衝撃のお披露目会となってしまった入学式から数日後、通常授業が始まると、校内はさらに特別科の6人の話題で持ちきりになりました。


 曰く、眠気覚ましに陸上部と競争したら世界新記録を出した。

 曰く、数学の自主課題として、まだ証明されていない定理を解いて提出した。

 曰く、趣味で投稿したピアノ演奏動画が百万再生を記録した。

 曰く、「〇ォイ〇ッチ手稿」を解読した。

 曰く、邪馬〇国を見つけた。

 曰く、男子生徒全員と・・・。 


 尾ひれが付きすぎて、原型が分からなくなってしまったものばかりです。ただ、最後に関しては真実かもしれません。

 真偽はともかくとして、容貌の美しさだけでなく、多種多様な才能を周囲に見せつけた彼らは、あっというまに学校のアイドルになりました。

 多くの他校の関係者が彼らの元を訪れ、留学、転学を薦めましたが「普通の高校生活を送りたい」の一言で拒否され、しばらくすると誰も来なくなったそうです。最後までしつこく交渉を続けていた某名門校の教師は、薔薇そうびさんの不興をかったため牡丹ぼたんくんに投げ飛ばされ、現在は音信不通になってしまったという噂が流れています。

 しかし、青藍経営陣が、優秀な彼らが学園に留まってくれたことを単純に喜んでいられたのもつかの間のことでした。生徒たちの成績が落ち始めたのです。


 曰く、難関大合格確実の生徒がE判定を取る。

 曰く、将来を期待されたスポーツ特待生が予選落ち。

 曰く、現役高校生小説家としてデビュー直後に突然のスランプで休載。


 開校以来の緊急事態に、多くの生徒が事情聴取を受けたそうです。その中で分かったことは、

 

 曰く、あの6人には敵わないから。


 これまで、己の才能を最大限に伸ばすために厳しい競争社会で生きてきたはずの生徒たちが、圧倒的な力の差に全面降伏をしたのですよ。びっくりです。

 自分が理想とする存在を前にして、同じように頑張りたい、より上に行きたいと思うのが自然でしょう。しかし、特別科の彼らの場合は違います。

 彼らを前にすると、皆憧れるだけで終わってしまうのです。

 ただ彼らの姿を眺めていたい。まさに、アイドルとファン状態になってしまうのでした。特別科と同じフロアにある芸術科において、6人に見惚れて制作が進まなくなる事例が続出したため、特別科の教室を移動させるという緊急対策が取られました。それまで他学科と合同で受けていた授業も中止になり、特別科は去年1年の間に3回もカリキュラムを組みなおしたとか。


 彼らはね、悪魔的魅力があるんだよ。

 生徒に悪魔だなんて言うべきではないけれど。

 実を言うとね、彼らを合格させるつもりはなかったんだよ。

 確かに、優秀な生徒は欲しい。

 ただ、彼らは、なんというか、ただ優秀なだけではない、というより、もっと恐ろしい存在のような気がしたんだ。

 だから言ったよ。

 もっと別のふさわしい場所があるのでないかとね。初めてだよ。成績不良者でもない、むしろ最高点を叩きだしたような子たちに「他の高校に行ったら?」なんてね。 

 でも、結局受け入れてしまった。

 気付いたら、合格者リストの中に彼らの名前があった。いや、私が許可したからだが、その、彼らの目を見ていたら、訳が分からなくなって…。

 いや、なんでもない。

 やはり、内心では彼らを手放したくなかったんだろうな。

 そう、彼らは魅力的だ。

 だから、せめて一般生徒に悪影響が出ないように、特別科を設置したんだ。

 もし彼らを普通科に入れていたら…、分かるだろう?

しかし、配慮が不十分だったようだ。

今、我が校は危機に陥っていてね。まだ、気づいている者はそう多くはないが。

簡単に言うと、各学科の成績上位者たちが無気力状態になっているんだよ。

ああ、そうだよ。特別科の影響さ。彼らに夢中になってしまって、本業が疎かになっている。

 教室の場所やカリキュラムを変更してなんとか被害は食い止めているが、いつまでもつことやら。

 あと、もうひとつ困ったことがある。彼らが表に出たがらないことだ。面白いだろう?我が校の特待生のほとんどを骨抜きにしているくせに、目立ちたくはないんだそうだ。いつか「普通の高校生活を送りたい」と言っていたが、あながち嘘ではないんだろう。

 もし、彼らがその才能を世間に対してオープンにしてくれれば、まだマシだった。矛盾してるって?そうでもないさ。士気の下がる生徒は増えるだろうが、青藍の知名度はさらに上がるからね。彼らの卒業後は惑わされる生徒もいなくなるし、まぁ、あと2年間の我慢というところだよ。今現在骨抜きにされてしまった子には申し訳ないが、それも大学に入れば我にかえるだろうし。

 しかし、特別科の6人は表に出る意思がない。薔薇そうびくん、だったかな、あの問題を解いてみせたと知った時は皆色めき立ったものだが、後で本人が間違いだったと言ってきた。古代国家のレポートもいつの間にか担当教諭の手元から消えていた。今となっては、私としてもあれは本当にあったことなのか自信がない。噂だけは残っているようだが。まぁ、彼らにはそのくらいのことが出来てもおかしくないと思っているけどね。

 ああ。

 優秀な頭脳を公表せず、他者のやる気ばかり奪うというのは、全く頭の痛くなる存在だよ。

 そこで私は考えた。

 彼らがあくまでも普通を望むのなら、そのようにしてやろうとね。

 彼ら自身にも聞いたよ。どうしたら周囲を惑わさずにいてくれるのかと。

 

 「僕らは、今まで自分たちだけの世界にいたので、こちらの常識を知りません。そういったことを教えて  くれる級友が出来ると良いのですが」


 それを聞いて、君を選んだんだよ。

 なぜかって?君が適任だという声があってね。

 君、ひとりで行動することが多いそうだね。何をしているのかな。

 スポーツ科の?ああ、知っているよ。彼のファンなのかい?違う?

 理数科にも?特別科が人気を独占している今、君のような子は歓迎されるだろうね。

 え?見ているだけ?話したことも無い?

 ふむ。君自身もなかなかのものだと思うが、いや、まぁいいだろう。

 才能を持った子に惹かれるのなら、なぜあの子たちを追いかけないのかな。

 眩し過ぎて圏外?

 ははは。なるほどね。やはり私たちの人選は間違ってなかった。

 特別科に転科するのは、君だよ。白妙しろたえくん。


 これが、掲示板を見て慌てふためいた私が飛び込んだ校長室で、先生が語った内容です。

 そうです。これが私があのような場違いな所に居る理由です。

 私は。

 溢れんばかりの個性を持った生徒が所属するこのクラスに、「一般人サンプル」として放り込まれたのでした。


 ああ、清く正しい脇役の生活が恋しいです。


 




 今日は思ったよりも長く書けました。

 次回もまたよろしくお願いしますね。


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