端役なので許してください
ご覧いただきありがとうございます。
この場を借りて、私の最高に幸せで不幸な日々について語ろうと思います。
どれだけの方が見てくださるか分かりませんが、とりあえずよろしくお願いします。
(前回からの続きです)
青藍高校 特別科
これが、昨年新設された科であり、今年度から私が入ることになったクラスです。
青藍高校が懐の広い学校だといいましたよね。ガリ勉さんでもスポーツ命さんでも芸術はバクハツだ!さんでも笑顔で迎えてくれるのだと。
でもそれは逆に言えば、学校側が想定していた「尊重すべき個性」というのは、その程度の範囲だったわけで。
私は毎朝始業10分前に教室に向かいます。特別科は急ごしらえのクラスなので、広い校舎の隅にある旧図書室を教室として使っています。昨年は、芸術科のフロアの空き教室を使っていたようですが、諸事情により移動になったのです。私を含め7人が使う場所としては、あり得ない程の広さです。壁一面に広がる本棚と、側に設置された螺旋階段や美しい窓装飾は、妄想の世界の常連である私の心を掴んで離しません。もしここが図書室のままであったなら、そして私が普通科の生徒のままでいたならば、毎日でもここに来て文学少年少女たちの姿を涎を垂らしながら眺め、彼らの談義を盗み聞きしたでしょう。決して仲間に加わることはありません。これこそ清く正しいモブ役の生活なのです。
ああ、それなのに…。
遅刻ギリギリと言ってもいい時間帯なので、教室に向かうまでに出会う生徒は多くありません。それでも私が歩いていると、周りからヒソヒソと声がします。普通科から特別科に、まさに「特別に」転科することになった私の噂は、校内に広がっていますからね。ありがたいことに、今のところマイナスなことは言われていないようなのですが…。分不相応過ぎて逆に同情されているのかもしれません。「やっぱり…」とか、「納得だよね…」とか、聞こえてきますが、「やっぱり平凡な生徒が特別科に入るなんて苦労も多いだろうから、つい憐れんじゃうよね、そうだよね、可哀そう、うんうん、納得~」とかそんなところなのでしょう。私は、他学科のあるフロアを足早に通り過ぎます。
「お早う。白妙」
扉を開けると、薔薇(*仮名ですよ。)さんがこちらにやってきました。
「お、おはようございます」
私は、おそるおそる挨拶を返します。
「今日はいい天気だね。昨日までの雨が嘘のようだ。まぁ、僕は雨の日も好きなのだけど」
歌うように話す薔薇さんは、お上品な仕草で真っ赤な髪を耳にかけました。すらりとした身体に真紅のワンピースがとてもお似合いです。姫袖、というのでしょうか、スカートのように広がったデザインの袖からちらりと見える指先は、いつものレースの手袋ではなく、なんと素手です。瞳と同じオレンジ色に染められた爪がつやつやしています。朝からレアな光景です。
「今日の昼食はテラスで取ろうかと思うんだが、どうかな?」
薔薇さんは、教室の東側の窓の外を指さしました。フランス人形ような顔立ちと、少年っぽい言葉遣いのギャップがたまりません。僕っ娘万歳。
「白妙?」
「あ、はい!も、もちろん大丈夫でふ!」噛みました。
「そう、よかった」
薔薇さんは、にっこりと笑いました。その美しさは、まさに大輪のバラが咲いたようです。
これから順番にご紹介しますが、特別科の皆さんは見た目が派手過ぎます。ほぼ全員カラコン着用なんですよね。髪は地毛かと思うほどキレイに染めてますし。どこの美容院に行っているんでしょうか。超が付くほどの美形ですし、ああ、本当にどうして私なんかが選ばれてしまったのか。
「しろしろオハヨー」
薔薇さんの後ろから、ぬっと大きな人影が現れました。牡丹くんです。男子に花の名前を付けるのはどうかと思ったのですが、薔薇さんからの流れで皆さん植物繋がりでいくことにします。牡丹くんは大柄で、のんびりおっとりした人です。
「おはようございます。今日も寝不足ですか?」
「んー。オレ夜行性だからねー」
そう言って、牡丹くんは目をこすります。牡丹くんはいつもぼんやりしています。そんなに毎日辛いなら、夜早く寝れば良いのにと思うのですが。牡丹くんを見ていると、ブラウンに染められた髪の色と相まって、まるで絵本の中から甘えん坊のくまさんがやってきたようで微笑ましくなります。
「しろしろ、ハイ」
牡丹くんが腕を広げました。牡丹くんは帰国子女のようで、毎朝ハグを求めてきます。私は小さく息を吐いてから、牡丹くんに近づきます。
「あまりやりすぎるなよ。牡丹」
「ん。だいじょうぶー」
全然大丈夫じゃありません。身長差により牡丹さんのみぞおちあたりに顔が押しつけられて、息ができないのです。離れる時は、静電気のせいか首筋がちくちくするし、牡丹くんの腕から解放された後はいつもフラフラしてしまいます。他の皆さんはどうしているのでしょうか。いつも私が最後に登校するので、分からないままです。
時間になりましたので、今日はこのへんで。
また次回もよろしくお願いしますね。