eternal dream
目が覚めると、誰もいなかった―。
春木 楓 16歳。
今年高校に入学したばりである。
教室の窓からは桜が舞い、ひらひらと花びらが踊っている。
「・・・あれ?わたし、寝てた?」
目が覚めると、そこは教室の自分の席で。
だけど、先ほどまで教室にいたクラスメートは誰ひとりいない。
(わたし・・・そんな長く寝てたのかな?)
「…誰か起こしてくれたらいいのに…」
ため息まじりで呟く。自分が居眠りしてしまったことを棚に上げて。
とりあえず、家に帰ろう。
まだ日も高く、学校が終わったとは思えない時間。
だけど、誰もいないから。
きっと今日は早く終わる日だったんだろう。
特に疑問も抱かず、カバンを抱えて家路に着く。
いつもの道、いつもの商店街。
いつも通りに歩き、家へと急ぐ。
なんだか、胸騒ぎがしたから。
家のドアを開けると、昼間だというのに中は真っ暗で。
人の気配はない。
この時間なら母がいるはずなのに・・・。
きっと買い物にでも行ってるのだろう、そう自分を無理やり納得させる。
自分の部屋への階段をあがり、そしてドアを開けた。
ベットにクローゼット、勉強机。その上にCDプレイヤー
それだけしかない、殺風景な部屋だ。
花の女子高生の部屋とは程遠いだろう。
だけど、私にはこれで十分。
音楽だけがあれば―。
部屋に入ると、まずはプレイヤーのスイッチを入れる。
そのままベットに横になる。
心地よい音楽が耳を伝わり…
これが私がリラックスできる一番の時間だ。
―――― いつのまにか、寝てしまったようだ。
窓を見ると綺麗な満月が見えた。
かけっぱなしにしたままのCD。部屋の中は真っ暗で…。
部屋のドアを開けると、まだ人の気配はしない。
(お母さん…どこいったんだろう?)
昼間の胸騒ぎがなんだか気になった。
探しに行かなければ。そんな気がしてならない。
これは゛虫の知らせ〟 だとでもいうのだろうか?
なんだかいてもたってもいられなくて、家から飛び出す。
いつもの道、いつもの商店街…のはずだった。
でも、何かがおかしい。
もう普段なら店が閉まっている時間。
それなのに、店は全て開いたままだった。
でも、どの店にも誰かがいる気配はしない。
なぜ?店を開けたまま、一体何処へ行くというのだろう。
商店街を駆け抜けて、ふと立ち止まる。
どこからか、声がする。
「・・・だれか、いる」
おそるおそる、声がするほうへ進んでみる。
「おい・・・・っ!・・・きえるな・・・っ」
声のする場所に辿り着くと、そこにはひとりの男がいた。
その手には、消えかかっている人・・・
(え・・・・?なにこれ・・・・)
そこにいたのは、たぶん同い年くらいの男の子。
その子は、泣いていた。
消えていく・・・友達だろうか? 彼を抱えながら。
男の人が泣いている所なんて、はじめてみた。
青白い月の光に照らされて、とても綺麗だった。
「・・・・・きれい。」
思わず声に出てしまった。
「・・・誰だ!?」
男の子がこちらに気づき、近づいてくる。
「・・・お前は消えないのか・・・?」
何を言っているのだろう?意味がわからず、答えを口に出せない。
「答えろ・・っ!お前は、消えないのか・・!?」
「・・・ごめんなさい・・・。状況がよくわからなくて・・」
くそっ! 手近にあった石を蹴り悔しそうな表情をする。
「・・・あの、どういうことなのか教えていただけませんか?」
面倒臭そうに頭を掻きあげて、こちらをじっと見つめてくる。
そして、一度・・・ため息をつく。
「・・・本当に何も知らないのか?」
彼は私が言っていることを疑っているようだった。
こんな異常な状況を知らないほうがおかしいと、思っているのだろう。
「・・・ごめんなさい、本当にわからないの」
面倒臭そうにしながらも、真剣な顔でこちらを見る。
「・・・消えていくんだ。みんな・・・」
「・・・え?」
「さっきのヤツは、俺の親友だった。ここまで一緒に逃げてきたんだ。」
「・・・逃げるって・・・なにから・・?」
「わからない・・・」
「・・・どういうこと?」
「・・・わからないんだ、本当に。いきなり周りの人間が消えていった」
「消えてって・・・さっきみたいに?」
「そうだ。なんで消えるのかも、わからない。本当に突然で・・・」
「なんで・・・そんなことに・・・」
二人して押し黙る。理由なんて、わからない。
「ねえ、わたし春木 楓っていうの。あなたは?」
「・・・・は?いきなりなんだよ・・」
「名前、わからないと呼べないじゃない。だから、教えてよ。」
「必要ない。」
「どうして?せっかく消えずにいる二人なんだから一緒に原因探しに行きましょうよ」
「・・・・・」
「ね?ひとりよりふたりのほうがいいでしょ?」
「ふぅ・・・わかった。俺は桧木 柊舞だ」
「ありがとう!桧木くん。」
「柊舞でいい。」
「わかった。じゃあ柊舞くん。
これから、どうしようか…」
「そうだな…とりあえず、俺たちみたいに消えていないヤツを探してみるか…」
「そうね!とりあえず動かなきゃ始まらないものね。」
二人は、歩き始める。
これから始まる、壮絶な闘いなど…
知るはずもなく。
これが、始まりなのだ。
全てはまだ、始まったばかりなのだ。
続く。かもしれない。