8.その人、私に紹介しなさい!
8.その人、私に紹介しなさい!
夢ではなかった。結局、二日連続で小野寺とラーメン屋に行った。
「あの人は私に催眠術でもかけているのかしら」
「あら、何のこと?」
不覚にも綾がボソッと呟いた言葉を母親に聞かれていた。
「な、なんでもないわよ」
綾はドキッとした。はぐらかして部屋に戻ろうと席を立ったけれど、母親は綾の肩を押さえつけて隣に腰を下ろした。
「もしかして、恋人でもできたのかしら?」
「そんなことがあるわけないじゃない」
「あら、どうして?我が娘ながら、こんなにキレイな顔をしているのに子供の頃から浮いた話が一度もないのは、よほど正確にでも難があるのではないかと心配していたのよ。私としてはそんな風に育てたつもりはなかったのに」
「何を言ってるんだか…。浮いた話がないのは私が拒否しているからよ。言い寄ってくる男はいっぱい居るんだから。今回だって…」
言ってから“しまった!”と思って口を押さえたけれど、あとの祭りだった。
「ほうほう!今回だってどうしたのかな?」
母親の目は宝物を見つけた子供のそれのようにキラキラと輝いている。
綾の話を聞き終えた母親はポンと手を叩いて言い放った。
「その人、私に紹介しなさい!」
確かに年齢からすれば、綾本人より母親の方がふさわしいかもしれない。
「要は徹さんが綾の何を気に入ったのかだわね」
いきなり、会ったこともない人間をあたかも古い付き合いの親友のように下の名前で呼んでいる。自分の母親であるにも関わらず、綾とは性格が全く違うのだ。まるで、あの小野寺のような…。その答えが導かれた瞬間、綾の頭の中でまた妙な考えがよぎった。まさか、お母さんに近付くために私を利用している?まさかね…。
「今度会ったら徹さんをウチに連れてきなさい!って言うか、電話しなさい。せっかく名刺を貰ったんだから。ほら!携帯電話の番号も書いてあるじゃない」
マジですか?大はしゃぎの母親の横で綾は苦笑するしかなかった。