6.思いっ切り本気の話!
6.思いっ切り本気の話!
生ビールが出されると、小野寺は綾に向かってグラスを掲げた。
「運命の出会いに!」
つられてグラスを差し出そうとした綾だったけれど、小野寺のその言葉に思わずグラスを持つ手を引っ込めた。
「あれっ?どうしました?」
肩透かしを食らった小野寺はすぐに綾にツッコミを入れるかのごとく聞いて来たけれど、ツッコミを入れるつもりなら敬語はいただけない。
「言っておきますけど、あなたにはそうかもしれないけれど、私はそうは思っていませんから」
「と、いう事は必然だと?」
「…」
綾はそのまま生ビールを半分ほど一気に飲んだ。やっぱり、どうも調子が狂う。けれど、それよりも、そんな男と一緒にラーメン屋で生ビールを飲んでいる自分に驚いている。
「やっぱり、私、失礼します」
綾は残りのビールを飲み干すと、そう言って席を立った。
一人残された小野寺は気落ちする様子も無く、綾が手を付けなかったおつまみ三点盛りのチャーシューを一枚摘まんだ。
「美味いなあ!」
そんな小野寺を見ていた店主がニタニタ笑いながら声を掛けた。
「小野寺さん、見事に振られちゃいましたね」
「なんの!まだまだこれからですよ」
翌日、社用で銀行を訪れる際、綾は“ロマンス”を覗いてみた。時間が早いせいか店はまだ営業していなかった。帰りの際にも寄ってみた。すると、店は営業していたので、外から中の様子を窺おうとした。ちょうどその時、店のドアが開いた。
「あら!あなたは小野寺さんの…」
ドアを開けたのは雪乃だった。
「違いますから」
綾は雪乃の誤解を否定するように言った。けれど、雪乃はちっとも聞いていなかった。
「彼が来てくれるのは私が病院に行っている午後からなのよ。でも、せっかくだから美味しい紅茶を一杯ご馳走するわ」
言うが早いか雪乃は綾の腕を掴んで店の中に引き入れた。
「ええと…」
「綾です」
「そうそう!綾さんはこの近くにお勤めなのね」
「はい」
「いっそ、このお店をやってみてはいかが?」
「はい?」
突然予想もしていない様な話を切り出されて綾は声が裏返ってしまった。冗談なのだろうけれど、雪乃が言うと冗談に聞こえない。
「私もそろそろ歳だし、梓だけでは心細いと思うのよ。けれど、小野寺さんは本業があるからずっと手伝ってもらうわけにはいかないし。綾さんが小野寺さんと結婚したら今のお勤めはお辞めになるんでしょう?だったら…」
ちょっと待った!どこが冗談だ?雪乃は思いっ切り本気じゃないか。私が小野寺と結婚?綾は驚きのあまり、椅子から転げ落ちそうになった。お笑い芸人ならともかく、そんなリアクションは綾の辞書には書かれていないはずだったのに。




