5.女性は我儘で自分勝手でなければ面白くない!
5.女性は我儘で自分勝手でなければ面白くない!
雪乃があとは大丈夫だからと小野寺に合図した。
「それでは綾さん、せっかくですから食事にでも行きましょう」
「何がせっかくなんですか?」
「わざわざ僕を訪ねて下さった」
「わざわざ来たわけではありません。それに、あなたを訪ねてもいません」
「でも、来て下さったことには変わりはないでしょう」
無茶苦茶だ。こじ付けもいいところだ。綾はそう思って溜息を吐いた。小野寺は微笑して綾の伝票を手に取った。
小野寺と話していると、どうも調子が狂う。自分のペースに持ち込めない。断るタイミングを逃してしまう。それはつまり嫌ではないという事なのだろうか…。自分でもよく解からないまま、結局、小野寺について来てしまった。
「気取ったことは性に合わないので」
そう口にした小野寺が綾を連れてきたのはラーメン屋だった。この界隈では有名な人気店なのだという。
「はい、あなたにはお似合いだと思います」
「良かった。初めて僕を褒めてくれましたね」
別に褒めた訳ではない。綾はラーメンはどちらかといえば苦手なのだった。ラーメンに限らず、麺類はあまり好きではなかった。それはパスタでも例外ではないほどに。
「ここのお勧めはとんこつチャーシューメンなんですよ」
小野寺はそう言って、自分はそれを頼んだ。綾も勧められたが、無視して注文した。
「生ビールとつまみ三点盛り」
これには小野寺だって呆れるだろう、綾はそう思ったのだけれど、逆に小野寺は感心したように顔をほころばせて話し掛けてきた。
「さすがですね!こういう状況で無理に人に合せるのではなくて、しっかり自分を主張しています。僕はそういう女性が好きなんです」
呆れたのは逆に綾の方だった。
「小野寺さんって、“M”ですか?」
「どうしてそう思われるのですか?」
「人の言う事を聞かない、我儘で自分勝手な女性が好きみたいですから」
「そういう風に言われればそうなのかもしれませんね。価値観の問題なのかもしれませんけど、僕は女性は我儘で自分勝手なものだと思っています。逆にそうでなければ面白くありません。けれど、誰でもいいというわけではありません。あなただからいいんです」
そう言うと、小野寺も生ビールを注文した。