3.思った通りの名前!!
3.思った通りの名前!!
そんなはずはないと綾はその男の顔を凝視した。
「そんなに見ないでください。あなたのような素敵な人に見つめられたら恥ずかしくて仕事が出来ません」
柄にもなくはにかむようなしぐさでその男は言った。間違いなく小野寺徹だ。
「小野寺さんですよね?」
「はい」
「小野寺さんって、確か三星ハウスの…」
「はい!その通りです」
「こんなところで何をしてらっしゃるんですか?」
「まあ、ちょっとした訳がありまして…。それより、こちらへ来ませんか?」
小野寺はそう言って、カウンター席の方を指した。綾はカウンター席の方へ歩いて行った。そして、小野寺の正面の席に座った。
店内には綾の他にも数組の客が居た。小野寺は注文が一息つくと、綾の元へやって来た。
「こちらから誘っておいて申し訳ありません」
「いえ、誘われたから来たわけではありませんから。第一、あなたが待っているとおっしゃったのはお昼ですよ。今まで待っているなんて普通は思わないでしょう」
「でも、あなたは来られた。そして、僕もちゃんと待っていた」
「待っていたのではなくて、お仕事をされていたのですよね」
「それでも僕は待っていましたよ」
「それじゃあ、私が来なかったらどうされましたか?」
「名刺をお渡ししましたから、いつか連絡を頂けると思っています」
「そんなもの丸めて捨てたかもしれないわ」
「でも、あなたは捨ててはいない」
なんなんだ、この自信たっぷりな態度は。まるで私が自分に惚れているとでもいうような態度だわ。綾には小野寺の態度がそんな感じだったので、なんだかムカついてきた。
「失礼します」
そう言って席を立つと財布から千円札を1枚取り出してカウンターの上に置いた。その時、入り口から初老の婦人が入って来た。
「おばあちゃん!お帰りなさい」
声の主は従業員の女性だった。
結局、綾は帰るきっかけを逃してしまった。婦人が来ると、小野寺は服を着替えて彩の隣に座った。そして、改めて自己紹介をした。彼がきちんと自己紹介をしたのはこれが初めてだった。そう言えば今までの二回はどちらも1分と顔を合わせていなかったのだから。
小野寺がきちんと自己紹介をしたのなら、綾も名乗らぬわけにはいかなかった。
「石井綾ともうします」
「アヤさんですか!思った通りだ」
「何がですか?」
「名前です。あなたにはアヤという名前がぴったりだと思っていました。ちなみにアヤは糸へんの綾ですか?」
「そうですけど」
小野寺はそれを聞くと納得がいったというような表情で頷いている。
「それより、訳を聞かせて下さい」
綾が問い詰めるように言うと、小野寺は少しだけ困った表情をして婦人の方を見た。