2.やはり運命だった!?
2.やはり運命だった!?
小野寺は既に食事を終えたようだった。周りにはまだ席を探してうろついている客が何人か居た。
「やはり運命だったんですよ」
小野寺は言った。
「店が混んでいるので、食べ終わった僕は早々に席を譲ろうと思います。もし、時間があるのなら、この店のちょうど真裏に“ロマンス”という喫茶店があります。そこで待っているので食事の後にでも寄ってもらえると嬉しいです」
「あの…」
呼び止めようとする綾をまたしても無視するように小野寺は席を立った。
代わりに席に着いたのは同年代のOLだった。
「良かったんですか?」
彼女は小野寺を綾の連れだと思っているようだった。
「あ、いいんです」
綾が食事を済ませて席を立つとき、向いの席のOLが軽く会釈をした。綾も苦笑しながら頭を下げた。
さて、行くべきかどうするか…。迷った挙句、綾は結局そのまま会社に戻った。
増々解からなくなった。運命の出会いだなんだという割にはあまりにもそっけない。それに、自分から彩の連絡先を聞こうともしない。気にしなければそれでなんという事も無いのだろうが、どうにも気になって仕方がない。そう感じた時にふと思った。それが彼の手口なのだろうか…。
「石井君、具合でも悪いのかね?」
柿崎が声を掛けた。そんなことを気にされるということはよっぽどひどい顔をしていたに違いない。綾は愛想よく微笑して柿崎に返事をした。
「いえ、至って元気です。お気になさらないで」
「そうかね。それならいいんだが…。何しろ、君に休まれたら会社が立ち行かないからね」
「そんな、大袈裟ですよ」
こんなところに喫茶店があったんだ…。この通りは普段からよく通っている。けれど、今まで全く気が付かなかった。
カントリー風の木目調の建材を使った外装が施されていて、よく見れば洒落た感じの店だった。ドアの脇の壁に“喫茶ロマンス”と書かれた看板が掛けられていた。
仕事を終えて退社した綾は知らず知らずのうちにこの店へ足を運んでいた。まさか、こんな時間まで小野寺が待っているわけはないだろうと、ドアを開けた。
「いらっしゃいませ」
若い女性の従業員が綾を席に案内してくれた。綾はミルクティーを注文した。
「マスター、ミルクティーをお願いします」
「了解」
そう言ってカウンター越しに顔を出した男を見て綾はまたしても声をあげた。蝶ネクタイを付けて黒いエプロンをして、若い女性従業員にマスターと呼ばれた男は小野寺徹だった。