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13.あなたの言った通りだった

13.あなたの言った通りだった


 この手の仕事をしていると、土日にお客さんのところへ顔を出すことも少なくない。一度売ってしまえばそのお客さんが次の買い物をすることは殆どないのだけれど、小野寺はそういったお客さんを定期的に訪れては不都合はないか、使い勝手はどうかなどの話を聞いてくる。それが次の商品の品質を向上させることにつながると思っているからだ。

「また出掛けるの?」

 鏡を見ながらネクタイを締めている父親を眺めながら恭子が言う。

「仕事なんだから仕方がないんだ」

「まったく、お父さんは本当に仕事が好きなのね。だからお母さんに逃げられちゃうのよ」

「仕方がないさ。でも、恭子が残ってくれただけありがたい」

「まあ、お母さんは一人身の方が新しい人を見つけるのにも都合がいいでしょうから。お父さんはどうせ他の女の人となんか仲良くなる暇もないでしょう?」

「おっ、これでもお父さんは結構女の人には人気があるんだぞ」

「それって、お客さんのお婆さんとかでしょう?」

「まあ、それでも女の人には変わりないだろう?」

「それじゃあ、新しい奥さんにはなってもらえないじゃない」

「恭子、お前、お母さんが欲しいのか?」

「うーん…。よく判らないけど、居ないよりは居た方がいいかな…」

「そうか…」

 小野寺が離婚したのは2年前だ。恭子はまだ小学校5年生だった。早くに母親が居なくなったせいか同じ年の子供たちに比べたらしっかりしている。それでも、まだ中学1年の女の子だ。小野寺も常に一緒に居てあげられるわけじゃない。恭子のために、新しい母親を迎えてやりたい。最近はそんな風に思う事も少なくはない。

「でも、本当はいつまでもお父さんの面倒を見ていたら私がお嫁に行けなくなっちゃうからね」

 何ともいじらしい。

「なあ、明日の日曜日、久しぶりに一緒に出掛けないか?」



 綾は終業時間を告げるチャイムが鳴ると、そそくさと机の上を片付けて席を立った。

「お先に失礼します」

 柿崎が何か言いたそうな顔をしていたが、無視して退社した。約束の時間には少し早かったけれど、まっすぐに待ち合わせ場所のバーへ向かった。

 カウンター席に座ってマティーニを頼んだ。グラスを持って一口飲んだところに小野寺がやって来た。

「早いですね」

 小野寺はそう言って綾の隣に座った。そして、生ビールを注文した。

「小野寺さんはどうして携帯を持たないんですか?」

「特に必要ないでしょう」

「緊急の時は困るでしょう?」

「これがありますから」

 小野寺が上着のポケットから出したのはポケットベルだった。綾は思わず吹き出しそうになった。綾以外にもこんな骨董品を持っている人が居るとは思っていなかったから。

「いや、会社から持たされている携帯はあるんですけど…」

「いつも引出しの中」

「えっ…。ああ!雪乃さんに聞いたんですね?」

「実は私も」

 綾はそう言ってバッグからポケットベルを出した。

「綾さんも携帯電話を持っていないんですか?」

「まさか!自分のプライベートの電話番号を会社に教える気にはなれないから。ウチはせこいから、会社で携帯なんか持たせてくれないの。だから」

「なるほど。でも、僕だってたまには使うんですよ。携帯電話」

「あら?いつ?」

「まあ、それはそのうち分かりますよ。ところで、お見合いはどうでした」

「あなたの言った通りだったわ。ご馳走がたくさん食べられた」

「それは良かったですね。だったら、今度の日曜日には僕に付き合って貰えないですか?」

「それは構わないけれど、お見合いの結果は聞かなくていいの?」

「今、聞きましたよ。僕の言った通りだったって」

「確かにそうね。でもこんな風に誘われるのは初めてね。それってデートに誘ってくれたってことよね?」

「デート…。それは当日のお楽しみという事で」



 綾はジーンズにニットのセーターで待ち合わせ場所に向かった。出がけに母親がせっかくのデートなんだからもっとおしゃれをすれないいのにと言ってくれたのだけれど、この方が自分らしいからと言って、そのまま出て来た。

 待ち合わせをした駅の改札口からは朝早くだというのに多くの家族連れが我先にと波のように押し寄せてくる。確かこのテーマパークは小野寺の会社もスポンサーの一社だった。そんなことを思っていると、小野寺が手を振りながら改札口に向かってくるのが見えた。

「えっ!」

 綾は思わず声を漏らした。小野寺が女の子の手を引いていたからだ。







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