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07 初めての戦闘

「おう坊主、外に出んのか?」


「うん」


「そうか。

 夜になったら門閉めるから、そん時はそこの通用口ノックするんだぞ」


「わかった。

 ありがとう、おにいちゃん」


「おう、気ぃ付けろよ」


 東門を抜けると石畳の道は真っ直ぐ伸び、その先は森の中へと消えていた。

 その道の左右の草原が目的の場所だ。

 所々土がむき出しになって、草が倒れている。

 ホワイトスライム――通称餅、運営らしいモンスターの筆頭として上げられる。

 一番最初に戦う雑魚敵で、見かけは通称の通り一抱えほどもある大きな丸餅。

 草食性で薬草が好物、草の上に居座り融かして取り込んでいく。

 土がむき出しになっているのは、そうしてできた場所だ。

 融かすといっても酸系ではなく、植物だけ融かす酵素的なものなので人体には無害。

 そんなわけでホワイトスライムの身は薬品を作るのにも重宝するし、もちろん食べれる。

 ホワイトスライムの攻撃手段は体当りだけで、慣れればそれほど脅威ではない。

 で、何が運営らしいかというと、普通スライムといえば半透明なのが主流だが、ホワイトスライムは不透明。

 それだけなら良いが、スライムといえば核が弱点。

 ホワイトスライムもそうだ……というか核にしかダメージが入らない。

 殴りつけても形が変わるだけ、斬りつけても斬れたはしから戻っていく。

 その上、核は梅干大で位置は不定。

 核に当たれば一撃で終わるが、見えない小さな核に当てるのは難しい。

 その為、倒し方はやたらめったら突くか、殴るか、斬るかのどれか。

 なお、所属が同じものを倒した場合EXPPを取得せず、変わりにPPが回復する。

 ついでにいうと、クエスターを倒した場合は所属問わずPP回復するだけでEXPPを取得しない。

 その所為でクエスターの本体は実は別にあるという考察がなされてたりした。

 また、アイテムも取得しない。

 では、何故争う必要があるかというとエリアの領有権とその効果が関係する。

 スポットを開放するとそのエリアで安全に採取などできる他、それに隣接する自所属エリアが肥える。

 端的にいうと手に入る素材の質や量がよくなったり、レア(希少種)やユニーク《特殊種》の発生が増えたりする。

 逆に他国エリアと接しているとそのエリアは痩せる。

 採取やモンスター狩り、PPの自然回復でも痩せる。

 痩せないエリアは、グレートホールとそれに隣接するエリアだけ。

 採取等で痩せたエリアは時間経過の他、EXPPを供給する事で回復する。

 また、自所属エリアで他所属のクエスターを倒すとそのエリアは回復し上限を超えて肥えるので、見つけ次第倒すのが通例だった。

 デスペナルティ分が溶け込むのだと言われてたが、特に他国のクエスターだとよく肥えた。

 ブランクは傭兵として活躍してたが、信頼できない相手だとスポット確保した時点で生贄にされる事もあったので注意が必要だった。

 超えた分はエリアの領有が変わってもそのままなのでそういうエリアは狙われやすく、他にも特定エリアでしか取れない素材、特定所属エリアでしか取れない素材があったりと争いのネタに事欠かなかった。

 話がそれたが、つまりホワイトスライムをいくら倒しても経験値にはならない。

 苦労して手に入るのは〈ホワイトスライムの身〉が一つだけ。

 いくら倒してもエリアは痩せないので、タレントの訓練やスキル練習にはある程度なり、餅つき道場とか呼ばれていた。

 チュートリアル的なものは無いので、ここである程度動作を覚えてから森に向かうのが基本だった。

 そういえば、ホワイトスライム狩り機とかいって臼と特大の杵作ったやつも居たな。

 ホワイトスライムを臼にセットして専用の杵でつくと、隙間から押されて伸びた身だけ出て逃げ場の無い核を一撃で潰せる。

 合いの手よろしくホワイトスライムを供給する人と合わせてまさに餅つき。

 よく考えたものだと感心したっけ。

 ZP1では動作は制限されていたのでやれない事があったが、ZP2は制限が無いので色々と他に方法がある。

 草原にはたくさんの人が居る。

 先に来たプレイヤーだろう。

 げしげしとホワイトスライムを踏み付けている。

 中には足を滑らせてこけ、反撃を受けている人もいた。

 ボディプレスやヒップアタックなどしている人もいたが、ボロ布をさらにぼろぼろにして下着姿になっていた。

 俺だと踏むのも全身で潰すのも一苦労なので、考えてたのをやる事にする。

 東門の辺りはもう既に縄張りができているので移動することにした。

 北門と南門は気位の高い戦士ギルド(筋肉ダルマ)魔術師ギルド(陰険メガネ)のNPCクエスターが往来して、近くだと因縁をつけられるかもしれない。

 途中まで行って空いてなければ、いっそ西まで行くかな?

 西門にはギルド無いっていうし、貴族も門の外まで出てこないだろう。

 そういえば、何で北と南にギルドあるんだろう?

 東のと同じくスポット利用してるなら北東、北西、南東、南西の門の側にあるはずなんだが。

 通り道がてら確認するかな?

 そう思い、とりあえず右手の法則と外周に沿って南へ向かう。

 自所属エリアである以上PP回復速度は速く、ZP1では全速力で走っても減るより増える方が多かったのでPPに関しては多分問題ないと思うが、人も居るしホワイトスライムを踏むかもしれないのである程度スピードを抑えて走る。

 ホワイトスライムの通った場所は見てわかりやすいが、走りにくいのには変わらない。

 しばらく行くと南東門が見えてきたが閉まっていた。

 石畳の状態も東門より悪く、人通りがまるで無いのがわかった。

 通用口をノックしても返事が無く、中には人がいなさそうだ。

 ここから確かめるのは無理だな。

 まだ周りに人がいるので先へ進むことにした。

 中々空きはなく、人が少なくなってきた頃には南門が見えてきた。

 仕方ない、西へ行こう。

 人通りは無いがいつ出てくるかわからないので全速力で道を横切り、またスピードを戻して草原を通っていく。

 南門が見えない辺りにまで行くと同じ事を考えただろう人がちらほらいた。

 一応南西門の状況を見に向かうと、南東と同じく閉ざされていた。

 ついでに西門まで行くと、門は閉ざされていたが石畳は綺麗に整えられていた。

 万が一の時にここから逃げるつもりなのだろうか?

 でも、どこへ?

 ……まあいいや。

 整備しているならあまり近寄らない方がいいだろう。

 帰りに北の方も確かめようと思い、西門の前を通り抜け北西門近くまで行った。

 北西門も閉ざされていた。

 人はまばらだ。

 それじゃあ、始めるか。

 まずはどこまで大丈夫かの確認だな。

 ZP1では持ち上げても襲われなかった。

 試しに、手近にいたホワイトスライムに近づいて触れる。

 攻撃はしてこない。

 少しばかりひんやりしていて、力を入れるとふにょふにょと適度な弾力を返してくる……結構気持ちいい。

 ふにょふにょふにょふにょ……はっ、こんな事してる場合じゃなかった!

 まだ大丈夫なようだ。

 その場に座って足で抱え込んでもおとなしくしている。

 掴んで引っ張ったり、触れた手に徐々に力を加え押し込んで変形させたりしたが、これも大丈夫だった。

 そうやっていると、ふと違和感を感じた。


「あー……」


 ホワイトスライムにくっついていた部分のボロ布が融けていた。

 ごわごわした感じだったが植物繊維だったか。

 そういえば少しずつ這い上がってきている。

 ……まあ、しょうがないか。

 ある程度確認が済んだし、そろそろ本番に移ろう。

 ホワイトスライムの体に手を押し込みながら揉む。

 もみもみもみもみと続けていると、少し違う感触があった。

 これが核かな?

 そのまま掴もうとしてもぬるぬると逃げるので、両手で絞り上げて根元を押さる。

 片手を離して核?を掴み、力を込めるとプチッと潰れた。

 それと同時にホワイトスライムはぶわっと塵のように変わって、腕輪に吸い込まれた。

 そして、すぐ側にホワイトスライムが一匹。


「よしっ!」


 世界には復元性がある。

 これのおかげで倒したモンスターや採取した素材がリポップ(再出現)する。

 人類や、人類が作った物はこの範疇に入らない。

 モンスターになった元人類はリポップする事から、異形化は祝福で受け取らなかったり染まりきらなかった人類は世界にとって異物なんだとか言ってるNPCも居た。

 そういえば、まだいるのかな星誕教徒?

 で、この復元性、一つ特徴がある。

 失われる際の反動で復元速度が決まる。

 つまり、攻撃した時から倒すまでにかかった時間がそのままリポップするまでの時間になる。

 ノンアクティブならともかく、アクティブなら際限まで戦い続ける羽目になるので注意が必要だ。

 リポップするのも倒した周囲のどこかなので、いきなり後ろから襲い掛かられることもある。

 採取なら便利そうに見えるが、ちゃんと取らないとちゃんとした素材にならないので素早くやるのは技術がいる。

 とりあえず、これでホワイトスライム狩りは大丈夫だ。

 後は、どれだけ素早くやれるかだな。

 次は薬草を探そう。

 でもこの広い草原の中、むやみやたらと探してもそう簡単に見つからない。

 というわけで、側にいるホワイトスライムを捕まえて抱える。

 胸の部分が融けてくだろうが仕方ない。

 ホワイトスライムの好物は薬草。

 このまま草原をうろうろ歩いて変わった反応が出れば、そこに薬草がある。

 しばらく歩くとある一点を通り過ぎようとした時、ホワイトスライムが離れたそうにした。

 この辺りだな。

 ホワイトスライムを離れた所に置いて戻る。

 ……ってチーノ草ってどんなのだったっけ?

 こう、わかりやすい特徴が在った気がするんだが。

 流石に最下級素材の特徴はすぐに思い出せない。

 こんな事ならギルドで確認してくるんだったな。

 考え込んでいると、ホワイトスライムが近づいくるのが見えた。

 もしかして、さっき離した奴か?

 食い意地がはってるな。

 よく緑色にならないもん……ってそうだ、ヨモギ餅!

 ホワイトスライムが来る前に慌てて周りの草を確認する。

 ぎざぎざの葉っぱ、これだ!

 体でガードしつつその草の根元を掘る。

 ホワイトスライムが体を這い上がってきた。

 間一髪で根っこを引き抜き、薬草?は還元されて腕輪に吸い込まれた。

 掘るのに時間がかかったので、周りを見ても生えてない。

 ……で、どうしよう?

 振り落とすのは攻撃扱いだろうか?

 なくなった時点で薬草を諦め、ボロ布を食い始めている。

 このままだと剥かれかねないので振り落とすと、融けて弱くなった部分と一緒にボテッと落ちた。

 身構えたが襲ってこない。

 これくらいの高さから落としても大丈夫なようだ。

 それにしても、これで1Pか。

 ホワイトスライム狩ってる方が効率いいかな?

 まあ、利用価値はあるし、湧いたら抜けばいいか。

 その後はホワイトスライムを狩りつつ、時折湧く薬草をホワイトスライムからガードしつつ抜いた。

 途中、勢いよすぎて攻撃認定された場面もあったが概ね成功した。

 日が傾いてきた。

 スキル屋に行って値段を確かめりしたいので、これくらいで一旦戻るか。

 ボロ布は欠片しか残らなかったが、修復できるかもしれないので持ち帰ろう。

 結構金がかかるようなら廃棄だが。

 戻る途中、森から北門へと向かうクエスターの一団に遭遇した。

 装備はそれなりに良いものを装備していた。

 スタートダッシュ組でも流石にあれだけの装備は揃えていないだろう。

 ということは、たぶんNPCのクエスターだ。


「しっかりしろ!

 もうすぐ街に付くからな!」


「くそっ!

 モンスター如きに!」


 こちらに目もくれず慌てて通り過ぎていった。

 あの様子なら死に戻りは無さそうだな。

 北東門もしまっていた。

 スポット側で開いてるのは東門だけか。

 後で中から確認しに行こう。


「おう、戻ってきたか坊主……ってなんだその格好?!

 大丈夫か?!」


「ホワイトスライムに解かされただけだよ」


「……そうか。

 そうだな、普通着る服っつうたらマーサ草のだよな。

 あー、ビックリした。

 ガラ悪い奴らに襲われたかと思ったぜ。

 結構問題になってんだよ」


「ふーん」


「まあ、クエスター襲うほど馬鹿じゃないだろうが、気ぃ付けろよ」


「心配してくれてありがとう。

 見つけたらボコっておくね」


「ははは、期待しとくわ」


「じゃあねー」


「おう、またな」



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