06 クエスターズギルド
「ああ、暇だな。
なんかいいネタねえかなー?」
「おい、アレ見ろよ!」
「ああん……あの髪、貴族のガキじゃねえか。
こんなとこにわざわざおいでとは、歓迎してやろうか?」
「おいおい、貴族に手を出すとまずいぞ」
「それもそうだな」
「馬鹿だなー。
貴族がボロ着てあんなに汚れてるわけねえじゃん。
昔逃げそびれた奴の末裔か、ご落胤ってとこだろ」
「そうか。
んー、チラリズムいいね……そうだ、捕まえて楽しもうぜ!
飽きれば売っぱらえば良いし、あーいうのが欲しいってのもいるだろ」
「うわ、変態がでた!」
「心当たりあるが、アレ女か?男か?」
「どっちでもいいじゃん。
捕まえてから剥けばわかんだろ」
「それもそうだな」
「んじゃ、やろうぜ」
「……ちょっと待て!」
「ああっ?」
「どうした?」
「ほらアレ、腕輪付けてねえ?」
「ん?あー、付けてるな。
白くて細い手首にピッタリの……って探索者の腕輪?!」
「馬鹿言え!
あんなガキがクエスターなわけねえだろ……ねえよな?」
「……そういや最近、ボロ着た見かけない奴に手を出したらクエスターだったって話聞いたな」
「ははは…………他の奴狙うか」
「そうだな……」
―――
言われた通り真っ直ぐ東へ向かう。
途中、クエスターのマイホームが固まった地域を通り抜けたが、難民たちがそれを壁の一部に小屋を建ててたりしたのでやばいのは漏れてないんだろう。
しばらく進むと東門の近く、ZP1時代にスポットがあった所に掘建て小屋があった。
『くえすたーずぎるど』と書かれた看板を掲げていたので中に入る。
「あらあら、ここはオ・ト・ナのクエスターズギルドよ。
お子様は大きくなってから出直しなさい」
とカウンターに居るマッチョが声をかけてきた。
小屋に似つかわしくないフリフリのワンピースと緩く巻いた長い金髪が何かを物語っている。
「シャナルザさんに紹介されて来たんだけど?」
「あら、おじ様からのご紹介?
ならいいわ。
腕輪も付けてるし、特別に登録してア・ゲ・ル」
「わっ!」
パチッとウィンクが飛んできたので回避する。
「もう、失礼しちゃうわね。
ほら、こっち来て手を出しなさい」
恐る恐る近づいていく。
「もう、そんなに期待するなら襲っちゃうゾッ……って冗談だから逃げないで!!」
「……ぜんっぜん、笑えないから」
「ごめんなさい。
かわいい子見るとついからかいたくなっちゃうの」
ジト目で見ているとすまなさそうに頭を下げた。
「はぁー……もういいよ。
早く登録して」
「わかったわ。
こっちにおいでなさい」
渋々近づく。
「来たわね。
じゃあ、両手を出してここに手をつきなさい」
そう言われ、カウンターにあった手形に手をついた。
するとピッ!と音がして手と手の間の空間に画面が表示された。
『名前:タイチー
性別:男
階位:なし
賞罰:なし』
「これ……」
「あら、星力装置を見るのは初めて?」
星力装置普及したのか。
PPを燃料とする機械で、PP消費量のせいでクエスターしか使えなかったんだが……。
場所的な事を考えるとスポットを利用しているのかもしれない。
とりあえずコクッとうなずく。
「そう……でも、その腕輪も星力装置よ?」
「えっ?」
「まあ、知らないで付けてる人も多いわね。
他にもここにあるけど、それはまた後で見せてあげるわ」
そう言うとマッチョは画面の端をつまみ、くるりと回した。
「タイチー君ね。
私はシルビアナ、ここの看板娘をしているわ。
よろしくね!」
空気を読んでつっこむのは避けた。
「これで登録は終了よ。
なにか質問はあるかしら?」
「階位ってなに?」
ZP1では無かった項目だ。
「あら、知らないのね?
じゃあ、説明してあげるわ。
クエスターは十個の階位で分けられるの。
一番下が十、一番上が一。
自分の階位と同じか上の依頼をこなしていれば自然と上がるわ。
なしは見習いのセミクエスターね。
スキルを使えるようになれば自然と第十階位になれるわ」
スキルを使う、これが問題だ。
覚えれても使用できた報告がほとんど無い。
ちょうどいい、ここで聞いておこう。
「スキルってなに?」
「あら?……そうね。
身近なものじゃないから、知らなくて当然よね。
でも、説明が難しいわ……星力装置のようなものって言ってわかるかしら?
星力装置は星の力が通されて、予め指定しておいた動作で指定した通りに動くの。
スキルには力ある言葉が必要なのだけど、この星力装置の部分が体で、予め指定しておいた動作というのが力ある言葉で、指定してた通りの動きがスキルの効果なのよ。
体に星の力を通して力ある言葉を唱えるとスキルが使えるの……わかったかしら?」
なんとなくわかりそうでわからない。
星の力を『通す』というのが肝心なのかな?
でも、体には星の力――PPがあるはずだ。
「通すってどういう事?
星の力って普通に体にあるって聞いたんだけど」
「ええそうね、人は誰でも星の力を持ってるわ。
でもそれは、ただ持っているだけ。
使いこなしてるわけじゃないの。
スキルは星の力を使いこなして、始めてできるのよ。
通すのはこう……うにうにって感じなんだけど口で説明するのは難しいわね。
こういうのは、自分で体験してみるしか無いわ。
説明下手で、ごめんなさいね」
「ううん、ありがとう。
ところで、力ある言葉ってどう覚えるの?
シルビアナさんが教えてくれるの?」
「言葉は教えられるけど、それだけでは力ある言葉にはならないわ。
体に宿して始めて力ある言葉になるのだけど……。
ごめんなさいね、私は力ある言葉を伝えるスキルは持ってないの。
誰か伝えるスキルを持っている人に教われるといいのだけど、難しいわね。
そういう人たちって北か南のギルドに属しているのよ。
北と南のギルドについて知ってる?」
「少しだけ。
戦士と魔術師のギルドなんでしょ?」
「そう。
それでここを乞食ギルドって馬鹿にしてるの。
相手にしてもらえないか、足元見られて吹っかけられるわ。
もう一つの方法は、街にあるスキル屋ね。
スキルスクロールを扱っていて、それを読めば身に付くの……それなりに高価だけど。
お勧めは旧大聖堂から南に行ってすぐの所にある『一実万集』ね。
この国一番の品揃えの店よ。
店主は頑固爺で、老舗なんだけど適正な値段でちゃんと売ってくれるわ」
そのあたりは同じか。
というか残ってたか、一実万集。
当時の店主は気弱そうな青年だったが……。
でも値段にはうるさかったな。
金策に色々なのを作っては売って、在庫がだぶついてるからと買い叩かれた事も結構あった。
歳食ってからは場数踏んだからか、少し強気になってたしな。
そういえば、ラスボスに使ったのも売ったんだよな。
結構良い値で売れたけど、あれは今どうなってんだろう?
「教えてくれてありがとう」
「いえ、クエスターのサポートをするのが私の仕事よ。
あっ、依頼はそこの掲示板に張ってあるわ。
依頼人から直接話を聞くもの許可が必要なの。
受けたい時はお姉さんに相談するといいわ。
それ以外は好きにしていいわよ……といっても、このギルドにはそんな依頼しかないのだけど。
納品するものは日によって相場が変わったりするから、確認すると良いわよ。
他にも何かわからない事があったら、お姉さんに相談なさい」
そういえばβテスターのクエスト報告偏ってたっけ。
許可取れなかったんだろうな。
横の壁一面に色々と依頼が張っていたが、ほとんど採取系だ。
やれそうなのはこの辺りかな?
「ホワイトスライムと薬草っていくら?」
「ホワイトスライムの身は一匹1Pね。
薬草は……この辺りで取れるのはチーノ草ね、これも一本1Pよ」
後は聞く事とか無いかな?
……うん、用事は済んだし次は狩りだ。
「ありがとう。それじゃ、またね」
「あら、気を付けて行くのよ。
森は危ないから、まだ近づかない方がいいわ。
もし入るなら、その前にはきちんと準備するのよ」
「うん、わかった。
じゃあね」
「いってらっしゃい」