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05 第一遭遇

 光を抜けると、半畳ほどの大きさの石造りの小部屋に出た。

 正面には取っ手の無い金属製の扉。

 振り返ると光のゲートは既になく、石の壁だけが存在していた。


「リアルだと、こんな感じなのか……」


 この場所の名は来訪の間。

 グレートホールを取り囲んで造られた大聖堂、その中心部に位置する。

 扉は中からしか開かず、その先は大回廊に繋がっていて、同じ部屋が大回廊に沿っていくつも並んでいる。

 扉の外側には鈴が付けられており、扉を開ければ鳴ってクエスターの来訪を報せ、大回廊にいる衛兵が案内してくれる。

 元々はグレートホールの周囲には何もなく、そこにランダムで出現だった。

 何もないのはグレートホールの周りだけでなく、プロローグでは国を造り上げたとか書いてるが、初期はせいぜい村?という感じだった。

 NPCとの取引は貨幣でなく物々交換とかだったりもした。

 クエストをこなしていくと発展していったので、皆で協力して更に資材や技術を投入した。

 皆が協力したのには裏がある。

 銀行やアイテム預かり所なんて無く、痛すぎるデスペナルティ。

 スキルで腕輪から他の物に移して免れる事はできる。

 だが、次は移した物をどこに置くかが問題になる。

 そこら辺に置いておくのは論外、仕掛けをした箱に入れても安心はできない。

 箱ごと持っていかれればそれでおしまいだ。

 なら、持っていかれないような大きな箱を、紛らわしいように沢山用意すればいい。

 というわけで大きな箱――マイホームを建てるため、木を隠すなら森の中的に街を造り上げた。

 そういえばマイホームどうしたんだろう?

 こちら作る時に残したりしてるんだろうか?

 防犯で色々と仕込まれ、一般人(NPC)では手を出せないのがほとんどだったはずだ。

 天変地異があったというし、ぶっ壊れたかな?

 壊れるとやばいのにいくつか心当たりがあるんだが……。

 うん、下手に近づくのは止めて置こう。

 自所属にしたエリアのモンスター(敵性NPC)はその所属に対してノンアクティブ(自発的に襲わない状態)になるので、街化してそこに作るプレイヤーも居たからダンジョンになってるかもしれない。

 気を付けないといけないな。

 この大聖堂は星神教会からの依頼で造られた物だが、一部に不評だった。

 スポット間を瞬時に移動できるスキルがZP1にはあった。

 グレートホールもスポットの一種なので移動できるが、移動するとここに出る。

 出ると衛兵に案内されかけたり、新しいクエスターじゃないと落胆されたりして使いづらいという評判だった。

 俺は気にせず何度も使って顔パスになったが。

 というか、「またあんたか」と諦め気味だったな。

 今回は正真正銘の新人だから大丈夫だ。

 そろそろ、覚悟を決めて出るか。

 この後しばらくこの下着姿のままで行動しないといけない。

 流れはわかっているが、無視するとどうなるかわからない。

 無駄に時間がかかるかもしれないので、とりあえず流れに乗って素直に案内されよう。

 扉を押すとチリンチリンと音が鳴った。

 だが、外に出ても誰も居なかった。


「あれ?」


 見える範囲に最低でも衛兵が一人はいるはずなんだが……。

 βテスターの話でもそうだったんだが、仕様変わったのか?

 それに、なんだか様子がおかしい。

 ZP1の頃と同じく静かではあるが、静謐というよりも空虚な感じ。

 辺りもあまり手入れがされてなく、まるで廃墟だ。

 まあ、居ないものはしょうがない。

 様子が違うのも気になるがとりあえず外に出よう、と向かいかけた時、人が一人向かって来るのを見つけた。

 小走りに駆け寄って来たのは、人の良さで苦労してそうな初老の男性。

 胸に白丸の前掛けで、縁取りに二本線……って司教じゃないか?

 司教が直接案内するのか?

 星神教の教義ではクエスターは神の使徒だが、そこまでの扱いは一度もなかったはずだ。

 しかも、この人の様子もおかしい。

 星神教の階級は上から順に大司教、司教、司祭、助祭の四種類。

 トップから二番目のはずなのに、その服が色あせている。

 司教は俺の前まで来ると立ち止まり、一旦息を整えた。


「クエスター様でしょうか?」


「あなたは?」


「私はシャナルザと申します。

 星神教の司教でして、この旧大聖堂の管理を任されております。

 お名前を伺ってもよろしいでしょうか?」


 旧大聖堂と来たか。

 とりあえず名乗る。


「タイチー」


「ではタイチー様、どうぞこちらへ」


 促されて司教の後を付いていく。

 通されたのは倉庫。

 ZP1では大聖堂に併設するクエスターズギルド(探索者互助会)――通称ギルドの倉庫で、βテスターの情報でもここで初期装備と少しばかりのお金を貰ったとあった。

 しかし……


「このような物しか用意できず申し訳ありませんが、どうぞお納めください」


 と言って渡されたのは、倉庫に詰まれていたボロ布と紐を一つずつ。

 真ん中の穴から顔を出し体を布で挟み、腰のところで縛るのだろう。

 正直期待はずれだが、ZP1初期なんてギルドすら無く初期装備など無論無い。

 それに比べれば、貰えるだけましだったりする。

 礼を言って身につける。

 成人なら縛っても横から丸見えで裾も膝上なんだろうが、俺だと難なくどころか結構大きい。

 裾も足首近くまで覆っている。

 手伝ってもらって、できるだけ小さいのを探した。

 それでも裾は膝下だった。


「ありがとう」


「礼を頂けるほどの事ではございません。

 本当に申し訳ありません」


「謝る理由でもあるのかな?」


「実は……」


 そうして話されたのはこれまでの経緯。

 千年前、偽神が倒され世界が正常に戻り、役目を終えたクエスターたちが去った後、クエスターの真似をする者たちが現れた。

 彼らはセミクエスター(準探索者)と名乗り、世界を冒険し開拓に尽力したりもした。

 その後、クエスターの能力を擬似的に再現した〈探索者の腕輪〉が開発され、そして時が流れてクエスターと言えば本来のではなく真似た者たちを指す様になった。

 星神教会はそれを否定し続けたのだが、大災害では本来のクエスターは現れず、国に貢献するクエスターたちとの対立はその権威を削ぐのに十分だった。

 そのクエスターたちを本来のクエスターと認める者たちも現れ、分派した彼らは真星神教会を名乗った。

 真星神教会が権威を持つようになり、国からの星神教会への援助は徐々に減り続けた。

 そして52年前、星神教会が待望していた本来のクエスターが現れた。


「ですが、かの者たちのほとんどは星の力を振るうことができませんでした。

 たしかに、普通の者たちよりも遙かに頑健で強い者も大勢居りましたが、星の力を振るえないクエスターに皆が落胆いたしました。

 しかも多くの揉め事を起こし、その上二年と立たずにかの者たちは消え去ってしまいました。

 理想を砕かれて星神教会から多くの者が去りました。

 残った者も一人減り、二人減り、今ここに居るのは私一人。

 国からの援助は打ち切られ、併設している資料館のおかげで細々と暮らしておりました。

 ここ数日、クエスター様方が来訪いたしましたが、おもてなししたくともその様な余裕など無く、こうして以前に難民たちの支援にと寄進を募って集まった物の余りを渡すのが精一杯なのです。

 星神様の、そしてクエスター様方の名誉を守りきれず、本当に申し訳ありません」


 という流れのようだ。

 NPCもある程度戦えるようになったのか。

 それにしても、もしかしてここまで狙ってβテスター選んだのか運営?

 知らない施設名が出たので聞いてみることにする。


「……資料館?」


「はい。古の時代のクエスターズギルドを改装したもので、偽神を倒した三英傑の像を始め、クエスター様方の当時の偉業を展示しております。

 よろしければご覧になりますか?」


 偽神を倒した三英傑とか嫌な予感しかしない。


「いや、いい。

 それじゃあ、そろそろ行くかな」


「そうですか。

 長々とお引止めして申し訳ありません。

 クエスターズギルドへ行くのでしたら、東門の近くのをご利用ください」


「東門?

 他にもあるのかな?」


「はい。北門と南門の近くにもございます。

 北のは通称戦士ギルドと申しまして肉体派のセミクエスターが、南のは通称魔術師ギルドと申しまして知性派のセミクエスターが在籍しております。

 双方共に長い歴史のあるギルドで気位も高く、タイチー様のそのお姿では難民として扱われ、まともに相手してもらえないでしょう。

 東のクエスターズギルドでは難民たちにも仕事を分け与えておりますし、私からの紹介とおっしゃれば大丈夫でしょう。

 ただ、東には以前クエスター様方が住まわれていた屋敷などが多くございまして、誰も手を付ける事ができず無人地帯でした。

 そこに難民たちが住み着いてスラムとなっておりますので、お気を付けください。

 それから、西は貴族街となっておりますので、西へ向かう際もお気を付けください」


「ありがとう。世話になった」


「いえ、何もお構いできませんで」


 そうして司教と別れる。

 裏口から出て正面に回る。

 クエスターズギルドの正面がちょうど東向きなのだ。

 幾つもののぼりが翻っている。


『おいでませ、クエスター資料館』

『聖女物語』

『魔道王伝説』

『神鍛冶、珠玉の一品』


「うわ……」


 聖女、魔道王、神鍛冶。

 ここまで押してるという事は、これが三英傑だろう。

 やはり偽神とはラスボスで、英傑とは唯一倒せた俺たち六名か。

 たしかに覚えのある通称だ。

 鬼姫、天狼、猫マタギは向こうのだから無いのだろう。

 というか、厨二病時代の自分を見せ付けられてるようで恥ずかしい。

 俺の通称は魔道王。

 他にも邪道王や非道王だのと呼ばれていた。

 邪道で非道な魔術師という意味で、王なのはPC名から。

 ZP1でのPC名はロックワン。

 魔術師という事でウォーロックをちょっともじって付けた。

 つまり、ロック(ワン)

 これをつい口を滑らしたのが運の尽きで、以来○○王と呼ばれる事が増えた。

 広めるにはこれが一番座りがよかったのだろう。

 中を確かめるのは恐ろしくてできやしない。

 不可侵領域に定め、見なかった事にして元クエスターズギルドに背を向け歩き出した。



―――



「星神様、どうか我らの罪をお許しください。

 かの者が正しきクエスターでありますように……」



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