03 比較と考察
『十の星が取り巻くこの世界の中央に、かつて一つの国があった。
大帝国エデン。
星の力を利用し繁栄を極めていたが、突如として滅びた。
動植物が異常繁殖し、中には異形化するものも現れ、それに呑みこまれたのだ。
人々は散り散りとなった。
彼らは目指した、遙か西の聖地へと。
だが、人々にも異形化する者が現れた。
全身が異形となった者は心まで異形と化した。
そうならない者も居たが、いつか狂うのではないかと排斥された。
排斥された彼らは、何かに導かれるように東へと向かった。
聖地、そして東の果てに在ったのは大地より星の力が吹き上がる巨大な穴。
その周りでは異常繁殖は抑えられていた。
穴の側の狭い範囲に人々は身を寄せ合い、何とか暮らした。
そんな状況がある日、一変変わった。
穴から人が現れたのだ。
現れた者は周りの人々と似てはいたが、遙かに巨大な力を持っていた。
その者はこう言った。
「我らはクエスター。星より生まれ、世界を探る者」
人々は穴をグレートホールと名付け、次々と現れるクエスターの協力を得てそこを中心に国を造り上げた。
西は大帝国の名を継ぐエデン、東は新たなる国アルカディア。
そしてまた一人、クエスターがこの地に現れる』
というのが『十帯物語-Zodiac Planets Tales-』――略称ZPTのプロローグで、このクエスターというのがPC。
ゲームの舞台は所謂天動説型で世界の中央に大きな大陸が一つあり、東から西に真っ直ぐ太陽が運行し、南から北へ十帯の由来である連なった十個の惑星が回っていた。
西と東、どちらかの国に所属して世界各地にある星の力の集結点――プラネットスポット、通称スポットを開放し、人類の生存圏を拡大させていくというのが主な流れだ。
成長方式はレベル制と技能制の混合。
PCレベルは敵を倒して獲得するEXPPを消費して上げ、SPを獲得しステータスに割り振って上昇させる。
PCレベルの上限は100だが、特殊クエストをクリアすることで上限を伸ばす事ができる。
技能はタレントと言い、行動やクエストで取得し、対応する行動やスキルを使う事でレベルを上昇させる。
タレントは1度に十個までセットでき、残りは控えに回せるが合計で1000レベルまでしか取得できない。
ただし、100レベルになったタレントはマスターとなり、セット数や1000レベルの制限から外れる。
ステータスはアーキとブーストに分かれ、上昇させれるのはブーストのみ。
ステータスの種類はPP、LP、Str、Vit、Dex、Agi、Int、Spiの八つ。
この内PPはレベルから、LPはアーキから算出され、アーキはPCの外見から設定される。
PPは他のゲームでいうHPやMPなどを合わせた様なもので、これがある限りLPは減少しない。
生き物は全て星の力が受肉してできたもので、肉体が宿せる量から生命活動に必要な分を引いた値がPPの最大値。
PPによって強化され、これがある限り疲れず怪我をしても瞬時に治るが、尽きれば生身に戻るという設定。
LPは生身の肉体の耐久値で、0になれば死亡する。
クエスターが倒すとその生き物を形作っている核の部分――EXPPも破壊され、周囲に飛散するのを吸収するというのが獲得の仕組み。
EXPPを失った生き物は力に還元され、その生き物の特性を残した靄のようになって一時留まるが、徐々に世界へ溶け込んで消えていく。
消える前に近づくと吸収でき、それが倒した敵からアイテムを取得する仕組みとなっている。
クエスターは生き物よりも純粋な星の力に近く、LPが0になると受肉が解けすぐに拡散して星に還り、星を巡る力の流れに乗って集まり甦る、というのが死に戻りの説明。
この時に全てが集まらず劣化するというのがデスペナルティ。
EXPPの1%を失い、装備、お金を含めた所持品の総数の半分をランダムで失う。
なお、お金の単位はP。
クラスは無いが、レベルを上げてとあるクエストを受けるとPPにフィジカル、テクニック、マインドのいずれかの性質を付けられる様になる。
PCの選択できる種族はエデンが原人、貴人、鉱人、アルカディアが鬼人、狼人、猫人の六つで、それぞれブーストに種族ボーナスが足される。
原人――黒髪黒眼で現実世界の人間と大差なく、種族ボーナスはSpi。
貴人――金髪緑眼で長い耳と白い肌で、種族ボーナスはInt。
鉱人――茶髪青眼で髭とずんぐりむっくりな体、種族ボーナスはVit。
鬼人――白髪白眼で角と鋼のような体、種族ボーナスはStr。
狼人――灰毛赤眼で人の形をした狼、種族ボーナスはAgi。
猫人――黄毛黄眼で人の形をした猫、種族ボーナスはDex。
これは一般的な容姿で、ある程度変える事ができる。
他にも、所属国から抜けて敵国やどちらにも所属しないプレイや、生産はツールによってオリジナル武器を製作できたり、他の星へ移動して冒険など色々あるがZPTに関してはここまでにしておく。
では『十帯英傑伝-Zodiac Planets Heroes-』はどんなものなんだろうか?とβ版の情報収集に勤しんだ。
遊べない鬱憤が溜まっていくが仕方が無い。
情報を制する者、世界を制す……特にこの運営のは。
公式サイトからゲーム情報サイトや、Wiki、掲示板に個人ブログまで色々と回って集めた。
『かつて人類が滅びに瀕していた時、英傑たちによって救われた。
それから千年。
かつてと同じ様に動植物が異常繁殖し、人類はその生存圏を縮小していった。
残ったのは西の国エデンの首都ダスクライツと東の国アルカディアの首都ダークドーンのみ。
新たな英傑の登場が望まれている』
というのがプロローグ。
略称はZP2で、それに伴って前作にZP1という呼称が生まれた。
全年齢、ペット対応でペットや低年齢者にはAIで思考補助で他と大差なくプレイできるようになっているという。
業界初ペット対応とか言ってたVRMMOが派手に爆死して運営が潰れたおかげで広まった技術の恩恵だそうだ。
ペットいないし低年齢でもない俺には関係ないが。
VR内でナンパしたら相手が幼児や動物だったという体験談を見かけた……俺はナンパしないよ?
時間経過は24倍速――ゲーム内時間1日が現実の1時間。
1時間が1日とか魔法みたいだよな。
きちんと1日を体感できるらしいけど、どうなっているんだろう?
倍速式だとプレイ時間が制限されるが、俺は丸一週間接続しなければ大丈夫と太鼓判を貰っているので問題ないか。
PCで選択できる種族は十種。
前作のに加えエデンに翅人、翼人、アルカディアに竜人、虫人が追加された。
翅人――金髪青眼で大きさは普通の人と変わらず長い触覚、種族ボーナスはDex。
翼人――白髪黒眼で翼の様な耳、種族ボーナスはAgi。
竜人――緑鱗赤眼で人の形をしたドラゴン羽無し、種族ボーナスはVit。
虫人――黒肌黄眼で人の形をした蟻、種族ボーナスはInt。
所属国を変えると容姿が変化するようになったらしい。
PC作成時に別国の姿も一緒に表示されて変更でき、どちらにも所属しない場合はその中間になるらしい。
原人は人型の猿に、貴人は爪が尖って犬歯が伸び、鉱人は肌が石に、翅人は人型の蜂に、翼人は人型の鷹に、鬼人は角を残し、狼人と猫人は耳だけ残し、竜人は肌に薄く鱗残し、虫人は触角残して人になるらしい。
レベルの上げ方が変更になり、EXPPを消費してPPを1ずつ上昇させ、5ポイント上昇ごとにSPを1取得するという。
それに伴って初期ステータスも変更されたようだ。
載せているのを見るとPP量は増えたが、比べて他の能力値が低い。
PC作成時に割り振れるSPが減ったんだろう。
アーキは現実の身体能力をそのまま取り込むらしい。
無論、変更を加えればそれに伴って変化するという。
楽な変更の仕方として年齢スライダーがあり、10歳~100歳を自由に変更でき、成長がシュミレーションされて外見が変更されるという。
試した人の報告によると、若くするとその年齢の自分そのまんまだったらしい。
世界は球形になったようだ……どう辻褄合わせるんだろう?
何処からでも見えたはずの十帯が地平線に見えたという話からの推測だから間違いかもしれないが。
PPの性質変更ができるかはわからない、そこまで進めたβテスターの報告が無いからだ。
βテスターからの情報は不満が大多数を占めていた。
メニューが開かない、自分のHPがわからない、敵のHPがわからない、説明書読まずに入ったらログアウトできなくて泣きを見たなんてのもあった。
中でも多かったのは、スキルは取得しても使えず、武器などのタレントが取得できないというものだ。
たまにタレント取得やスキル使用の報告も在ったがほんのわずか。
タレントを取得できずスキルが使えないのはゲームの根本に関わる問題のはずだが、運営から『仕様』と一蹴されたという。
これは、もしかしたらと思う事がある。
きちんとやらないと身に付かないんだろう。
VR系は大きく分けて二種類ある。
動作にシステムの補助が在るタイプと無いタイプ。
現実でもできるタイプは大抵後者で、どれだけ補助があるかは物によるがVRMMOのように現実ではできない事が多いタイプは大抵前者。
βテストの情報を見る限りZP2は前者だろう。
βテストがされたのは改正VR法施行のすぐ後、今ではシステム補助が在ってもOn/Offがある物が多いが、調べたところ当時システム補助が無い又は外せるタイプは全て18歳未満禁止だった。
公式に残っていたβテスターの募集人数は1万名、条件は17歳以下でVRセルを持っている事。
17歳以下がやれるVRMMOはシステム補助を受ける物だけ。
システムの補助とは、単純にいうとパターン化された動作で思った通りに行動するというものだという。
例えば、単に剣振っただけでも刃筋が通るように動きが補正されるということらしい。
つまり、動作を知らなくても、目茶苦茶でもシステムがなんとかしてくれる。
動作を身に付けるには動きを理解してやるか、何度もやって染み付かせるしかない。
しかし、今も昔も変わらず人気があるのは現実にできないような技や魔法。
そういうのはそれ自体の動きが出鱈目だったり派手なエフェクトでごまかしたり、魔法なんかは呪文を言うだけで発動して自動追尾とか。
そうして身に付くのは、応用の利かないそのゲーム専用動作のみ。
それに慣れた者には剣一つまともに振るのも難しかったんだろう。
結果として悪評が広まっている。
クソゲーとして色々な所でネタにされ、少しでも擁護しようものなら今でも猛烈に叩かれる。
だが、わかる人ならPSが物を言うシステム補助の無い廃人御用達の代物だと気付けるだろう。
ZP1はアクション性が高くPSが物を言うタイプだったので、それがVR化したなら当然ともいえる。
まあ、βテスターにZP1やった事のある人はいないんだろうが。
VRセル持ちの中には、サイバーグラス対応のゲームなんて古くてやるに値しない物だという人が多い。
普通はβテスターに前作など同運営のゲームのプレイヤーを優先募集する事が多いが、ZP2では全く無かった。
何か裏があるのでもと噂されていたし、この結果はわざとっぽい感じがする。
何せ、ゲーム情報サイトとかの優先募集から導き出されるβテスターの構成は15歳未満9500名、17以下500名。
運営の事だ、募集時のアンケートを読んで声が大きく厨二病を患っていそうなのを厳選したことだろう。
ゲームの情報を出し渋った上での悪評にかこつけた宣伝だったようだ。
他に見つけた情報は序盤の進め方やアイテムなどで、この辺りはZP1とあまり変わらない。
ただ、一つ不安がある。
ZP1ではスキルは力ある言葉による行使――つまりスキル名を言うだけで発動するという設定だった。
タレント取得を前提としないスキルもあるのに、ZP2ではそれでは足りないという。
その答えはゲームの中にあるだろう。
待ち遠しいが、まだ後半月待たなければならない。
それまでは現実で修練を積むか。
だが動作はいいとして。魔術の修練なんてどう積めばいいんだ?
今回も魔術系をやろうと思ってたのだが……。
……とりあえず座禅を組んで精神統一とか集中とかしてみるかな?