13 スキルの練習
火属性じゃないので、スキル練習の場所はどこでもいい。
という訳で、いつもの所までやってきた。
ここなら人は少ないので、ある程度好き勝手やれる。
さて、色々と試してみよう。
まずは、スキルが使えるかどうかだな。
溜めない状態で唱えてみたが、もちろん何も起きない。
さて、本番だ。
溜めるのは息をする方でやった、こっちのタレントも上げておきたいし。
右手にある程度溜めた所で人がいなくてスライムのいなさそうな方に構え、見てわかりやすいように土属性の方を唱える。
「《アース》――ガァッ!!」
唱えた瞬間、右手が破裂した。
身構えてなかったので、痛みにのた打ち回る。
痛みが治り足元を見ると、土が不自然に落ちていた。
スキルは一応発動したようだ。
星の力が溜まっている所を中心に発生するのか。
右手に溜めてたので、内部からボンッという事なんだろう。
スキルを使うには、体の外に溜めないといけないのか。
なら、そうするだけだな。
もう一度、今度は右手で止めないでもっと先に力を溜めよう。
…………………………うーん、上手くいかないな。
溜まらないでそのまま流れ出てるような感じだ。
いきなり外に溜めようとしたのは、流石に無謀だったかな?
一旦溜めてから外に出してみるか。
まずは右手に溜めて…………で、コレを出すと。
ググッと押し出す感じでいいかな?
……うん、上手くいきそうだ。
もうちょっと……よし、これでスキルが使えれば成功だな。
唱えてみるか。
「《アース》!」
……なにも起きなかった。
完全に外に出すとすぐに拡散するのかな?
なら、今度は全部外に出す直前の状態で唱えてみるか。
…………準備はできた。
手、また破裂しないよな?
「《アース》!」
今度は破裂しないで、右手の前に丸い土の塊が形成され――ボトッと落ちた。
ZP1では真っ直ぐ飛んでいったんだが……。
スキルを唱えると作られるだけで、飛ばすのにはまた別に一手間必要なようだ。
できたのを投げつける?
いや、それだと土ならともかく、他のは無理だろう。
土も塊となると、Strが高くないとそう速くは投げれない。
そうなると、星の力の段階で勢いを付ける方法だな。
……とりあえず、腕を振ってみるか。
まずは、星の力を溜めてぎりぎりまで押し出した。
次に、腕を振り被り、振り下ろしてスキルを唱える。
だが、土の塊はその勢いに欠片も影響されず、ボトッとその場に落ちた。
腕を振っても、勢いは付かないのか。
後、考え付く方法は、星の力を押し出してスキルを唱えるくらいかな?
なら、もっと星の力を外に出すのをスムーズにしないと。
今のままでは、ほんの少し前に落ちるだけだ。
それに勢いを付けるには、距離があった方がいいだろう。
今みたいに一旦手に溜めてからではなく、もっと離した所から一気に出せるように頑張るか。
両手でやれるようになれれば色々と使い道はあるし、右手だけではなく左手も合わせて練習しよう。
方針は決まった。
後は練習あるのみだ。
さて、始めるか。
両手に星の力を溜めて……押し出して……引っ込めて……動かして……もっと速く……もっと速く……。
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……ふぅ、こんな感じかな?
これなら結構飛ぶだろう。
そろそろスキルを試してみるか……と思ったが、真っ暗だな。
いつ日が沈んだんだろう?
目を凝らしても、周りはほとんど見えない。
スキル試しても、これだとどうなるかが見れないな。
……お腹空いてるし、とりあえず飯にするか。
その場に座り、背負い袋からヨモギ餅もどきを取り出し食べる。
夜空を見上げると、星が照っていた。
……そうだ、空に向かって放つか。
飛んでいく土の塊が、影になって見えるだろう。
そのまま放つよりは、いくらかましだ。
食べ終えると立ち上がり、肩に星の力を溜めて右手を伸ばす。
腕の中を伝って加速させ、手から出る瞬間に唱えた。
「《アース》!」
ドンッという音と共に、夜空の一部が陰った。
パラパラと何かが顔にかかってくるので、指で摘んで潰したり舐めたりしてみた。
……土だ。
ということは、コレは土煙なのかな?
付いた勢いに、土の塊が耐えられなかったみたいだ。
圧縮すれば何とかなるかな?
タレントのレベルは上がってないだろうけど、目安だから何とかなるかもしれない。
ZP1だと、高Intでも圧縮をかけない場合は、飛距離や速度に大差は無かった。
そして圧縮をかけた途端、それらに大きな差が生まれた。
こういう理由だったようだ。
無属性の方はどうなんだろう?
あっちは純粋に威力だから、自然に拡散するまでそのまま飛んでいきそうだ。
ZP1だと同じ段階、同じ形状のスキルなら、属性違っても大体同じ速度、同じ飛距離だった。
耐えられないものに合わせていたのかもしれない。
一応スキルは成功したので、実験を始めるか。
まずは、二箇所以上溜めた場合だな。
上手くいけば連続で放てる。
破裂する可能性もあるが、それはそれで別の可能性にもなる。
……さっきぐらいの音なら迷惑にならないかな?
念の為、無属性の方でやるか。
両肩に星の力を溜め、右側のだけ動かし放つ。
片方だけ動かすのは、何とかできるようになった。
「《フォース》――ッ!」
左肩が破裂し、腕が吹き飛んだ。
激痛が走ったが、今度は覚悟できていたので、のた打ち回りはしなかった。
……あらかじめ溜めておいて、時間差で放つの無理だな。
だが、一度に複数はできそうだ。
試しに両肩に星の力を溜めて、両方を同時に動かす……うん、これならできそうだ。
もっと増やしたいが、手は二本しかない。
小さく分けて指先から出すかな?
そういえば、どの程度の量からスキル発動するんだろう?
これも調べてみる必要があるな。
色々な所から出せたら意表をつけるし、手に拘らなくてもいいか。
勢いをつけるのはなんとでもなりそうだ。
結構な速度が出たみたいだしな、この短い腕でも……くっ……。
……となると、溜めた星の力を体中動かしてみるか。
場所によっては動かしやすかったり、逆にしにくかったりするかもしれないし、一通り通してみた方がいいだろう。
まずはへその下辺り、丹田に溜めてみる。
何となく、溜めやすい気がする。
複数箇所に溜めておくと暴発しかねないので基本は体の一箇所に、咄嗟に左右どちらでも対応できるよう胴体辺りに溜めといた方がいいかなと思ったが、ここが良さそうだ。
次に、胴体の中をぐるりと動かす……スムーズに通るな。
渦を巻くように動かせば勢いも付く、これは応用が利きそうだ。
……あっ、そうだ。
星の力を出す時、回転かけたらどうだろう?
銃弾は回転で貫通力上げてるとか聞いた事あるし、一直線に並んでる相手とかに使えそうだ。
今度はつま先まで下ろしてみる。
問題なく動かせた。
ぎりぎりまで外に出して、引っ込める。
……足裏から噴射して、空を飛べないかな?
今のところ放つのに反動は無いし、そのままでは無理そうだが、できたら面白そうだ。
両腕は大丈夫なので、残るは頭だな。
頭から放つ、か……。
天辺からだと、怒りの漫画的表現とかハゲビームしか思い浮かばないな。
目や耳や鼻から出てきたら、確かに意表はつけるだろう。
その後、どんな評判が流れるかは……想像したくもない。
口から放つならまだましかな?
スキルを唱えないといけないから、難しいけど……。
まあ、どれにしろ顔の前だから、視界の邪魔な気がしないでもない。
……後頭部からとかはアリかな?
とりあえず、頭へ動かそう……これで一通りだ。
動かしにくい場所は無かったな。
ふと、視界に何かが映った気がした。
目を凝らすと、薄ぼんやりした白いのが見えた。
丸い感じの……ああ、ホワイトスライムか。
……えっ、なんで?
この辺りの草は深く、近づかないとホワイトスライムは見えない。
草が埋まるほど土撒き散らしたかな?
この距離で見えるのは、【暗視】のレベルが上がったからだろうけど。
……まあいいや。
攻撃してこないようだから問題無い。
今はこっちに専念しよう。
もう一つ、別に星の力を溜める。
コレを最初のとは別に動かすのだ。
単純に左右だけではなく、上下前後とか色々動かせるようになれば、複数の方向にいるのを一度に攻撃できる。
とりあえず、二つからだな。
これができるようになったら、どんどん増やしていこう。
さて、練習だ。
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これで、十個目………………できた!!
個数が増えると動かすのとは別の問題が出てきた。
溜めた力同士は、互いに触れるとくっつくのだ。
ぶつからないよう圧縮して小さくできないかとか、一旦くっついたのをまた別々に分けたりとか、近づいても別々にできないかとか、色々と試行錯誤を繰り返して、なんとか増やしていった。
冷静に考えてみると、こんなに増やしても使い所が難しい。
発生するものの大きさ考えるとある程度隙間取らないといけないし、森とか障害物多い所だとこんなに射線は取れない。
……ちょっと暴走しすぎたか。
気が付けば日が高く昇っていた。
そろそろログアウトしないと夕飯に間に合わなくなる。
旧大聖堂に戻る……前に食べていこう。
腕が吹き飛んだ分なのか、さっきよりもお腹が空いている。
袋から取り出して、もぐもぐと食べる。
……もう残り少ないな、補充しておこう。
背負い袋を担ぐと、ホワイトスライムを一匹捕まえて揉み殺し、湧いた一匹も同様にした。
回復分は今のところいらないから、チーノ草は必要ないな。
それじゃ、ログアウトしに向かうか。