11 スキル屋
ふと我に返ると小腹が空いていたので、おやつに例のヨモギ餅もどきを摘んだ。
練りこんで無いので味がまばらだったが、それなりに食べれた……チーノ草って甘苦いんだな。
混ざっているチーノ草に気付いたのか、ホワイトオニキススライムが這い上がってこようとした。
袋に入ってた時は気付いてなかったのに、匂いとか感知しているのかな?
いやでも、鼻とか無いし、どうやって……。
共食いはどうかと思ったので、分けておいた根っこを乗せるとおとなしくなった。
食べ終えると、また動作中の溜めと維持の練習に移った。
中々上手くいかない。
始めの頃に比べれば散る量は減った感じはするが、集めるのをやめるとすぐに散ってしまう。
供給速度は上がったが、動きながら維持するのが出来てないようだ。
動かない状態でなら、そこそこ上手く維持できるんだが……。
散るよりも多く集めるという力技で解決するしかないのかな?
……結論出すのは後にしよう、やり方悪いだけかもしれないし。
そうして、日の出まで両手にPPを溜めながらホワイトオニキススライムを揉み続けた。
結局、動きながら維持することはできなかった。
さてと、日が昇ったし、ギルド開いただろうから精算してスキルを買いに行こう。
その前に、ホワイトオニキススライムを旅立たせないとな。
拳を握り、ホワイトオニキススライムを殴りつけ、次に来る痛みに身構える。
しかし、いつまで待っても体当りをしてこない。
……ある程度の接触は攻撃認定されないみたいだから、もしかしてアレなのかな?
攻撃しても実力差ありすぎて、『今、何かした?』って返されるあの状態。
そういえば、旅立つ時の轟音をまだ聞いてないな。
遭遇してないのかと思ったけど、もしかして誰も旅立たせられなかったのかな?
早めに仕込んでおこうと思ったけど、無理なら仕方ないか。
ホワイトオニキススライムを放し、東門へ向かう。
これから狩りに向かうらしき人たちが、東門からぞろぞろと出てきていた。
夜の間休んでいたのだろう、ログアウトすれば30分だし。
何人かは森へ向かっている。
サービス開始時間からやっていた人たちだろう。
東門を通り抜けようとすると声をかけられた。
「おう坊主、あれからずっと外にいたのか?」
「うん、そうだけど?」
「あれからお嬢ちゃん、日暮れまでずっと待ってたんだぜ」
「……へー。
そういえば、ちゃんと捕まえられた?」
「おうよ。
でも、ああいう悪戯はやめといて欲しかったぜ」
「悪戯?」
「坊主じゃねえのか?
クエスターの呪いとか書いたのは」
「あー、アレね。
仲間とかいて持ってかれたら困るなーって」
「ああ、きっちり効き目あったぞ。
行ったら頭つき合わせて相談してたぜ。
俺もどうしようか悩んだぞ」
「……ごめんなさい」
「まあ、おかげで三人捕まえられたんだがな。
あっ、そうだ。
お嬢ちゃん、また来るって言ってたぜ」
「あっ、じゃあ用事あるから行くね。
それじゃ」
「あっ、おい――」
面倒ごとに巻き込まれる前にギルドに行こう。
「あら朝からなんて、お盛んね」
冗談は無視してさっさと精算してもらう。
この間と同じく、一つずつだけ残して後はお金に変えた。
600ほどになったので、そのお金を持ってスキル屋へと向かった。
スキルを覚えたら練習場所探さないといけないな。
一番安いのはアレだろうから、周りに迷惑かけない場所を見つけないと。
「何の用だ?」
「昨日言ってた一番安い攻撃魔術下さい」
「……これだ」
そう言って一つの巻物が出された。
「最下級土属性」
「え?」
「そいつの説明だ」
いや、疑問に思ったのはそこじゃないから。
最下級ってなに?
スキルを覚えた後はタレントのレベルを上げて拡大や圧縮できるようになるはずなんだが、それだと同じスキルで上のを売ってるみたいだ。
しかも土属性?
ZP1では人気の部類だったんだがな。
一番不人気だったのは火属性。
威力はあるのだが延焼が起きるし、属性間の影響が酷い。
属性があると組み合わせによって色々と起きる事がある。
例えば、高威力の火属性と水属性のスキルなどがぶつかると水蒸気爆発が起きたりする。
合体技とかいって使いこなしてるのもいたが、自分の使ったスキルを狙われたり思いもかけないピンチとか起こしやすかったので不人気だった……派手好きな人には好まれていたが。
ZP1の頃は新人があまり増えず、結構だぶ付いてたから値段的な違いは無かった。
千年の内に在庫が減って不人気のが一番残ってるだろうと思……ってNPCは伝承スキルで覚えるんだった。
となると、最近のプレイヤーの傾向かな?
「400ぐらいで買えるのある?」
「直接攻撃魔術か?」
「うん」
「最下級無属性だな」
次に安いのは無属性なのか。
見えない、聞こえないでわかりづらく、威力も高い。
属性の影響を受けないので、安全に相殺もできるから一番人気だった。
これは買っておこうかな?
とりあえず、他のもどれくらいか聞いてみよう。
「他の属性はいくら?」
「風属性が800、火属性と水属性が1000だ」
「他には?」
「これだけだ」
他にも色々地下倉庫にあるはずだが、天変地異の影響で一部崩れてたりして手に入らないのかもしれない。
それにしても、水属性が一番人気か。
となると、火属性で攻撃して、風属性で威力増加、水属性で延焼を食い止めるかな?
手数とPPの無駄遣いと言われていた方法だ。
先に濡らしておくなら不意打ちはできないし、威力が高いとすぐ蒸発して無駄になりやすく、後でかけて消す方法もあるが、手が回りきらなくて不測の事態が起こしやすい。
後かけなら土属性の方が効果的だが、状況見て双方使い分けるなら属性を絞った方がレベル上げやすい。
それに、同Intなら水属性の方が範囲が広くなるのも理由かな?
火と風の合体技だけ見れば、瞬間ダメージは高く、コストは低い。
でも、消火とか含めると、コストは割高になる。
無属性で押した方が総ダメージは多くなるし、周りの迷惑にもなりにくい。
VRからのプレイヤーは事前に前作の情報調べていないのかな?
いや、延焼食い止め用に水属性買ってるなら調べたはずだよな、他に低レベルでの水属性の使い方って無かったし。
VRになって新しい使い方でも発見されたのかな?
後で掲示板とかで探してみるか。
「上級のはある?」
「火属性と水属性の十級ならある。
両方8000だ」
やっぱり、あったか。
十級という事はあと九つ上があるという事だな。
拡大圧縮できる段階も同じく十段階。
関係あるのか無いのか、どうなんだろう?
まあ、8000Pなんて貯めるのはまだ先の話だ。
それまでには情報出るだろう……出るといいな。
聞く事聞けたし、そろそろ買ってくか。
「それじゃ、無属性のも下さい」
もう一つ巻物が出された。
「合計で600だ」
お金を置くと、店主は一瞥してさっと片付けた。
スキルスクロールを背負い袋にしまう。
次はタレントの整理だな。
「じゃあ、また買いに来るね」
「ああ」
―――
子供が一人、スキルスクロールを買って店を出て行った。
服よりもスキルを選ぶなんざ、一攫千金でも夢見ているのだろう。
住み場所を追われ流れ着いた難民の中には、現状の不満を周りにぶつける事しかできない奴も多い。
そいつらに比べれば遙かにましな行動だが、あの若さでクエスターか……世知辛い世の中だ。
それにしても、土属性と無属性がまた売れたか。
最近、店に難民のクエスターがよく来る。
自暴自棄から脱却しだしたのか、それとも新しく一団が着いたのかは知らんが、その中でも魔術を買いに来た奴らのほとんどが、それらを買っていく。
前なら多少高くても、金を貯めて火属性を買っていった。
難民でも実力を示せば、南北のギルドに入ることができる。
南北のギルドは受けられる依頼の種類も量も東のギルドと段違いで、稼げる金額も遙かに多い。
クエスターになれた難民は、南北のギルドに入ることを目指す。
魔術師ギルドは伝説の魔道王の格言に従い、火属性の力を重んじる。
その為、入会には火属性が必須だ。
基本的に実力主義だが、難民の場合は入会後の扱いが悪い。
風属性や水属性を強制的に覚えさせられ、火属性への援護や後始末などを強制されているそうだ。
実際、魔術師ギルド職員が風属性や水属性のスキルスクロールを買いに来る。
伝えるスキルがあるはずだが、魔術師ギルド職員によるとそこまで手が回らないのだとか。
そう言った魔術師ギルド職員の顔には、『乞食如きが理解できるのか?』という感情が透けて見えた。
そんな所でも、前の難民たちは入ることを目指した。
しかし、最近来る奴らは今まで見向きもされなかった土属性、火属性の下位互換といわれる無属性を喜んで買っていった。
他よりも安いという理由だけではないと、長年の経験が訴えている。
まだ、ああいう奴らが来るのか?
分けておいた最下級水属性魔術のスキルスクロールに目をやる。
昨日、戦士ギルドから注文を受けた物だ。
戦士ギルドは武術による実力を見せれば入ることができる。
入会後は厳しい上下関係にさらされ、一人前と認められれば奥義を伝授される。
この奥義は、火を重んじる魔術師ギルドに対抗して作られた伝統ある水属性の武術スキル。
覚えるのに水属性を身に付ける必要がある。
本来は滝行などで水属性を身に付けるのだが、今回は水属性魔術を使って手っ取り早く身に付けようという事の様だ。
これは奥義開発の当初に行われた方法で、台帳にも最下級水属性魔術のスキルスクロールを戦士ギルドに大量に納品した記録がある。
だが、魔術師ギルドに対抗するのに魔術を覚えてどうする?と、その後は別の方法に変えたらしい。
では今回、何故わざわざ節を曲げて水属性魔術のスキルスクロールを買う事にしたのか。
注文しに来た戦士ギルド職員の話によれば、昨日の昼頃、一つのパーティーが壊滅しかけて森から逃げ帰ってきたのだという。
普通なら修行不足と一笑に付すところだ……それが、戦士ギルド最上位のクエスターたちでなければ。
今までに無い大量のモンスターに襲われたという話に、有望な見習いをすぐ一人前にして、前線の人数を増やし対処しようという苦肉の策なのだとか。
突然の異常事態……何故か、最近の客と関連している気がする。
世界に災いある時、クエスターが現れる。
カビの生えた言い伝えだ。
だが…………ふっ、ただの店屋の主人が頭悩ます事じゃねえな。
今まで見向きされなかった分、まだまだ在庫には余裕がある。
この調子で買われても、当分値段は据え置きできる。
店主なら店主らしく、自分のやれる事をやるとするか。
―――
「貴様、自分が何をやったかわかっているのか!!!!」
「す、すいませんでした!!」
「……女史に怒られて土下座してるけど、あいつまた何かやったのか?」
「NPCじゃ無理ゲーだってレアやユニークの発生、封印してたのは知ってるだろ?」
「ああ。
正式版の開始に合わせて解除するんだったよな、確か……って、まさか?」
「そのまさかだ」
「えっ、緊急メンテ?!」
「いや、スイッチ入れるだけみたいなもんだから、メンテの必要は無いぜ」
「あー、よかった。
そういやあいつ、最終チェックの人員に入れられてたっけ」
「そういう事だ。
モンスターの個体数監視してたら全く出ないんで発覚、そこが奴の担当箇所だったってわけだ。
でだ、わかるだろう?」
「……他にも在るかもしれないって事か。
はぁ、今日は徹夜だな……」