一
画面の二十六号司令官は、億十郎と視線が合うと、顔を真っ赤にさせ、両目を吊り上げた。
「お前か! なぜ、お前がここにいる?」
絶叫して、地団太を踏む。億十郎は吠え返した。
「筑波山の、鳥居に飛び込んだのだ!」
億十郎の言葉に、二十六号司令官は立ち竦んだ。信じられなさそうに、首を何度も振る。
「嘘だ! 俺が特別な保護措置をとらないと、江戸のNPCは境界を越えた途端、データが消滅してしまうはずだ! お前は、何者だ?」
その時、理恵太がぐいっと前へ進み出た。
「この大黒億十郎は【遊客】の力を受け継いでいるのよ! 今は【遊客】と全く同じ能力を持っているわ!」
はっと二十六号司令官は、自分の頭を押さえる。
「当然だ! お前と戦ったとき、俺は【遊客】の気迫を浴びせたが、お前はまるっきり、平気だった。そうか、【遊客】なのか……」
なぜか二十六号司令官は、にんまりと笑みを浮かべていた。何度も一人で頷いている。
「そうか、そうか……。やっぱり、俺の考えは正しかった……」
五号司令官は、不審の表情で話し掛ける。
「二十六号司令官! 訳を教えてくれ! お前が江戸仮想現実と、こちらの〝戦略大戦世界〟を繋ぐ関門を作った理由は、なぜだ?」
二十六号司令官は、ぎろりと物凄い視線で、こちらを見返した。
「我が軍のためだ! 戦力増強が、近ごろ難しくなっているのは、知っているな?」
億十郎は五号司令官以下、司令室にいた総ての司令官を見た。全員が顔を見合わせ、痛いところを突かれたような表情になっている。
理恵太は億十郎に囁いた。
「二十六号司令官の言っているのは、事実よ。〝戦略大戦世界〟は、長い戦いを続けているけど、こっちで戦死して、強制切断を受けた【遊客】の再召集率が下がっているの。一旦、強制切断された【遊客】は、再び〝戦略大戦世界〟に接続して軍務に就くのを拒否して、他の仮想現実に行ってしまうのよ」
アイリータが、不機嫌な声を上げた。
「卑怯者なんかに、用はないわ! 自分の義務を全うする【遊客】だけが、いれば良いのよ。逃げたい奴は、放っておけば良いのよ!」
司令室にいた司令官の一人が呟く。
「しかし、戦力がジリ貧になっているのは、事実だ。このままでは、我が軍は敵の侵攻を受けても、対応できなくなる……」
さっと画面の二十六号司令官を見上げる。
「君は、問題を解決したとでも言うのか?」
二十六号司令官は、誇らしげな表情になった。
「もちろんだ! この〝戦略大戦世界〟には、NPCの兵士が一人もいないのは、承知しているな? なぜか? それは、NPCの兵士は、戦力として、全くあてにならないからだ! NPC兵士は、自らの判断で動けず、我々【遊客】が一々、指示してやらないと、一歩も動けない。しかし、江戸仮想現実のNPCは違う!」
さっと画面から、億十郎を指さす。
「あの江戸NPCを見ろ! 何と、あいつは、江戸NPCと、【遊客】の間に生まれたNPCの子孫だ! いいか、江戸NPCは、普通の生身の人間と同じく、生殖能力があるのだ!」
アイリータは理恵太に食いつくように、話し掛ける。
「ね、二十六号司令官の話は、本当なの?」
理恵太はゆっくりとアイリータに向かって、頷く。
「ええ。あたしも驚いたけど、江戸仮想現実は、三百年近くの独自の歴史を持っている。何でも、時間の早回しテクニックを使ったらしいわね。その間に、江戸の人口は自然に増えて、今の仮想現実を作ったんですって」
その場にいた司令官たちは、目をまじまじと見開いて、理恵太とアイリータの会話に耳を澄ませていた。
お互い顔を見合わせ、早口に相談する。
「もし、それが本当なら、この〝戦略大戦世界〟生まれの、NPC兵士ができる!」
「そうだ! 独自の意思で行動し、再登録などの面倒な手続きもない」
「七十二時間の、【遊客】時間制限もない。理想的だ!」
「それで二十六号司令官は、江戸仮想現実からNPCを大勢、こちらに連れ帰ったのか! こちらで人口を増やすために……!」
「天才的な発想だ! さすが、俺たちと同じ分身だ!」




