十一
億十郎が案内されたのは〝戦略大戦世界〟総てを指令する、統合司令室である。司令室は、地下十階にあり、昇降機で移動する。初めて体験する昇降機の感覚に、億十郎は悲鳴を上げたくなるのを、必死に堪えていた。
途中で億十郎、理恵太、アイリータの三人は、厳重な警備兵の監視を受けていた。警備兵は、奇妙な器具で億十郎の全身を検査して、腰の大小に器具が近づくと、「びいーっ!」という甲高い音が響く。
「それは?」
警備兵に、億十郎は昂然と答える。
「大小で御座る。武士の刀を、お手前は取り上げると申されるのか?」
アイリータは肩を竦め、警備兵に話し掛けた。
「いいわ。あたしが許可します」
警備兵は頷き、今度は理恵太に器具を向けた。またまた、器具がけたたましい音を立てる。理恵太はむっつりと、帯から拳銃を引き抜いて、警備兵に渡した。警備兵は、後で返却すると請合った。
やっと、一同は司令官に面会を許された。
司令室と書かれた(英語であるが、億十郎には読めた。乱下維持の結果である)扉が開き、億十郎は室内に踏み込んだ。
踏み込んだ途端、恐ろしいほどの喧騒が、億十郎を包んだ。
「第一、第二地区、敵侵攻部隊接近中! 迎撃部隊編成せよ!」
「電探、索敵能力三分の二に減衰。敵の妨害工作と認める! 直ちに対処すべし!」
「歩兵大隊編成、急げ! 五分以内に輸送態勢を終了せよ! 急げ、急げ! 敵は待ってはくれないぞ!」
「沿岸部隊、待機せよ! 敵艦船、集結中! 攻撃に備えるべし!」
次々と、命令が下され、数十人と思われる部下たちが、足音を立てて辺りを駆け回っている。書類が散乱し、肘がぶつかり、罵り合いとも思われる、鋭い声が乱れ飛ぶ。
総ての喧騒は、室内の中心から発せられていた。真っ白な制服の、四十がらみの小男が、額に汗を浮かせ、次々と寄せられる報告に、即座に判断を下し、命令していた。
「これは……」
億十郎はごくりと喉を鳴らし、唾を呑み込んだ。くるりとアイリータに振り向き、怒鳴るように質問する。
「あそこにいるのが、司令官で御座るのか?」
アイリータはこくりと、首を縦に振る。
「そうよ。あれが、司令官……」
にやりと笑って付け加えた。
「正しくは、司令官たちってわけね!」
指令席と思われる場所には、真っ白な制服の司令官が五人も存在した。
全員、同じ制服。背の高さも、体つきも、何より顔はそっくり同じ、五人の司令官が矢継ぎ早に命令を下していた。
違いは、制服の胸に番号が記されているだけだった。なぜ、番号が記されているのか、億十郎にはさっぱり理解できない。
「し、しかし……しかし!」
予想外の光景に、億十郎はすっかり度を失い、言葉が出てこない。
やっと理恵太に向き直って喚く。
「これは、どういうわけなのだ? なぜ、同じ顔つきの司令官が五人もいて、戦闘指揮ができるのだ?」
「同じ人間だからよ。あの司令官たちは、総て同じ人間なの」
理恵太は冷静に答えた。訳が判らず、億十郎は何度も頭を振った。
理恵太は皮肉な笑みを浮かべた。
「前に〝ロスト〟の詳しい話を聞かせたでしょ? 司令官は、わざと〝ロスト〟をして、自分の数を増やしたの」
「はあ?」
億十郎は呆れて、口をぽっかりと開けてしまう。
理恵太は、詳しい説明に入った。
「最初は一人だけだったんだけど、戦争があちこちで同時に進行するようになって、一人だけじゃ足りないって気付いたのね。司令官は。それでわざと〝ロスト〟を起こして、自分を分身させたのよ。そのうち、どんどん増やすようになって、今ではこの司令室にいる司令官だけじゃなくて、他の戦闘指揮所にも、うようよいるわ。制服に番号があるでしょう? あれは、どの司令官が命令を出しているか、区別するためよ。ねえ、あんた!」
と、理恵太はアイリータに顔を捻じ向けた。
「今じゃ司令官は、何人に増えているの?」
「先週、三十人を越えたわ。一日置きに、一人ずつ増えているから、今じゃ、何人いるのか、誰にも判らないんじゃない?」
肩を竦め、眉を上げてアイリータは答えた。全身で「処置なし!」と言いたげである。
アイリータは手を挙げ、五人の司令官を指さした。
「あそこで書類を見ている司令官は、今は手が空いているわ! あの司令官に面会をしましょう」




