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電脳八州廻り~大黒億十郎の探索~  作者: 万卜人
第四回 明かされる【遊客】の秘密の巻
26/90

 サトーは頷いた。

「左様! あなた方の言う〝もう一つの江戸〟とは、かつて現実に存在した江戸世界なのです。今から二百年近く前、本当の江戸時代は終幕を迎えました」

「では、拙者らは、偽者だと?」

 億十郎は、悲鳴に似た叫び声を上げていた。

 理恵太はゆっくりと首を振る。

「偽者とか、本物とか、区別には意味はないわ! 仮想現実にしても、本当の現実と同じように造られているし、あなた方にとって、この世界は、現実そのものでしょう?」

 サトーは厳粛な表情になり、口を開く。

「強いて言えば、私たち【遊客】こそが、この世界での偽者なのでしょう。本来の私たちは、現実世界で絡繰に接続し、この世界を夢見ているだけなのですから」

 億十郎は、必死にサトーの論理に抵抗しようとしていた。サトーの言葉は、一言たりとも信じられなかったが、口調は圧倒的に信憑性を感じさせる。

 億十郎は愕然と悟った。

「【遊客】の力! 貴殿は、拙者に【遊客】の力で、信じ込ませようとしている!」

「いいえ」

 サトーは力を込めて答える。首を振り、もう一度はっきり言葉を重ねた。

「いいえ。決して、あなたに、【遊客】の力で信じさせようとは、思っていません。【遊客】の力で、あなたに信じさせても、無駄だからです。そうじゃありませんか? あなたは、私たちの言葉が真実であると心の奥では判っているのです。だが、今までの常識が、納得するのを拒否しているのでしょう」

 億十郎はがっくりと、肩を落とした。何だか、酷く疲れていた。

 サトーの言葉は正しい!

 自分は、心の奥底では、サトーの言葉は正しいと感じていた。今まで疑問に思っていた総てが、サトーの説明で氷解していた。

 なぜ土地もないのに、遠国奉行が存在するのか?

 当たり前だ!

〝もう一つの江戸〟では、対応する土地があったからだ。江戸を再現する際、すべての役職も必要だったが、存在しない土地の遠国奉行も再現したから、名称のみの存在になってしまったのだ。

 横浜を治める遠国奉行が、長崎奉行なのも道理。もともとあった長崎が存在せず、外国人の応対に必要だったので、長崎奉行が充てられたのだ。

 ほかに〝もう一つの江戸〟にあって、億十郎の江戸にはないものは、何だろう。

 億十郎は、ぞくりと寒気を憶えた。

 もしかすると〝もう一つの江戸〟では、もう一人の大黒億十郎がいて、実は本物はすでに死んでいるのかもしれない。

 自分は幽霊なのかも……。

 思い切り否定しようとしたが、億十郎の試みは上手く行かなかった。

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