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電脳八州廻り~大黒億十郎の探索~  作者: 万卜人
第四回 明かされる【遊客】の秘密の巻
22/90

 長崎奉行の榊丹後守さかきたんごのかみから通行手形を貰い、億十郎は理恵太と源三を伴って「出島」へ赴いた。

 出島には橋が架かっていて、その先に関所が設けられている。出島の関所は、外国人【遊客】のためでもあり、また、日本人のためでもある。出島内部は、完全に日本から切り離された、別の土地なのだ。

 関所の門を潜り、億十郎は手形を見せて通過した。関所の門番や番頭は、理恵太の珍しい姿に、好奇心を顕わにした。それでも、何も言わず、問題なく一行は通過できた。

 源三は完全に遊山ゆさん気分で、初めて見る出島の景色に、きょろきょろと視線を動かしている。源三は、辺りはばからぬ大声を上げた。

「大黒の旦那! 噂には聞いていたが、こうして目にしない限り、信じられないもんですねえ!」

「何が、信じられないってんだ?」

「まるで、別天地だ! 本当に、ここは日本国なんでござんすか?」

 源三の言葉に、億十郎は密かに頷いていた。確かに源三が言うとおり、ここが日本国の内であるとは、信じられない。

 奉行所の客間からちらりと遠望したときは、奇妙な建物が並んでいると思った。だが、こうしてすぐ間際まで近寄ると、奇妙どころではない。

 何しろ、地面が石畳になっている。拳ほどの大きさの石が、整然と敷き詰められ、これなら雨でも泥濘ぬかるみにならないと、億十郎は感心した。

 多分、外国では、総てこのような道路になっているのであろう。億十郎の知っている石畳の道は、箱根の山中城から二里半に渡って続く、東海道である。

 億十郎の見るところ、出島の石畳に敷かれている石は、小さいようだ。

 周りを見ると、外国人【遊客】ばかりである。男も女も、異風の装束を身につけ、ちらちらと億十郎の一行を好奇心一杯の視線で見送ってくる。

 気がつくと、出島には、日本人の姿は、一人たりとも見当たらなかった。ここでは、億十郎たちが、異人なのである。

 外国人【遊客】たちは、一際ぐんと理恵太に感心を示しているようだった。自分たちと同じ、金毛碧眼なのに、島田の髪に、振袖姿なので、目立つのだろう。

 そう言えば、理恵太のような金毛碧眼の外国人【遊客】はそれほど、多くはない。大概は髪が黒く、目の色も黒い男女が大多数を占める。金髪、亜麻色、赤毛などもちらほら、見受けられるが、数は多くはなかった。

 億十郎は、外国人【遊客】は理恵太のような、金毛碧眼ばかりであると、一人で勝手に決め付けていたので、密かに反省した。何事も、決め付けるのは、良くない。

 驚いたのは、女たちの衣装だ。思い切り胸を広げた衣装で、胸の谷間がはっきりと見て取れる。

 源三はぽっかりと口を開け、女たちの胸の谷間に目を釘付けにしている。億十郎は「何を見ておる!」と叱りつけ、ようやく源三は我に帰った。億十郎もまた、女たちの姿に目をやりそうになって、困っていた。

 建物もまた、石造りになっている。大きなものでは、半畳ほどもありそうな石材を組み合わせ、壁を作っている。

 石材はすべて、きちんと方形に切り揃えられている。赤みが勝っているのは、煉瓦であろう。億十郎は、煉瓦という建材について、少しばかり知識があった。

 伊豆韮山(にらやま)代官の、江川英龍が作った反射炉という設備に、耐火煉瓦が使われている。

 何でも、火で焼き固めた、陶器のような素材らしい。火災に強いというから、出島の外国人【遊客】は、火の用心が徹底しているのだろうと、思った。

 壁には四角く、窓が穿うがたれている。窓には、ギヤマンの飾り障子(?)が嵌められている。

 江戸ではギヤマンを、板にする技術はなく、元禄の頃、伊達綱宗が江戸品川の居宅に、ギヤマン障子を嵌めたとされているが、あれは輸入品である。出島なら、高価な板にしたギヤマンも、手に入るのだろう。

 ともかく、何から何まで、珍しい物で出島は溢れている。

 出島をさらに奥へと入って行くと、一目で判る、特徴的な建物が目に入った。

 億十郎たちの、目的地である。

 巨大な石造りの塔が空を突き刺し、塔にはごろごろと低い音を立てて、風車が回っていた。塔の周りには、瀟洒な建物が付属している。建物は木造で、何か塗料が塗られているらしく、真っ白であった。瓦は青く、見た目にも涼しげな建物である。

 出島の、【遊客】側のための、関所である。

 橋を渡った所にある関所は、日本側の関所で、目的は日本人がふらふら迷い込まないように設けられている。

 こちらの関所こそが、出島本来の関所なのだ。この関所に、外国人【遊客】は、最初の一歩を踏み入れるのである。

 億十郎の「理恵太を外国奉行に押し付ける」という目論みは、完全に外れてしまった。依然として、理恵太の行く末を考えるのは、億十郎の役目である。

 困った億十郎に、長崎奉行は「それなら、出島の関所に相談するが良い」と助言してくれ、通行手形を発行してくれた。案外、丹後守も、億十郎と同じく理恵太を押し付けられては敵わない、と考えたのかもしれない。

「頼もう!」

 億十郎は建物の玄関と思しき正面に立ち、大声を張り上げた。奉行に、出島では江戸言葉が通じると教えられている。

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