表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
電脳八州廻り~大黒億十郎の探索~  作者: 万卜人
第二回 大黒億十郎お蘭失踪を知り、動き出すの巻
11/90

 番頭に案内され、億十郎は縁側を回り、客間に出た。

 客間では布団が延べられ、理恵太が横になっている。源三が横に正座し、団扇うちわで風を送っていた。仰向けになった理恵太の金髪が、畳に広がっている。

 億十郎の気配に気付き、理恵太が青い目を開いた。億十郎は理恵太の枕元に膝を折った。

「理恵太殿。少しは回復なされたか?」

 理恵太は弱々しく笑いを浮かべる。億十郎は頷いて、話を続けた。

「左様か。休んだばかりで済まぬが、ちょっと顔を貸して貰いたい。お主に頼み事があるのだ」

「何でしょう?」

 理恵太は片肘をついて、上半身を持ち上げた。

 億十郎は理恵太の肘を掴み、立ち上がるのに力を貸してやる。久兵衛のもとへ戻る途中で、事情を手早く説明する。

「惣助は、お蘭を完全に忘れてしまっておる。しかし、そちならば、惣助の失われた記憶を蘇らせるかもしれん」

「あたしが? どうして、そう考えられるのです?」

 億十郎の推測に、理恵太は驚きに目をみはった。理恵太の驚き顔に、億十郎は「やはり異人だな」と内心、納得していた。瞳の周りの白目が大きく剥き出され、江戸の人間とはまったく違う人種であると判る。

「お主の【遊客】としての力に期待しているのだ! 惣助に、お主が【遊客】としての気力を持って命令して欲しい。お蘭を思い出せ、と」

 億十郎が理恵太を連れて戻ると、庭に座った惣助は驚きの表情になった。初めて見る金毛碧眼の理恵太に、ややひるみの感情を表す。

 理恵太は縁側に座ると、じっと惣助の顔を見詰めた。

 惣助は、さっと俯いた。

 理恵太はゆっくりと話し掛けた。

「惣助さん……。思い出して欲しいの」

 ぎく、と惣助は全身に緊張をしめし、顔を上げる。視線が理恵太と合うと、金縛りに遭ったかのように、強張った。

 理恵太は目に力を込め、一語一語、区切るように話し掛けた。

「あなたは、お蘭様の付き人じゃなかったの? 思い出しなさい! お蘭様の子供のころを。あなたの大事な人を!」

 惣助は真っ青になった。理恵太の隣に座る億十郎にも、【遊客】の気迫はびんびんと伝わってくる。

【遊客】が本気になって命令を下すと、江戸の人間には拒否するのは不可能に近いのだ。

 ふつふつと惣助の顔中に汗が噴き出した。

 苦しみに表情が歪み、ぱちぱちと瞬きを繰り返す。ぐっと唇が一直線になると、がくりと肩が落ちた。

「う! お、お、お、お!」

 両手を挙げ、戦慄いた。遠吠えのように、丸く開いた口から絶叫が零れ落ちた。

「お、お、お蘭様……!」

 ばたりと惣助は横倒しになった。

 億十郎はさっと縁側から飛び出し、庭に降りると惣助の側に膝まづく。肩をぐいと掴み上げ、上体を起こすと、耳元に怒鳴りつける。

「思い出したか? 惣助っ!」

 ぱちりと、惣助は両目を見開いた。

 がくがくと何度も頷いた。

「思い出して御座います! 確かに、あっしは、お蘭お嬢様と一緒で御座いました!」

「惣助っ!」

 総てを見守っていた久兵衛が、悲鳴を上げていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ