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電脳八州廻り~大黒億十郎の探索~  作者: 万卜人
第二回 大黒億十郎お蘭失踪を知り、動き出すの巻
10/90

 奥へと案内され、億十郎は久兵衛と向かい合わせに座った。源三は理恵太の世話で、久兵衛と二人きりである。

 すぐ茶が出され、億十郎は一服がぶりと口に含み、旨さに感嘆の声を上げた。

 さすがは茶問屋である。

 出したのは、お蘭の姉のおこうで、億十郎の前に茶と茶菓子を置くと、一礼して下がっていった。

 お幸の顔を見て、億十郎は「なるほど似ている」と思った。が、お幸の目には、お蘭に見て取ったような、険の強さは感じ取れなかった。

 通された座敷の庭を囲む塀の向こう側は、川になっている。荷物を舟で運ぶために、清洲屋のような問屋は、たいてい、川に面した場所に建てられている。

 まず、億十郎が口を開いた。

「お内儀ないぎは、いかがなされた? お姿が見えないが」

 久兵衛は、がっくりと項垂うなだれた。

せっております。お蘭が……」

 途中まで言いかけ、やがてやっと「神隠しに遭ったと判って」と言い終える。久兵衛もまた、今にも倒れ臥しそうな様子である。

 湯呑みを置いて、億十郎は腕を組んだ。

「書状には、お蘭殿は付き人と一緒だったらしいな。惣助とか申したが……」

 久兵衛は朦朧と頷くと、廊下を見て、ぱんぱんと手を叩く。

 すぐに足音が聞こえ、番頭が姿を表し、膝を折った。

「御用で御座いますか?」

「惣助を呼んでおくれ」

 久兵衛の命令に、頷くと立ち上がった。ちょっと間があって、番頭は初老の男を庭先に連れて来た。初老の男は、庭先に座り、頭を下げた。これが惣助だろう。

 億十郎は立ち上がると、縁側に出た。片膝をついて、惣助を観察した。

 惣助は膝に目を落とし、小さくなっている。

 億十郎は優しく、声を掛けた。

おもてを上げよ」

 惣助はゆっくりと顔を挙げ、億十郎と視線を合わせる。

「惣助、そちは、お蘭という娘の名前に心当たりがないと申すが、本当か?」

「へえ……」

 もぐもぐと、惣助は口を動かす。視線が躊躇いがちに、あちこちに彷徨う。

「目黒富士に登った経緯も、憶えておらんのか?」

 億十郎の質問に、惣助はちょっと首を捻った。

「へえ。とんと覚えが御座いませんで。あっしが目黒など、どうして参る用が御座いましょう?」

 惣助の受け答えは正常であったが、口調は何か台詞の棒読みのようで、感情の揺らぎが全く含まれていない。

 億十郎は、ゆっくりと立ち上がり、惣助に命令した。

「判った。少し、そこで待っておれ」

 惣助を連れて来た番頭に顔を向ける。

「儂が連れて来た【遊客】のお方は、どちらにおられる?」

 出し抜けの億十郎の質問にも、番頭はよどみなく答えた。

「ああ、あのお方なら、若旦那が客間に御案内を申し上げております」

「案内してくれ。ちょっと用がある」

 番頭は頷いた。

「では、こちらへ」

 番頭が歩き出し、億十郎はもう一度、惣助に声を掛けた。

「待っておるのだぞ!」

 惣助は小さく頷いた。

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