「呪われた子」と村で虐げられた私、伝説の最強冒険者に「君は僕の女神だ」と略奪される。世界中の宝物を献上され、一生離さないと旅の途中で檻のような抱擁を解いてくれません
『呪われた子』と呼ばれていた私を、冒険者が『女神』と呼んだ。
その瞬間に私は自分が女神だったことを思い出した。
◆◇◆
村外れの小屋に私は暮らしている。
田畑を耕し農業をする者が主で、狩猟をする者もいる。
ただ、全ての人々がどちらも出来るのが小さな村の特徴だった。
私はこの村で「呪われた子」と呼ばれて虐げられていた。
両親がおらず土地も道具も持たない私は、村の雑用をやってその日の食料を得ていた。
米をもらって小屋に戻ると、米を炊くための水がないから村の真ん中の井戸に汲みに行く。
夕焼けに赤く染まった村の中で、子供たちが笑いながらまだ遊んでいる。
私と同じくらいの年頃の娘は仕事を終えて休憩に集まって楽しそうに話してた。
みんなが私をいないもののように扱うけど、一人だけ私を見ていた。
井戸の水を汲んで小屋に戻る間に、何度も視線を感じた。
優しい子なんだ。
私と口を聞いてはいけないことは村の子供たちには生まれてすぐに言い聞かされる。
だから、誰も私に関わらない。
でも、小さな頃に彼女だけは私に話しかけてくれた。
大人の目を盗んで少しだけでも言葉を交わすことが楽しかった。
でも、隠れて会ううちに大人に知られることになった。
女の子は叱られて、私と話さないと誓うまで暗い蔵に閉じ込められた。
それから、女の子とは話していない。
ただ、彼女の視線を感じることで、幸せな気分になれた。
◆◇◆
壊れかけの鍋に米と水を入れて火にかける。
塩はまだ十分残ってる。
他に食べ物は、食べかけの干し肉が残っていた。
鍋から湯気が立ち上って、米が炊けた頃に村の方が騒がしくなった。
喧嘩だったら出て行っても良いことはないし、楽しいことなら私が行けば嫌がられる。
気にせずに食事の用意をするけど、だんだんと騒ぎがこっちに近づいてくる。
さすがに気になって扉を少しだけ開けて外を覗く。
すっかり暗くなっていて、人々の集団が松明を持ってこっちの方に向かって来るとこちだった。
中心にいるのは見たこともない男だった。
肩当てをして、大きなベルトに剣と盾がぶら下がっている。
見るからに冒険者という身なりで、汚れてはいるけど、村の誰よりも立派な格好をしている。
よく見ると、集団の後ろにも冒険者の仲間が数人いるようだった。
「この先にいるのは『呪われた子』です。伝説の冒険者様が探している方ではありません」
村長が話している。
「その子は、どう『呪われて』いるんだい?」
伝説の冒険者と呼ばれた、人々の中心にいた男が話す。
「そ、それは……」
どう『呪われて』いるのか。
私も知りたいのに、村長は言い淀む。
「あ!」
冒険者が声を上げる。
扉から覗いていた私に気づいたらしい。
私は慌てて扉を閉めた。
あんな人知らない。
鍵なんてこの村の家にはどこにもない。
引き戸につっかえ棒をして簡単に開かなくした。
「魔法使い」
冒険者が仲間に呼びかける声が聞こえる。
「冒険者、嫌がる女の子の家に押し入るのは良くない」
おお、押し入るつもりなんだ!
何度かのやり取りのあとで、魔法使いが呪文を使う声がした。
パタッ
家の中で扉につっかえていた棒が倒れた。
えええーー!!?
「女神様!」
ガラッ
乱暴に扉が開かれ、冒険者が入ってくる。
茶色の髪と瞳の青年……変わっていない!
五十年は経っているのに、青年は出会った時のままだった。
魔法使いと格闘家、僧侶も同じく若いままだ。
私は少なくとも子供の姿を五回は繰り返した。
大人になる前にまた子供に戻って、十年を過ごす……その繰り返し。
『呪われた子』とこの村の人々が呼ぶのもわかる。
子供として一緒に育ったのに、成長することもなく子供として、自分の子供と同じになっている。
子供たちを近づけさせない気持ちもわかった。
ギュっと冒険者に抱きしめられた。
「やっと見つけた、僕の女神」
恍惚の表情で私を見つめる。
こ、こいつは〜!!
「離せ! バカ! 誰のせいで女神じゃなくなったと思ってるの!」
私は冒険者の身体を思いっきり叩いたり蹴ったりするけど、冒険者の身体はビクともしない。
むしろ叩かれて喜んでいるみたいでゾッとする。
「女神様、落ち着いてください。コイツのことはほっといて私たちの話をきいてください」
落ち着いた様子の僧侶の男が言う。
記憶ではまともな男だったと思う。
「村長さん、どこか広い家を借りられませんか? 話したい事があるので」
私のみすぼらしい小屋に冒険者一行がはいると狭すぎる。
「それから食事も貰えると助かるな」
「お酒もね! 謝礼は払いますよ」
格闘家が言うと、魔法使いも金貨を見せながら言う。
金貨など見たことがない村だ、ざわめきが広がった。
私は炊けたばかりの鍋持って出ようとするけど、冒険者が離してくれない。
「これを持って」
鍋を渡すと、
「君の頼みだ、絶対に届ける!」
と息込んでいるけど、当たり前だ。
私は外に出る。
背中を丸めて俯いて歩いた道を、今は真っ直ぐに背筋を伸ばして前を見て歩く。
歩き方も変わって、服はみすぼらしいままなのに女神のようだった。
騒ぎに駆けつけてきた人が私の姿に息を飲む。
あの女の子も家の前で私を見ていた。
変わってしまった私に戸惑って不安な顔をしている。
私も悲しくなった。
女の子と同じ人間だと思っていたのに。
冒険者が私の後ろをついてくる。
「女神の手料理だ! 早く食べたい!」
◆◇◆
案内されたのは村長の家だ。
雑用で入ったことはあったけど、裏口の近くだけで、こんなに広くて立派な部屋があったとは知らなかった。
冒険者一行と私をテーブルに座らせるが、村長は私を見ると嫌そうに顔を歪める。
さっきまで「呪いの子」と呼んでいた孤児が、自分の家の立派なテーブルの一番いい席に座っているんだ、気持ちはわかる。
さっきまでの私ならもっとオドオドして、でも心の中では村長に対しての怒りや憎しみで溢れていたのに、今はなんの感情もない。
存在のランクが変わったんだ。
村長や村人達の方が私より上だったのに、今は女神としてただの人なんてずっと下の存在になった。
「冒険者様方とこの子は知り合いなにですか? 女神とは一体……」
話せば長い話だった。
◆◇◆
私は朽ちた神殿に住む女神だった。
前世はもっと違う普通の女の子だったと思う。
もう曖昧になってしまった。
神である父と母の間に生まれたが、気づけばこの神殿に祀られる女神になっていた。
朽ちる前の神殿に祀られていた女神が、放棄された事で一度死に生まれ変わって私になった。
前世の記憶を持っていた私は、この朽ちた神殿に一人でいることが寂しくて仕方がない
かった。
いつの間にか私は荒ぶる神になって、宝物を狙う冒険者たちの間で、高難易度の神殿として知られるようになっていた。
寂しいのに方法がわからずに、くる冒険者を全て倒していた私。
ある戦闘の最中に、伝説の冒険者が話しかけてくる。
「あなたに、一目惚れしました! 僕だけの女神になってください!」
は……?
一瞬、私の動きが止まった。
意味がわからなくて、女神を自分のものにしようなんて考える人間がいるなんて……。
もちろん私は冒険者を倒した。
死んだ後の、死に戻りの光がパーティーを包んでどこかに連れ去った。
冒険者が消えた後で、私は自分の顔が熱くなっていることを自覚する。
な、なんで……! 一目惚れって……!
女神の身体よりずっと小さな人間のくせに!
それから、私は冒険者の事なんて忘れようと思った。
からかっていたとか、気まぐれとか、もう二度と来ることもないでしょう。
バキッ
物音がすると振り返った。
神殿の入り口を何度も確認する。
ただでさえ滅多に冒険者なんて来ないこの場所に、辿り着いた冒険者を確認する。
あなたじゃないってがっかりする。
寂しさは、あなたを待つことで消えていった。
——でも、怒りが生まれる。
あなたが来ない事で、裏切られた怒りが、ますます私を強い女神にしていた。
◆◇◆
「女神ー! 会いに来たよー!」
誰?
誰でもいい。
ここに来たものは倒すだけ!
「わ! 怖い顔になってる……!」
「冒険者が期待させるようなこと言って待たせるから!」
「待っててくれたなんて、女神も俺のこと好きなのか!」
「……コイツ、キモいくらいポジティブ!」
「好かれた女神様に同情するな……」
私は最大級の必殺技を最初から使う。
光が冒険者を襲う。
けれど、僧侶と魔法使いの全力の防御魔法でほとんどダメージを受けていない。
「女神様攻略のためだけに準備して来ましたから」
「女神、これを食べてくれ! 神を人間にするアイテムを探して来た!」
冒険者が私に向かって果実を投げる。
忘却の果実
「女神、俺と一緒に来て」
冒険者に言われて、私は食べた。
迷いや、怒り、悲しみ、全部がなくなって、動きだけが私の意思だった。
光が身体を包む。
人間より大きくて神殿を包み込むようで、それでいて実態のなかった私の身体が縮んで実態を持ちはじめた。
私は女神だと言う事を忘却して、人間になった。
「女神ー!」
冒険者に抱きしめられた。
暖かな体温に包まれる。
もう、寂しくない……。
私は、冒険者を抱きしめながら涙を流した。
「一生俺の冒険のそばにいてもらうからね、女神」
冒険者に言われて私は泣きながら微笑んだ。
でも、次の瞬間——
地面が揺れて身体が持ち上がる。
これが人間の身体。
自由が効かない。
翻弄される。
神に——。
“人間になるなど許さない”
私は父の言葉を聞いた。
——それから、どこかの村で目を覚ました。
幼い女の子として。
そして、『呪われた子』と呼ばれる。
◆◇◆
魔法使いが村長に話し終わる。
お酒の瓶が格闘家や僧侶の前にも何本も転がっていた。
「女神様は五十年もそんな辛い日々をーー!」
三人揃って泣いてる……。
冒険者は私の炊いた米を食べてる。
味がしないだろうから、塩をかけてあげたら喜んで、
「女神が俺のために、料理にアレンジを!」
泣きながら食べてる……。
五十年と言う日々があっという間に縮まってしまった。
悪い意味で!
「私に話があったんじゃないんですか!? もう!」
酔い潰れている魔法使いたちに向かって文句を言う。
冒険者も米を食べながら酒を飲んでいたらしく、眠そうだ。
「女神の最高のもてなしをして貰った……!」
安上がりな男だ。
「話しとはなんなんですか!? 私の十年で繰り返す呪いを解いてくれるんじゃないの!?」
私に言葉に冒険者が立ち上がる。
私に身体を向けて抱きついて来て、押し潰される。
「女神を探しながらずっと、呪いを解く宝物を探していました。全部あなたに献上します。早く、呪いを解いて、一緒に俺と冒険に行きましょう」
「だから! その宝物を早くみせろー!」
私の叫びも虚しく、冒険者は寝落ちした。
◆◇◆
俺が目を覚ますと、女神が消えていた。
村長に用意された酒と料理はそのままに、仲間三人が寝ている。
聖女の手料理は一粒残らずなくなっていて、昨日の満足感がまだ残っている。
それなのに女神が居ない。
「そんな、最初に呪いを解いておけば良かった……!」
手料理があまりに嬉しすぎて……!
俺は仲間を起こして、女神を探しに村中を駆けずり回る。
昨日の女神と同じ年頃の女の子がいた。
連れているのは——女神だった。
「女神ー!」
俺が近寄ろうとすると女の子が女神を後ろに隠した。
「……この子は私の友達だったのに。また、小さな子に戻っちゃった……」
「お姉ちゃん?」
女神が無邪気に女の子を見てる。
「私が絶対に幸せにするから、誰に言われてもこの子を離さない……!」
女の子は小さな女神を抱きしめた。
小さな女神も女の子を抱きしめる。
「……ありがとう……。呪いの子と呼ばれてずっと虐げられて来たけど、あなたに会えて報われた……」
小さな女の子に戻る時間だったけど、女神は記憶を取り戻したようだ。
「冒険者、私に献上する宝物を見せて」
小さな女神が俺に命令する。
中に収納空間が広がる道具袋を渡す。
羽のついた靴を取り出す。
あれは思い描く人のところに一瞬で行けるという魔法の靴だった。
「この村が嫌になったら、いつでも会いに来て。あなたは私の一番の友だちだから」
女の子が泣き出した。
「い、行っちゃうの……」
「ここは、私には辛い場所だから……」
俺は小さな女神を抱きしめた。
「俺を選んでくれて嬉しいよ、女神」
「私の呪いを解く宝物は? 道具袋の中にはなかったみたいだけど……」
「それはもう置いてある」
◆◇◆
私の住んでいた小屋のそばに、人の形をした石像が置かれていた。
身代わりの形代
私は石像に手を置く。
足が浮く感覚。
みるみると呪いが石像に吸い取られていく!
同時に私の身体が、大人の女性のものになった……。
裸の!
私を包む光が消える前に、冒険者がマントで私を包んでくれる。
「着替えは道具袋にあるから、小屋の中で着替えて」
冒険者に言われて小屋に入る。
道具袋に女ものの服があるのはさっき見たけど、女装趣味じゃなくて良かった。
服をもらって出て行かない冒険者を小屋から追い出して着替える。
美しい服と美しい佇まいの私が小屋から出ていくと、村人たちが平伏す勢いで驚いていた。
「身代わりの形代に呪いは継続するから、あなたはずっとここにいると父神様には思わせることが出来ます」
僧侶が言う。
「俺たちも女神と一緒で、あの時に、冒険者の仲間のパーティーごと、不老長寿の呪いを受けたんだ。ずっと冒険がしたいからラッキーだったな」
格闘家の言葉に仲間たちがうなずいてる。
この冒険者にして、この仲間……相性がいいのかしら……。
「女神!」
私は冒険者に持ち上げられる。
「ずっと離さないからね」
冒険者たちは村人の様子など気にせず、村に外に歩き出す。
女の子は魔法使いに魔法の靴を身体の中に隠してもらって、いつか私に会いにくる意思のこもった瞳で見送ってくれる。
「俺、憧れてたんだ。魔法使いの使い魔に。ずっと身体に張り付いていいよなぁ」
ん?
魔法使いの使い魔の猫が、肩を歩いて魔法使いに戯れている。
「ちょっと待ってください……」
「何? 女神」
無邪気な顔をしてる。
私は一生冒険者の作った腕の檻から出られないようです。




