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君は特別

掲載日:2026/01/30

短編としてサラッと終わる予定でしたが・・



 この国には時々魔力を持って生まれてくる子供がいる。その力は貴重で魔力を持っているとわかると、国の管理下に置かれる。


 私の隣に住むレン・ベルーナも生まれつき魔力を持っており、今は王宮にある [魔塔] と呼ばれるところで仕事をしている。


 実際にはどんな仕事をしているのかは教えてもらっていない。

 理由は・・


「国の機密事項だからマリィにも話せないんだ」


 だった。

 そんなレンくんは珍しく寮生活では無く、隣のアパートで一人暮らしをする私の三つ上の男の子。

 魔力持ちは国にとってとても貴重な人たちだから、基本王宮の敷地内に建てられた(独身なら)寮に入るか、結婚したら国が用意した屋敷を与えられる。


「レンくんは何故アパートで一人暮らしなの?寮に入らなくても良いの?」


 と聞いた事があった。


「マリィは知らないと思うけど、僕は特に力があるから特別に外のアパートで暮らせるんだよ」

「そうなの?まぁ私はレンくんが隣にいてくれて嬉しいけど」


 本当なのか嘘なのか・・きっと真実は別にあると思うけど、私は密かにレンくんの事を想っているから隣に居てくれれば理由は聞かない。


 そんな私も学校を卒業し働ける年齢となった。

 歩いて三十分ほどの所にある食堂だ。

 何故レストランとかカフェじゃ無いかと言えば


「やっぱりここのご飯は僕の口に一番合うなぁ」


 レンくんが初めて食事に誘ってくれたのがこの食堂だったのだ。一人暮らしのレンくんは魔塔でも当然食事は提供されるのだが、上司に連れて来られたこの食堂の味が忘れられなくなり時々通っていると聞いた。


(ちなみにいつもは我が家に食べに来ているのだけど、母も働いており滅多に無いけど作れない日もある)


 そして私もこの食堂の味に魅せられた一人なのだ!

学校の卒業祝いで連れて来てくれた時にこの店の奥さんに、お会計後そのまま面接してもらったのだ。

 

「あの時は驚いたね!お客さんだと思ったら働かせてください!だもんねー」

「確かにこの店の料理が美味しくて、マリィに教えたのは僕だけどね。まさかそのまま就職するとは・・」

「まぁ娘が嫁に行って人を募集しようと思っていた所だったから助かったし、マリィちゃん人気があるからねー」


 店主の言葉に反応したのがレンさんで、一人で帰るのが心配だからと毎日八時に私を[呼び出す]事になったのだ。


 治安の悪い所では無いけれど心配性の幼馴染は、今日も自分が魔塔から帰って来ると仕事終わりの私を呼び出す。

 呼び出すと言っても連絡があるわけでは無く、私の仕事が終わる時間になると自然とレンくんの部屋に呼ばれるのだ。


 歩いて帰るより楽だから良いけど、こんな事に大事な魔力を使って良いのかしら?


 と、毎回思ってしまう。

 そして今夜も帰り支度をしていると急に足元が光りだす。レンくんが私を呼び出す準備を始めた合図だ。

 前に一度残りの料理を詰めている時に急に呼ばれてしまい、お皿と箸を持った状態で帰宅してからは少し時間をもらうようになった。


「あっ!店主、奥さん今日もありがとうございました!また明日よろしくお願いします」

「ああ、明日もよろしくね」


 奥さんの言葉を聞き終わると同時に、私の姿はその場から消えた。



「お帰りマリィ」

「ただいまレンくん!レンくんもお帰りなさい!」


 私は急いで荷物をレンくんに渡し靴を脱ぐとレンくんに抱き付きながら挨拶をする。これはレンくんと私が初めて会った時からの挨拶で、これをしないと後ろからハグされてしまうのだ。


「あれ?マリィなんか良い香りがするよ?」

「良くわかったね!今日はお母さんご飯作れないから、私が食堂で作って来たの!」


 そう言いながらテーブルに出したのは煮込みハンバーグだ!パンもサラダも付いている、マリィ特製煮込みハンバーグセットだ!

 レンくんは魔術を使うと肉を良く食べると聞き、我が家でも出来るだけ肉料理を出すようにしている。


「マリィ先にご飯にしよう!もうお腹空いて吐きそう」

「それは大変!直ぐにお皿に出すね!」


 レンくんはハンバーグを。私はパンとサラダをお皿に移す。レンくんはお皿にハンバーグを移すと魔術で温めていた。


「魔術って本当に便利だねー」

「普段はこんな事に使わないよ。ハンバーグの香りにお腹が反応して大変なんだ!」


 そう言い訳しながらレンくんは嬉しそうに温めたハンバーグをテーブルの真ん中に置いた。

 は煮込みハンバーグはどんどんレンくんのお腹の中へ消えていった。

 私の手料理を美味しそうに食べてくれるレンくんを目の前で見ながら、私も料理を食べていった。


 食べ終わった食器を片付けていると、


「今日はおじさんとおばさんは何処に食べに行ったのかな?」

「この間仕事で立ち寄った街の魚介専門のレストランと言ってたかな?あの二人、ワザと私が仕事の日を狙って行くんだもん!ずるいわ!」


 私のグチとも言える言葉を聞きながらレンくんは隣の部屋へ入って行った。

 どうしたのかと扉を見ていたら紙袋を持って部屋から出て来た。かと思うと私の前に差し出した。


「なぁにこれ?」

「今日、差し入れで頂いた物なんだけど、マリィが好きそうな味だったから帰りに買って来たんだ」


 おばさん達には内緒だよ!と言いながら。

 紙袋を受け取り中を確認する。その中に入っていた物はバターの香りが強い柔らかなクッキーだった。

 クッキーよりも大きいそれは、口の中へ入れた瞬間ホロッと溶けてしまった。


「レンくん!すごく美味しい!」

「お口に合ったようで良かった。お茶を淹れてくるから腰掛けてて」


 レンくんはキッチンに向かうとポットにお湯を入れ始めた。私は言われた通りにソファーへ腰を下ろし紙袋をお皿の上に出した。せっかくだから二人で食べようと思ったのだ。

案の定レンくんは私一人にすすめて来たけれど、私は二人で食べたらもっと美味しくなる!と言ってレンくんの口にもクッキーを入れた。


「あっそうだ!明日の夕方、一人食堂に連れて行きたいんだけど良いかな?」

「魔塔の人かしら?特に予約は入っていなかったから大丈夫よ」

「今度一緒に仕事をする騎士なんだけど、食堂の話をしたら行きたいと言ってくれて」

「まぁ嬉しい!店主と奥さんにも伝えておくわね!」


 その日あった事をお茶を飲みながら話す、そんな幸せな時間は過ぎていった。




「いらっしゃい・・ってベルーナさん、今日は呼び出しじゃ無いんだね」


 奥さんの声に反応して振り返ると、扉の前にレンくんが立っていた。見ると後ろに誰か立っている。


「こんばんは、マリィから聞いていないかな?今日はお客さんを連れて来たんだ。席空いてますか?」


 奥さんは「聞いてるよ!」と返事をしながら奥にある半個室へとレンくんを案内した。


「いらっしゃいレンくん。そちらは?」


 私はおしぼりとお水を持ってテーブルの上へ置いた。


「ああこの人は昨日話した人で、王宮第二騎士隊の副隊長だ。今回王族の方の慰問に一緒に着いて行く事になってね」

「初めましてお嬢さん。僕はザック・ホーと言います」


 副隊長さまは親しげに挨拶をした。私も慌てて挨拶をするとレンくんは笑いながら何品か注文してくれた。その品はお店オススメの料理だった。


 離れた所からレンくんを見ると、私と一緒の時とはまた違う顔をしていた。

 出来上がった料理を運ぶと、お酒で少し出来上がった顔でお礼を言われる。

 笑い声が絶えないテーブルはいつの間にか空になったお皿とジョッキでいっぱいだった。

 二人はとても楽しいお酒を飲んだようで、ザックさんはお礼を言いながら歩いて王宮の寮へ帰って行った。


「レンくん、私たちも歩いて帰りましょ。家に着く頃には少し酔いがさめてるはずよ」

「ん〜そうかな?まぁでもたまには歩いて帰るのも良いね!」

「ベルーナさん、よほど楽しかったみたいだねー。マリィ、気を付けて帰るんだよ」

「ありがとうございます、明日はお休みなのでまたあさって来ますね」


 店主と奥さんに挨拶をするとレンくんと手を繋いで歩き出した。

 レンくんは時々ふらついたが、ザックさんの事を色々話してくれた。ザックさんは元は平民だったが、街の治安部隊に所属していた時に領主に見そめられ養子になったと。

 街の治安部隊から王宮騎士隊の試験に合格し、そこからは実力で副隊長になった努力家だと・・

 まるで自分の事のように話すレンくんを、私は静かに耳を傾けた。

 両親は明日の朝には帰って来るだろうから、遅くなっても大丈夫。そう思ってレンくんをアパートに送ったのだけど・・



「ごっ、ごめん!!ごめんなさい、俺どうしたら!そうだ、まずはおじさんとおばさんに!!」

「まって、まってレンくん!何も無かったわ、私たち何も・・」


 翌朝目を覚ますと驚いた顔で私を見ているレンくんと目が合った。

 思わず身なりを確認したのがいけなかった!レンくんは何かを勘違いしたようで・・


「本当に何も無かったわ!だから両親に謝る必要は無いの!」

「でも、いくら俺の家と言っても同じベッドで、と、とま、泊まったなんて・・」


 明らかに動揺しているレンくんを宥めていると、ガチャとレンくんの寝室の扉が開いた。と同時に


「やっぱりここに居た!今日仕事が休みと言ってもレンくんのベッドを取ったらダメでしょ!」

「・・・お母さん・・」

「・・おばさん!すみません!!」


 お母さんの言葉が終わると同時にレンくんは床に座り込むと、床に頭を擦り付けながら母に謝った。


 その日の夜、両親に呼ばれたレンくんはまるで罪人のような顔で我が家にやって来て、朝と同じように床に座り込んで謝っている。


「本当に何も無かったわ!仕事仲間と楽しくお酒飲んで、気持ち良くベッドに倒れ込んだ時に私を・・枕と間違えたの・・かな・・?」


 思い出したら思わず恥ずかしくなり、語尾が小さくなってしまった。

 そんな私の態度を見て、更に頭を下げてしまうレンくん。どうしよう・・と助けを求めるように両親を見ると・・


「なんで笑ってるの?二人とも」

「いやぁ、俺としてはそのまま貰ってくれても良かったと言うか・・」

「レンくんは息子のような者だから、本当に息子になってくれたら!っ思ったのよねー」

「「・・えっ!?」」


 とりあえずイスに座って!と言われ、レンくんをイスに座らせる。両親は何から話して良いかと悩んでいたが・・


「レンは家の娘は嫌いか?」


 レンくんは思い切り頭を横に振る。


「マリィは?」

「えっ!き、嫌いだったら・・家になんて行かないわ・・でもレンくんは王宮勤めの、魔術を持った凄い人で・・」


 私なんかとは釣り合わない・・そう口から出そうになった。私はその辺にいる普通の娘なのだ。


「レン、あの事はマリィに話したのか?」

「いえ、話していないです・・」

「だが、マリィの事は好きなんだろ?だったらレンの口から伝えてくれ。その上で二人の気持ちがハッキリしたらまた、報告に来て欲しい」


 何の事だと両親を見るとニコニコと笑っている。レンくんは困ったような顔をしながらも、両親に頷いた。


「マリィ、今夜もあちらに泊めて貰いなさい。大丈夫、私たちは二人を信じてるから」


 そう言ってレンくんと私を家から追い出した両親。

 何の事だろう・・とレンくんを見れば、レンくんは少し考えたあと私の手を握りレンくんの部屋へと歩き出した。


「何から話したら良いのか・・」


 私の手を握ったまま話出す。


「まずは僕の事を話していくね」


 そう言いながらポツリポツリと話し始めた。



 レンくんは小さな頃から魔力が強く、時々暴発していたと言った。

 暴発する事で体内の魔力が減り、落ち着いたと・・

 だから魔力が溜まると屋敷の裏にある山で暴発していたと・・

 だがそれも身体が大きくなるにつれ魔力も大きくなり、暴発の力も強くなった。

 そんな時、たまたまレンくんの領地に訪れていた私たち家族は、魔力の多さに苦しんでいたレンくんを山の中で見つけた。

 レンくんは巻き込んでしまうと私たち家族を遠ざけようとした時


「マリィが僕に触れたんだ・・」


 小さな頃の事だから私に記憶は無い。でもその時、嘘のように体内の魔力が減ったのだと言った。

 消えたでも、無くなったのでもない・・減ったのだと。

 見ればマリィは何とも無い顔をしていて、一瞬何が起こったのか分からなかったと。


「直ぐに屋敷に招いて僕の両親と共に話を聞いたよ。そしたら君の、マリィのお母さんの方に時々魔力吸いの人が産まれたと話してくれたんだ」


 [魔力吸い]・・魔力を吸い取る力の事で、魔術師にとっては厄介な力だった。

 戦で魔術を使っても吸い取られてしまえば力を発揮できない。

 そうして、その力を持った子が産まれると国は保護という名の下秘密裏に処理していた。そんな時代もあって徐々に減って行き、今ではほとんど産まれない稀少な存在だと聞いた。


 国からは疎まれた存在。

 でも、必要な存在。


 もし産まれた場合は魔術師以上に喉から手が出るほど欲しい存在で、それはこの国だけでは無かった。


 そして私が産まれた。

 両親は私の力を封印するために故郷の魔女の元へ行く途中だった。

 レンくんの両親は魔力過多の息子の為に領地に残って欲しいと頼み込んだ。


「それだけ僕の心配をしていたんだね。僕は三男でその内魔塔へ入る事が決まっていたから・・」


 両親は悩んだが、娘と歳が違わない子が苦しんでいる姿を見て残る事を決めたと。

 私が魔力を吸う事でレンくんは暴発しなくなり、当然怪我もしなくなった。

 レンくんの両親も私の両親もこのまま何事も無く過ぎてくれる事を願ったと思う。


 しかし、その時が来てしまった。


「王宮から僕の力を知った人たちがやって来て、連れていく事が決まったと・・。そんな僕を心配した両親が、君たち家族を僕の身の回りの世話をする身内として、一緒に暮らす事を提案したんだ。お互いの為に・・」


 私は自分の両手を見つめた。

 私には分からない力だからだ・・


「だからレンくんは私に触れてきたの?」


 レンくんは私の言葉にムセた。ちょっと言葉の言い方が・・と言っていたが、間違ってはいない。


「魔塔に入った事で僕の力はコントロール出来るようにはなったけど、その日その日で使われる魔力は違う。時々マリィに吸ってもらっていたのは間違いじゃ無いな」

「レンくんは、私がレンくんの魔力を吸うから側にいるの?」


 何か自分で言って悲しくなる。でも、それでも良い。レンくんの側にいられるなら・・そう思って聞いてみる。


「魔力を吸わない私は・・」

「魔力を吸うからマリィが良い訳じゃないよ!僕はマリィの事が好きだよ!本当に、一緒になるならマリィが良いとずっと思ってた!でも、君の存在が国に知られる事が怖かった・・」


 涙が溢れる。

 レンくんは私の両手を握る。


「マリィが好きだ。あの日からずっと、僕にとってマリィは特別な人なんだ。だからこれからも僕の隣にいてくれますか?」

「・・そこは結婚してください、じゃないの?」


 私は笑い泣きしながら言った。


「・・もう、そのセリフはちゃんとした場所で!って決めてたのに」


 そう笑い合った私たちは、両親の期待通りその夜を二人で過ごして・・いません!!

 良い雰囲気になったところで王宮から呼び出しを喰らったレンくんは、私を隣の家に送り届けるとそのまま転移魔法で王宮へと向かった。

 別れ際に私を抱き締めながら「続きは帰ってから」と言い残して。


 私の両親はレンくんを心配しつつも私たちの雰囲気に何かを察したのか、


「早く帰って来い!美味いもん用意しとくから!」

「そうよ!今日の続きを報告してねー」


 と陽気な言葉をレンくんに投げた。

 レンくんは恥ずかしそうに、でも嬉しそうに頷いて行ってしまった。

 私は普段身に付けない王宮魔術師にのみ許された、濃い紫色の生地に金の刺繍が施されたマントに身を包んだレンくんに、何故か胸騒ぎがした。


「レンくん・・」


 姿が見えなくなった彼に伝える事が出来なかった言葉を飲み込んだ。

 大丈夫、きっとレンくんは笑って帰って来てくれる。



 私はその後帰って来ない彼のアパートを守るため、また帰って来た彼を一番に出迎えるため住み続けた・・。


 



皆さまの反応を見て連載にしようか考えております。


続きが気になる!読みたいと思って頂けたら嬉しいです!

たくさんの方に読んで貰えますように・・

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