表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/6

崖下の会談

目が覚めたら医療用ポッドの回復液に満たされて――なんて馬鹿みたいにポイントが掛かる治療を施されていた。


……そんなことはなく、冷たいベッド(機械巨人)の上で目を覚ました。


チラリと鉄杭を装備した腕と反対側のレトロな時計に目をやる。

「二分ちょっと……か」

ほんの昼寝をしていたみたいだ。


頭に手をやると、ぬるりとした感触が掌に広がる。

「あー、こりゃパックリいってるな」


携帯ポーチから回復薬(ポーション)を取り出す。

前回の仕事で手に入れた天上(うえ)製の、とびっきり高価でとびっきり効果のある代物だ。


もちろん、そのまま使うほど潤沢じゃない。

安価な回復ジェルと混ぜ合わせ、傷口に塗り込む。

節約しなきゃ掃除屋(スイーパー)なんぞやってられん。


じわじわと熱が引いていく。効果が現れるまで二十秒。

その間に現状把握だ。


「機械巨人は……完全に沈黙、と」


片眼鏡(モノクル)型のアイウェアを装備する。

魔力やら瘴気やらが可視化される便利な代物だ。


魔力漏れ無し。瘴気無し。……だが、魔力反応はある。


つまり、中に天上人(お客さん)が居る可能性が高い。

出てこないってことは――気絶してるか、俺がくたばるのを待ってるか、助けを待ってるか。


どれにせよ油断はできねぇ。


取り急ぎ鉄杭ステークをリチャージし、竜鱗のナイフをいつでも抜けるようにしておく。


気を張りっぱなしってのも性に合わない。

とりあえず腹拵えだ。堅焼きのクッキーを口に放り込む。


堅くて食うのに苦労するが、何も食わないよりはマシだ。

二個目を口に放り込もうとした、その瞬間――


機械巨人から、低く唸るような音が鳴り出した。


単目モノアイの色は、見たこともない青色。

プシューッ、と空気が抜ける音。

胸部の装甲が左右に割れ、ゆっくりと開いていく。


「……まずい。出てくる気だ」


天上人《お貴族様》は楽園の空気を処理できない。

出てきたら途端に苦しみだすに決まっている。


死なれでもしたらポイントは一銭も入りやしない。

念のために持ってきている真空救助バックは――遥か崖の上だ。


効果があるかどうかは知らんが、高濃度瘴気地域に侵入するための簡易マスクならポーチに入っている。

こいつを使うしかないか……二千ポイントもする高級品なんだがな。


そうこう考えている間に、機械巨人の胸部装甲がゆっくりと割れ、一人の女がせり上がるように現れた。


服は肌にぴったりと張り付き、胸とヘソの辺りには端子のようなものが並んでいる。

機械巨人と接続するためのものだろうか。


顔はつるりとしたガラスで覆われ、外からは中がまるで見えない。

それでも――女だと分かる。地上の女と比べて発育度合いが桁違いだ。

これでもかと双丘が鎮座している。……拝んでおこう。


女はガラスのヘルメット越しに、俺の顔を見ている。

見ている“はず”だ。視線は確かに感じる。


喉がひりつく。恐る恐る声を掛ける。

「……アロゥ《こんにちわ》? こちらのことは分かりますか?」


声を掛けた瞬間、ガラスの色が変わった。

銀色の膜がすっと消え、透明になり、向こう側の顔が露わになる。


黒髪に一房だけ銀髪。

美人か不美人かで言えば――とびきりの美人。

古代の彫像かと思うほど整った造形の女がそこに居た。


「お……」


鈴の音のような声。澄んでいて、どこか幼さの残るやや高めの響き。

その声が次に紡いだ言葉は――


「おなかすいた……」


なるほど。残念美人ってやつか。


「あー、お嬢さん《レディ》? あんたは天上人《お貴族様》で、合ってるか?」


くぅ……と美女の腹の虫が鳴るのを無視し、続ける。

「そのヘルメットを外すと、お嬢さん《レディ》、あんたは三日と生きられない。地面に足を付けたまま溺死してみたいなら外してもいいが、できれば俺たちの拠点まで来てくれると助かる」


残念美人はコクリと頷いた。


「助かる。生きててくれてよかった。んで、なんで機械巨人に乗ってたんだ?」


「コードE2468、発動申請」


俺の問いに答えず、女は淡々と告げる。

嫌な予感が背筋を走る。思わず竜鱗のナイフを構える。

クソ、もっとマシな武器を携行しておけばよかった。


直後、女のヘルメットから冷たい音声が響く。

「魔導術式E-2468――甲殻結界ハイプロテクション起動」


薄っすらと女の体が光を帯びる。

結界の膜が彼女を包み込み、空気が震えた。


「私はリリン。リリン・ストラフトといいます」

女は静かに名乗りを上げると、視線を俺の手元に向けた。


「貴方のその手にある原始的な食物を――分けてください」


光を帯びたまま、女はヘルメットを外した。


おい馬鹿、やめろ。

お前が死んだら、莫大なポイントを失ってしまう。


ところが、俺が思った現象は全く起きなかった。

息苦しそうにも、血管が沸騰しそうにもなっていない。

平然と、その場でヘルメットを脱ぎ捨てたのだ。

あの怪しい光の効果か?甲殻結界(ハイプロテクション)とか言ってたか?


竜と戦ったときの事を思い出す。

結界(プロテクション)って確か、俺の鉄杭(ステーク)ですら簡単に防いだ魔術だよな。

お嬢さん(レディ)…まさかとは思うが、お前…」


くぅ…とまた小さく腹の音がなる。


「飯食いたさに魔術使ったのか?」

「そんな事はありません」


食い気味に否定された。「魔術」あたりで被してきやがったコイツ

「いや…まぁいいや。んで、リリンさんよ。コイツはくれてやる。くれてやるが、説明は頼む。なんでこんなトコにいやがるんだ?」

糧食(レーション)の堅焼きクッキーとチョコレート・バーを投げ渡しつつ、リリンに聞いてみる。

答えてくれれば万歳。言い淀んでもまぁ仕方ないか。と密かに竜麟のナイフを握り直す。


サンク(ありがとう)。感謝する地上の戦士」

「俺はただの掃除屋さ」


チョコレート・バーの封を切りながら、リリンはポツポツと語り始めた。

「……私はメシアリア守護騎士団、団長リリン・ストラフト。天上から追放された方と共に地上へ降りました」


女は淡々と語る。だが、その声は時折途切れ、奥にかすかな震えがある。


「天蓋が開いた瞬間、竜が襲いかかってきました。船も機械巨人(パワードスーツ)も致命傷を負い……姫君は、地上の外気に触れ……窒息死しました」


喉がひりつく。俺は息を呑み、竜麟のナイフを握る手に汗が滲む。

メシアリアの姫君――天上の国の血筋が、ここで死んだというのか。


「竜は撃退しました。でも巨人は力を失い、この渓谷で身を潜めるしかありませんでした。機械獣に襲われても、どうにか撃退して……」


リリンの腹が、くぅ、と鳴る。

彼女は慌ててチョコレート・バーをかじり、封を破る音がやけに大きく響いた。


「最後の食料は燃えてしまいました。三日前から、何も食べていません」


そりゃ…ご愁傷さまだ。

天上人だろうが地上人だろうが、死ねば仏。

俺は天上式の祈り、十字を切って手を合わせる。


サンク(ありがとう)


すっげぇ真顔なんだけどチョコレートが口の周りに付いてる。

お嬢さん(レディ)、真面目な顔の所悪いんだが、口を拭いたほうがいい」

思わずハンカチを差し出してしまった。


さて、この展開。どうするべきかな


「ひとまず、ここに居ても話にならん。崖上に仲間がいる…って知っているか」


リリンはハンカチを受け取り、口の周りを拭く。


「あの狙撃手と爆弾は中々怖かった。地上の戦士、何故光線(レーザー)があの金の鎧の戦士を貫けなかったのだ?」


狙撃手はロクローの事だろう…爆弾はトールか。

金の鎧の戦士(笑)は立派な囮だと気が付かれてないし脅威判定もされてなかったか。

「蒸気って言ってな…そんな事より、崖の上に戻る方法を考える方が先だ」

説明をしようとしたが、それよりもこっから先の事を考える方が先決だ。


「あぁ、それなら大丈夫だ。地上の戦士…呼びにくいな、名は?」

「ドゥだ」


「ドゥ、君の武器には魔石を使っているだろう?魔石を一つ分けて頂く事は可能だろうか?」

堅焼きクッキーの封を切りながら、リリンは言う。

「構わないが…高く付くぜ?」

「命あっての物種…と言う言葉が地上にあると聞いた」

違いない

「それもそうだな、ほれ」

俺は腰のポーチから一つの魔石(コア)を投げ渡す。

(トカゲ)のものでは無いが、比較的高純度の魔石(コア)だ。

「これで、機械巨人(コイツ)をもう一度動かす。跳躍くらいなら、まだ可能だ」


リリンが再度機械巨人の中に入ると、胸部から、まだ微かに残る魔力の脈動が伝わってきた。

「……まだ動けるのか」俺は息を呑む。


リリンが結界を展開し、巨人の脚部が唸りを上げる。

次の瞬間、崖下から天へと跳躍――

轟音と共に俺たちは崖上へと叩きつけられるように着地した。


「おい、ドゥ! 無事か!」

ロクローの声が響く。振り返れば、「金色の夜明け」の連中が武器を構えて待ち構えていた。


俺は肩で息をしながら笑う。

「……ああ。こっちは新入り付きだ」


リリンは真顔で一礼する。

「私はリリン・ストラフト。以後、よろしくお願いします」


仲間たちの視線が交錯する。緊張と戸惑い、そしてわずかな期待。

あぁ、なんだか面倒な事になりそうな予感がする。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ