機械巨人
鉄巨人の肩から細いレーザーが三条走る。
鉄馬のタイヤを滑らせ、なんとか避ける。
さっきまで俺がいた場所に、三筋の爪痕がくっきり残った。
「金色」の連中は、こいつにやられたのか?
「おい! 一発屋! こっちだ!」
岩場の陰から声。金色の夜明けの頭領、“金色の”ドリランだ。
二つ名どおり、派手な金色のアーマーに金色のアサルトライフル。
威嚇射撃……いや、気を逸らすために撃ってるんだろうが、
機械獣にそんな行為は意味がない。
ドリランほどの男が知らないわけがねぇ。
ところが、鉄巨人は標的を俺たちからドリランへ切り替えた。
「はぁ!?」
思わず声が漏れる。
機械獣も「トカゲ」も、基本的に最初に狙った獲物以外は興味を示さない。
どれだけ強い相手が近くにいようが、弱い奴が横を走ろうが、
“最初の標的を確実に仕留める”――それが奴らの性質だ。
機械巨人も本来はその分類のはずだ。
なら、最初の標的を追い続けるはず……。
いや、待て。最初の標的は「金色の夜明け」の連中のはずだ。
なのに、なんで入口にいた?
普通の機械獣なら奥へ追い込んでる。
……何かがおかしい。
機械巨人の頭部がギギギと不気味な角度で傾く。
まるで“考えている”みてぇに。
機械獣にそんな芸当はできねぇ。
あいつらはただの殺戮プログラムだ。
獲物を見つけたら一直線、余計な判断なんざしない。
なのに――
「ドゥ! 避けろ!!」
ロクローの叫びと同時に、鉄巨人の肩が再び光る。
さっきより太い。明らかに“狙って”撃ってきてる。
レーザーが地面を抉り、岩が溶ける。
熱風が頬を焼いた。
……ありえねぇ。
機械獣は“学習”しない。
“判断”しない。
“変更”しない。
なのにこいつは、標的を切り替えた。
攻撃の精度を上げた。
そして――
まるで俺たちの動きを“読んでいる”。
「あれ……機械獣じゃねぇぞ!」
ロクローの声が震えている。
あの戦闘狂が震えるなんて、初めてだ。
機械巨人の赤いセンサーが、ゆっくりと俺たちをなぞる。
……まるで“生き物”みてぇに。
「一発屋! 生きてるか? こっちに来い! いくらか安全だ!」
ドリランが突撃銃をばら撒きながら叫ぶ。
渓谷脇の洞穴――半分身を隠せる場所で手招きしている。
その動きを見たのか、機械巨人はまたドリランへ太いレーザーを撃ち込む。
「レーザーだってわかってりゃ……やれる手があるんだよ! ミリィ!」
ドリランが洞穴の奥に声を掛ける。
ミリィ――金色の夜明けでも有数の“遺物使い”。
「あいよ! 団長!」
「団長じゃねぇ! ダディだ!」
ミリィが筒状の手榴弾を投げる。
ピピッと短い機械音――そして爆発。
もうもうと煙……いや、水蒸気だ。
辺りが白い霧で満たされる。
機械巨人は構わずレーザーを撃つが、
水蒸気の壁を抜ける頃には威力が落ちている。
「ドゥ! 走れ! 今だ!」
ロクローがサイドカーから叫ぶ。
「安全運転がモットーなんだけど……なっ!」
アクセルを一気に開け、水蒸気に満たされた洞穴へ全速力で突っ込んだ。
「プレゼントだ!遠慮せずに貰っとけ!」
ロクローが息を止める。
何かが弾ける音と、いつものオゾン臭。
鉄巨人の肩口――レーザー射出口らしきガラスドームに、ぽっかり穴が開いた。
「はっはー! お見事! 俺!」
全く見事な自画自賛だ。
だが、これで当分時間稼ぎが出来そうだ。
胸を撫で下ろしつつ、洞穴の奥で待機する「金色」の連中と合流した。
「と、言うわけだ」
洞穴の奥はちょっとした空洞になっていて、空気穴があるのか火を焚いても問題なさそうだ。
ドリランは肩で息をしながら奥に置いてある椅子にドカッと座る。
「どういうわけだよ」
至極真っ当な短いツッコミ。
ロクローがツッコむのも珍しい。
「まぁ、よく聞け。最初から説明してやる」
しかし、この金ピカは偉そうな態度は崩さず、煙草に火を付ける。
紫煙がゆらりと立ち上る。
「…まずは、ここに辿り着いた時からだ。俺のゴールデンゴージャスゴールド号が横倒しになってるのはみただろ?」
だっせぇ名前だな…
「ダッセェ名前だな…」
しまった口に出してしまった。
まぁ、いい。続きを促す。
「ダ…ダサくねぇよ!まぁ、良い。渓谷に辿り着いた時はいつも通りだったンだ」
「そう、いつも通り。何もなくて何か起きそうな渓谷」
ひょい、と通路側からミリィが顔を出す。
ミリィ…ドリランの一人娘で俺達みたいな掃除屋とは違う探索者。
天蓋の上から降ってくる遺物や、機械獣の巣から機械を漁るのを生業とする者達だ。
特にミリィは15歳と言う若さで探索者をやってるんだから、大したもんだ。
「ボクと団長、あとトールの3人で今回の仕事に臨んだんだけど…」
「トールの野郎は…うっ」
二人が沈痛な面持ちで黙り込む。
まぁ、掃除屋も探索者も命は軽い。そういう仕事だ。
「いや、僕死んでないからね!!」
別の通路から男が顔を出す。
トール。爆発物のプロフェッショナルだったか?
なんだ、生きてたのか。
「まったく……大将、奥の調査済みました。行き止まりでしたよ。
僕の発破でも崩せないほどの頑丈さです」
「おう、ご苦労さん。オメェさんの発破でも駄目ってことは……」
ドリランが頭領の顔に戻る。
「遺物の可能性、かなり高いです」
トールが続ける。
「金属にも見えるし、分厚い岩盤にも見えました。
青鉄か銀銅か……とにかく遺物の――」
「今はそんな事いいから、何があったか言えよ」
ロクローが不機嫌そうに口を挟む。
素材の話はどうでもいいのは完全に同意だ。
鉄巨人をどうにかしなきゃ、捜索も討伐もできねぇ。
二千点じゃ安すぎるぜ。
「お、おう。それもそうだ。トール、報告は後で聞く」
一瞬ピリッとした空気を、ドリランが軽く手で払うように緩める。
「三人で渓谷に着いた俺たちは、まず機械獣の少なさに驚いた。
突撃鹿の一体もいやしねぇ……」
ふぅ、と深く息を吐く。
「とにかくまずは調査だと、渓谷の入口に進んだ瞬間に――」
「横っ腹をズドーンってね」
ミリィがドリランの言葉を継ぐ。
「おう、ズドーンだ。んで、この横穴に逃げ込んだってわけよ」
ふん、と鼻息を荒くし、ドリランがドヤ顔で告げる。
「つまり、何が起きてるのかわかってないって事だな?」
ドリランの胸ポケットから煙草を抜き取り、火をつける。
こいつ、いい葉吸ってんな……もう二、三本もらっておくか。
「はー、つっかえねぇ」
ロクローもドリランの煙草を拝借し、火をつける。
「ただ……」
トールが否定するように、ゆっくりと言葉を紡ぐ。
「鉄巨人からは、“何かを守ってる”ような気配がした」
「何かって……『お客さん』か?」
「おそらく」
ゴクリ、と誰かがつばを飲む音が妙に響いた。
俺か、ロクローか――まぁ、どっちでもいい。
「しかし、いつもの“お客さん”には機械巨人なんて同伴してなかっただろ?
なんで今回は?」
ロクローが疑問を口にする。
「これから言うのは、予測だけどな……」
煙草を靴で踏みしめ、ドリランが続けた。
「天上の御方(笑)の中でも、高貴な人じゃないのか? とな」
「機械巨人は護衛の騎士って事か」
この煙草、まじで美味いな……生き延びたらどこで買ったか聞いておこう。
ロクローと顔を見合わせる。
「高貴(笑)だったら……持ってるモンも高価だよな」
ニヤリと笑う。
「こりゃ千五百点以上の価値がありそうだ」
「だな」
三人……いや、ミリィも含めて四人は悪い笑みを浮かべる。
「助けてやろうとかは思わないんスか……?」
至極真っ当な疑問を、トールが恐る恐る口にする。
甘ちゃんめ。そんな事じゃ別の同業者にやられるぞ。
「助ける? 死ぬ速度を早めてやるのか?」
俺は鼻で笑う。
「いいか、天上の野郎共は、地上の楽園の空気じゃ生きられねぇ。
馴染めるわけがねぇ。助けるってのはイコールで“殺す”って意味だぞ」
手を拳銃の形にして、トールの頭を指差す。
「戻る手段が無い以上、これが唯一の救いだよ」
トールがゴクリと息を飲む。
まったく、ドリランはそんな事も教えてねぇのか……。
「まぁ、殺すにしても、生かすにしても、だ」
ドリランが俺とトールの間に入り、諭すように続ける。
「まずは機械巨人をなんとかしなきゃならん。なんか思い付かないか?
一発屋」
ほれ、といつ淹れたのか、珈琲を差し出してくる。
「なんで俺なんだよ……“金色”はお前の徒党だろ?」
「今回は楽な仕事だと思ってたからな。ミリィとトールしか連れてきてねぇ。
獅子座も天秤座も連れてきてねぇからな……この二人は探索や索敵には向いてる二人だが、戦力としては当てにならん。
それなら凄腕のお前に任せるのが、一番生きる目が高いってモンよ」
獅子座と天秤座は「金色の夜明け」の二大攻撃手だ。
近接最強の獅子座と、中距離最強の天秤座。
ロクローも射手座枠で誘われたとか言ってたか。
「相棒、アレの頭撃ち抜けるか?」
「あ? 無理だな。もっと口径デカい電磁砲でもありゃ別だが」
ふむ、と顎に手を当て考える。
こういう時は単純なのが一番いい。
「新米、さっき発破って言ってたが、あとどれくらい花火はある?」
「……背嚢一つ分くらいの火薬なら、いつも持っています。
あとは手榴弾が四つ程度」
そんだけアレば充分だ。
さぁ、反撃と行こうか。




