ポイント22.98
ギルドホールから南に1時間。ポイント22.98まではすぐだ。
問題になるのはどのルートで行くか?ってトコだ
最短距離をまっすぐ向かえば危険が満載だ。
迂回して安全ルートで行くか、時間を惜しんで最短ルートで行くか。
最短ルートは崖沿いの細道で、機械獣がウロウロしている。
安全ルートは時間が倍はかかる。燃料代が勿体ねぇ
俺達は迷わず最短ルートだ。
時は金なりって言うだろ?
「ドゥ!お前に観客が挨拶してぇってよ」
ロクローが顎で左側を示す。
背中に大層な銃器を背負っている機械の犬…いや、猪か?兎に角四つ足だ。そいつが向かってきた。
機械獣…天上から降ってきた機械の生き残りだ。
コイツらは金にならんし、素材も碌なもんじゃねぇ。
「お生憎様、お触り禁止だ」
鉄馬に飛び掛かられても困るし
背中の自慢のイチモツで心臓を焼かれても困る。
咥えてた煙草を吹き出し、サイドカーに添えつけのミニガンの弾をばら撒く。
甲高い金属音を上げて、機械獣が爆散する。
あぁ、勿体ねぇ…こんなの相手にしてたら弾代ばっか掛かっちまう。
「相棒。機械獣に出くわさないルートは選べなかったのか?」
俺は愚痴るようにロクローを睨めつける。
「はっはっはっ!道間違えちまったよ!まぁ、こっちのほうが近いしいいだろ?」
相変わらず能天気な奴だ。
「こっちのルートは、前ン時に死んだ馬鹿がいたはずだが?知ってたか?」
「お、そうだったのか?知らなかったぜ」
ゲラゲラ笑いながらアクセルを捻る。
……知ってて来たな、コイツ。
ロクローという男を少し話しておこう。
お調子者で能天気。
だが戦闘となると誰よりも血が騒ぐ、筋金入りの戦闘狂だ。
……なのに、気は小さい。 本人曰く「だから狙撃手やってんだよ」。
遠くから撃つのが性に合ってるらしい。 名前の通り、東の出身だ。
まったく、困った相棒だよ。
「おい見ろよドゥ!あんなでっけぇのも居るンだな!うひょ~!」
やたら興奮した声色で前方を見てニヤニヤするロクロー。
視線の先には身の丈3メートルはあろうかという巨体。
デカい耳と長い鼻。象とか言う草食動物の機械獣だ。だが背中にはロケット・ランチャー。
金属の皮膚がギシギシと軋み、赤い目が点滅していた。
コイツは良くない。全くよろしくない。
「爆撃象だ!さっさと通り抜けろ!」
前に一度だけ見たことがある。旋回性能は最悪だ。
足元を抜ければ、振り向くのに三秒はかかる。
「あいよっ」
ロクローがアクセルを捻り、四つ足の間へ突っ込む。
爆撃象がこちらを踏み潰そうと巨大な足を振り上げた。
ドゴォンッ!
サイドカーの一メートル横に、ハンマーみてぇな足が叩きつけられる。
衝撃がタイヤ越しに全身へ突き抜けた。
「あっぶね」
「はっはっはっ!ギリギリセーフ!はっはっはっ!」
ゲラゲラと笑うロクロー
…なんだコイツ、ヤバい薬でも服用してるのか?
笑ってる場合じゃねぇだろ。
足の間を走り抜けて、3カウント。
前にも同じ状況があった。あの時はこれで逃げ切れた。
そう思って振り向いた瞬間、絶句した。
ギギギギ、と金属が悲鳴を上げる。 爆撃象が踏み抜いた足を軸にくるりと回転し、すでにこっちを見ていた。
赤い目がボウッと光る。ロックオンの合図だ。
「おいおいおいおい、奴さん完全にこっちを標的にしてンぞ!」
慌ててミニガンを向ける。 チュンチュンと金属の皮膚を撫でるだけ。傷一つ付かねぇ。 「慌てンなって。こういう時のための俺だろ?」
鉄馬をオートモードに切り替えて、ロクローがサイドカーに飛び乗る。
俺は操縦桿を握り、運転席へ。
「頭のりんごを撃ち落としたら拍手喝采、ってな」
古びた電磁砲を揺れるサイドカーの上で構えるロクロー。
「外したら電撃蒸留酒はお前の奢りだからな!」
「お、ラッキー当てたらドゥの奢りか」
フフーンと鼻歌混じりにスコープを覗く。
ロクローが息を止めた気配がする。
バチンッ――
強烈なイオン臭。レールガンの先端から白煙が立ち上る。
「ほいっと、終わり」
後ろで轟音が鳴り響く。
爆撃象が制御を失い、崖下に落ちていく音だ。
振り返らなくても分かる。
コイツの腕は超一流なのだから。
さて、この崖の細道を抜けたらポイント29.98の渓谷の入口が見えてくるはずだ。
先行してる「金色の夜明け」に先を越されるのも癪だ。
「おい、相棒。浸ってるトコ悪いんだけど、さっさと進もう。ペットがこれ以上来ても困る」
サイドカーでまだ狙撃姿勢のままのロクローに声をかける。
反応がない。……おいおい、本格的にトリップしたか?
「ドゥ……運転はお前がやってくれ。俺は後ろの追跡者を片付けながら進む」
ロクローの声が低い。こいつがふざけない時は、本当にヤバい時だ。
サイドミラーを覗く。
土埃を上げて、鹿型の機械獣――突撃鹿が5体……いや、10体に増えてやがる。
「渓谷まであと2キロ……やれるか?」
「ったりめぇよ」
ロクローが息を止め、2連射。
オゾン臭と弾ける音。先頭の2体が転倒し、後続が巻き込まれる。
この隙に速度を上げ、一気に走り抜ける。
突撃鹿の群れなんて聞いたことがねぇ。
データにもねぇ。何かがおかしい。
「行くぞ、距離を取る」
アクセルをひねり、速度をさらに上げる。
……嫌な予感が膨らむ。胸の奥がざわつく。
これはただの嫌な予感じゃねぇ。
ポイント29.98で“何か”が起きてる。
もう、これは確実だ。
細道を抜け、少し開けた道に出た瞬間、警鐘は最大限に跳ね上がった。
見覚えのある鉄馬が転がっている。
「金色の夜明け」の連中のだ。
右サイドに三本の爪痕。
「トカゲ」じゃねぇ。もっと細くて、もっと深い。金属が焼けてやがる。
死体はない。逃げたか、連れ去られたか……どっちにしろロクな状況じゃねぇ。
「ドゥ!このまま渓谷に突っ込め!爆撃象まで合流しやがった!」
ロクローがスコープを覗き込みながら叫ぶ。
いつの間にか電磁砲から電磁突撃銃に換装している。
もう電磁砲の距離じゃねぇ。近すぎる。
心臓が甲高い悲鳴を上げる。
俺たちは渓谷へ突っ込んだ。
風が渓谷の奥から唸り声みてぇに吹き上げてくる。
……悪魔が大口開けて待ってるようにしか見えねぇ。
「腹下しすんじゃ…ねぇぞ!」
アクセルを開き、全速で突っ込む。
谷の両端をロクローが電磁突撃銃で撃ち抜き、崩落を起こす。
これで当分、機械獣共は入ってこれねぇ。
相変わらず良い腕だ。
「ドゥ!正面だ!なんかいる!!」
鉄馬のライトが照らす。
……船?
クソ、外れだ。「トカゲ」じゃなくて「お客」の方か!
いや、違う。船だけじゃねぇ。
「トカゲ」でもねぇ。
人間……?
それにしちゃあデカい。
さっきの爆撃象よりデカく見える。
ギギギ……と、金属が擦れるような音。
谷に反響して、背骨がゾワッとする。
巨人。
コイツが噂に聞く――
機械巨人。
天上人が戦争で使ってたっていう、あの化け物兵器。
地上に落ちてくるなんて、聞いたことがねぇ。
「……おいおい、冗談だろ」
ライトに照らされた巨体が、ゆっくりとこちらに顔を向ける。
赤いセンサーがボウッと光る。
ロックオンの色だ。
「ドゥ!止まるな!あれ、動いてるぞ!!」
ロクローの声が裏返る。
機械巨人の腕が、ギシギシと音を立てて持ち上がる。
まるで、俺たちを掴み潰すみてぇに。
「クソッ、なんで“動いてる”んだよ……!」
谷の奥から、風が唸り声みてぇに吹き上げてくる。
悪魔が大口開けて笑ってやがる。
クソがっ!!




