夕凪の庭①
きみは、天使様を見たことがある?ない?じゃあ、悪魔は?……うん、そうだね。普通はいないよね。
だけど、ぼくは見たことがあるんだ。天使みたいに綺麗で、悪魔みたいに残酷で。
だけど、人間としてこの世界にぼくを繋ぎ止めてくれた人を。
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夏休みを前にして高専は活気に満ちていた。その例に漏れず、凪も今年の夏を楽しみにしている。何故なら今年は残夏がいるからだ。
毎年夏休みは玲たちが構ってくれてはいたけれど、忙しいのも事実。1人で過ごすことが多くて寂しかった。
でも今年は残夏も寮で過ごすだろうからきっと楽しくなる筈だ。
しかしそんな楽しい時間の前には立ち塞がるものがある。日本の学生なら避けて通れないもの。
そう、学期末試験だ。凪と残夏はちょうど今その試験勉強に追われまくっているという訳である。
「ううう〜〜!分かんない〜〜!」
「凪……、基礎の基礎だよ……。」
文字がいっぱいで面白くない教科書を投げ出せば、勉強を教えてくれていた清治が溜息を吐き出した。
その様子を向かいで見ていた残夏が苦笑を漏らす。
「凪は実技の方が好きみたいで。」
「そう!ぼく身体動かす方が好き!」
「それも良いけど、ちゃんと勉強もしなきゃだよ。玲が勉強しなさいって言ってたでしょ?」
その名前を出すのはずるい。だけど、忙しい中で時間を取ってくれている清治にも申し訳なくなり凪は放り出した教科書を引き寄せた。
14番隊は今日も人が少ない。梓と圭は14番隊では主戦力であるから基本的に忙しくしているし、柳瀬は事務仕事で追われている。
それ以上に玲は忙しく、基本的に出張ばかりで隊にはいない。だから玲の不在時に隊をまとめる役の清治と凪、そして残夏だけの日が殆どだ。
勿論、清治だって忙しいのだけど、新人教育を任されているからか、こうして時間を取って凪たちに構ってくれる。
それに十分感謝はしているのだが、こうも座学ばかりだと楽しくない。絵が描いてある本は好きだけれど、難しい公式ばかりの教科書は苦手だ。国語の教科書ならいざ知らず、今凪の手にあるのは数学の教科書。
よく分からないまま睨めっこする事、数十分。
清治の言だと凪は理解しようとすれば理解出来るらしいが、いかんせん興味がこれっぽっちも湧かない。
ただ退屈な図式に目を回しつつ、何か楽しいことが起こらないかと待っていると、勢いよく14番隊の執務室の扉が開け放たれた。
「やっほ〜!楽くんがお茶しに来たよ〜!!」
その余りの勢いに、残夏の肩が跳ねる。しかし凪は待っていた楽しいことの到来に、椅子から飛び降りると扉を開け放った人影に飛びついた。
「楽くーん!」
「お、凪〜!!元気だな!」
亜麻色の長髪を首の後ろで1つに括って、輝くような笑顔の太陽みたいな人。
凪の大好きな北郷楽だ。
凪の髪をくしゃくしゃにする楽に清治は慣れたように溜息を吐き出すと苦笑を浮かべた。
「楽。今日は玲いないよ?」
「清治がいるじゃん。お茶しよーよ。ボク、美味しいお菓子持ってきたからさ!」
「もう……。まあ、凪も集中力切れてたしね。いいよ。お茶淹れてくる。……あ、残夏。この派手な人は北郷楽。4番隊の隊員で、僕と玲の同期だよ。」
「大親友だよ〜!で、君が……小鳥遊、残夏くん?よろしくね!!」
清治の紹介を受けて、楽が残夏の手を取る。それに残夏が身体を硬くするのに、凪は楽から離れると残夏の隣に立った。
残夏はまだ14番隊以外の大人は苦手らしい。安心させるようにそっと耳元で大丈夫だと囁けば残夏の身体から少しだけ力が抜けた。
「あの……よろしく、お願いします。」
「そう硬くなんないで〜!なんならボク、君の暴走事件の後処理したんだから!」
「え?」
「玲から聞いてない?4番隊に要請があったんだ。」
その言葉に、折角力が抜けていた残夏の身体がまた硬直する。楽はその様子をそっと目を細めて観察しているようだ。
「要請……。」
「そう。君が暴走したのを握り潰すためにね。4番隊って、広報宣伝が主なんだけど、詰まるところ内部情報管理もお仕事のうちなんだ。で、今回は何時も良くしてくれてる14番隊から声を掛けられたから助けた。……そうじゃなかったら君、今頃処分されてるよ。」
残夏の顔からサッと血の気が引いていく。真っ青になった残夏を落ち着かせるために、凪はその肩に手を置いて、楽に視線を向けた。しかし楽は気にした風もなく、相変わらず残夏を見ている。
一体、どうしたというのだろう。楽は何時も明るくて、優しくて、こんな風に誰かを責めるような響きを声に滲ませる人じゃないのに。
困惑していると、奥から茶器を持ってきた清治が戻ってきた。彼もまた、驚いたように目を丸くさせている。
「どうしたの?」
「この間の暴走事件の顛末について話してんの。お前も、玲も、ちゃんと言ってないんでしょ。」
「楽、それは……。」
「ダメだよ、ちゃんと言わないと。結構危ない橋渡ってたんだから。」
清治の困った顔に首を振って、楽は残夏を見つめる。その瞳に常にない真剣な色を感じ取って、凪は口を開くのをやめた。
その代わり、残夏から離れないように背後に立ったまま、凪もまた楽の黒曜石の瞳を見つめ返す。
「ボクはさ、清治と玲の友人だ。だから2人がどれだけお人好しかも、優しいかも知ってる。特に玲は勘違いされやすいけど、誰かのために無茶ばっかりする。だから、友人としてほっとく訳にもいかないんだ。……君の事情は分かってる。君が悪い訳じゃない事もね。だけど、君の軽率な行動を誰かがどうしようもないくらい裏で取り繕っている事は知っておくべきだよ。」
静かな声だった。それだけに、普段の楽を知っている凪と清治は声を出せない。そして残夏は顔を俯かせると小さくごめんなさいと呟いた。
しかし、その呟きに楽は首を横に振る。
「違う違う。謝れとかじゃないんだよ。……そうだね、どこから話そうかな。組織の基本構造は知ってるよね?だったら、組織の内部派閥について。ボク達の組織は、主に東條派と南宮派そしてどちらにも属さない中立で分かれているんだ。」
「南宮って……。」
「そう。君を真っ先に処分しようとしてた陰険なやつ。8番隊の隊長でさ、東條さんの事を目の敵にしてる。普段はそんな態度おくびにも出さないけどね。こいつが結構な強硬派でハグレモノなんて許さないって感じなんだ。勿論東條さんもそうなんだけど、東條さんはどちらかというと民間人の人命優先で、南宮は組織内の隊員優先ってタイプ。優秀だけど厳格でお堅い東條と、常に隊員を優遇してハグレモノは許さない南宮。人気なのは南宮さんの方。それでも二つの派閥が拮抗、あるいは東條派が代頭してるのには東條司令官の優秀な右腕のおかげなんだよ。それがお前達の隊長ね。……あいつは、東條さんと違って飴と鞭の使い方が上手いから、内部連携とか地方との連携、上部とのコネ作りも全部引き受けてんの。それで上手いこと不満が出ないように立ち回ってんだ。」
凪達の隊長の玲は、隊長格の通常業務もこなしながら東條のサポートと、14番隊の人員不足にも対処している。
だからいつも忙しくて、執務室にもあまり居てくれない。凪は知っていたけれど改めて聞くと玲は本当にいつ休んでいるのか分からないくらいの激務だ。
最近あまり会えていない事に凪まで眉が下がってしまう。
そんな中、少しだけ息を吐くと楽はまた真っ直ぐに残夏に視線を向けた。
「だけど君の件は火種になる。」
「……火種。」
「そう。結構無理して助けたから、南宮派は不満だらけだろうし君のスキャンダルを心待ちにしてる。だから、今回みたいな事が起こると玲の立場がかなり悪くなるんだよ。それこそ、今は東條さんの下で自由に出来ていることもできなくなる。ボクはそれが心配なの。玲も清治も、14番隊は皆んな優しいから傷つけないようにするんだろうけど、それくらいは知っておかないとね。」
しゅんと顔を俯けてしまった残夏に凪の眉は益々下がる。どうして楽は急にこんな事を話したのだろう。残夏はまだ回復中で、その辺りは後でも良かったはずなのに。
場が静まり返る。誰が何を言えばいいのか。
そんな空気感の中、楽は突然残夏の頭をくしゃくしゃに掻き混ぜた。それに慌てて残夏が顔を上げれば、楽がいつもの様な太陽の笑顔をみせる。
「落ち込むとこじゃないよ。」
「え?」
「あのね。ボクが言いたいのは、残夏はそれだけ凄い人たちに助けられたって事。それだけお前の命には価値があるって事なんだ。」
明るい声は陽だまりみたいで暖かい。残夏の身体の硬さが溶けていくのが分かった。
「だから、自暴自棄にならないで堂々としてな。お前の命を大切に思ってる人がいるっていうことを知っておけば、暴走することもないでしょ。」
「……はい。ありがとう、ございます。」
「ん。まあ、ボクに言わなくてもいいんだけどね。てか14番隊は皆んなほんわかしすぎだからさ。なにか知りたい事あったら何時でも4番隊においで。なんでも教えてあげるから。」
「はい。」
「よーし!いい子!じゃあ話は終わり!お茶飲も〜!!」
そう締め括った楽に、清治がほっと息を吐き出す。冷たくて静かだった空気は途端に柔らかいものに戻った。
残夏も緊張が抜けているのに凪は嬉しくなってぎゅっと抱きつけば、残夏の驚いた声が上がった。
「もう……急に来て変な話するからお茶、濃くなっちゃったじゃないか。ミルクで割っていい?」
「いいよ〜。てか、仕方ないじゃん。だって心配なんだもん!玲も清治もぜんぜん相談してくれないしさ〜!でも良かった!残夏めっちゃ良い子じゃん。普通に安心した。」
「そうだよ!残夏くん、すっごく良い子なんだ!」
甘いお砂糖を沢山入れたミルクティーとさくさくのクッキー。明るい笑い声と、残夏の楽しそうな顔。やっぱり楽がくると楽しい事が待っている。凪は勉強のことも忘れてはしゃいだ。しかし楽が帰った後に待っていた、続きの勉強会を殆ど寝て過ごした事で清治に怒られる事になるのだった。
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「よーし、小鳥遊。霊力安定したな!」
そんな豪快な声と共に、凪の隣にいた残夏の頭を大きな手が掻き混ぜた。
凪と残夏の担任の武田だ。熱血そうな見た目に反して頭の上は寒々しいが、誰にでも同じように接してくれるいい教師である。
前の、名前すら覚えていなかった担任は何時の間にか消えていて、凪達のクラスは武田が見てくれるようになった。
そのおかげか、最近は残夏に対する陰湿な言葉や嘲笑は表立って現れなくなっていた。武田がそういうのをとても嫌って厳しく指導してくれるからだ。
そんな中、残夏は霊力制御のコツを掴んだらしく、毎日少しだけ授業も楽しそうに受けている。そんな残夏の顔が見れて凪もまた楽しくて仕方がなかった。
だって残夏は友達だ。凪の初めての。
だから残夏が嬉しければなんでも嬉しいし、一緒にいるだけで楽しい。だけど残夏はどうなんだろう。同じ14番隊だから残夏は凪の近くにいてくれてるのだろうか。
残夏は優しい。だからきっとその内人気者になる。
その時、残夏は凪のことをどう思うのだろう。
「凪?次、凪の番だって。」
遠くに沈んでいきそうだった思考の端で、残夏の声が響いた。それに驚いて軽く周りを見回せば残夏の不思議そうな顔と武田の呆れた顔が視界に入る。
きっとまた凪の集中力が切れていたと思っているのだろう。そしてそれは事実だ。
「あ、うん!任せて!」
凪は慌てて明るい声をあげると、目の前の葉を結晶に変えた。玲と特訓した霊力制御は凪の得意なところだ。ほんの少しでも間違えるわけにはいかない。
綺麗に結晶化された葉に残夏がキラキラと眩しい眼差しを向けてくる。それに笑いながら、背に刺さる沢山の視線は無視をした。
残夏は気がついているのだろうか。残夏に向けられる敵意の視線の半分以上は凪に向いていることを。
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「今日も玲ちゃん帰ってこないの……?」
「凪……。玲、忙しいみたいで。でももう少ししたら帰ってくると思うよ。」
今日も今日とて、14番隊には人が居ない。清治と凪と残夏だけの空間に、凪の落ち込んだ声が響いた。その後ろで残夏が不安そうに眉を下げる。
「……凪。」
「大丈夫。ごめんね、残夏くん。」
残夏の声かけにも凪の沈んだ気持ちは戻らなかったらしい。そのまま今日はもう帰るね、と執務室から出ていくのに、残夏までしゅんと顔を俯けてしまった。
清治はその頭を軽く撫でてから、残夏の目線に少しだけ膝を折った。
「大丈夫。凪、玲のこと大好きだから偶にあるんだよ、こういう事。」
「でも……最近、学校でもあんな感じで。……何か、悩んでるのかなって。」
「そうだね……。」
凪の様子が最近おかしい事には清治も気がついていた。試験前だからかと思っていたが、残夏の話を聞く限りはそういう訳でもないらしい。
相談に乗ってあげたいが、凪は人懐こい反面、本当に大切なことは玲以外には話さない。
だからといって忙しい玲にそれを伝えるのはもっと憚られる。玲は玲で他人のために無理してでも奔走するから、余計な心労はかけたくない。
それに清治は何となく今回の件についての理由は分かっていた。解決するには凪がちゃんと残夏と向き合うしかない。
ーー僕たちも昔はこんな感じだったのかな……。
高専で初めて出会ってから随分と一緒に過ごしてきた。
お互いのことを何も知らずに向き合って、ぶつかったり誤解したりもなかった訳じゃない。それでもその経験が今の清治を形作っている。
だからきっと、凪と残夏も。
「残夏。凪のこと、見ててあげてね。」
そっと言葉を落とせば、夏空色の瞳が強く煌めいた。
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太陽が高く照りつける。遮るものがない屋外の訓練場で、残夏は教師の説明も耳からこぼれ落ちるほど、隣の凪に意識を傾けていた。
最近、凪の様子が変だ。まだ出会ってから数ヶ月ではあるけれど残夏にとって凪は初めての友達。様子がおかしい事くらいは分かる。
いつも明るくて、楽しそうで。天真爛漫な様子が眩しくて。それなのにここ数日は花が萎れているみたいに元気がない。
それが気になって、どうにかしてあげたいけれど、残夏は友達経験が無いためどうしてあげたらいいか分からなかった。
それに凪はどうも近頃は残夏の事を気にしている様子で、しかし話しかけてもくれない。
もしかしたら自分が何かしてしまったのかもと思うと、余計残夏は行動を起こせなかった。
「じゃあ次ーー、小鳥遊と白石。前に出て組手だ。」
「え?あ、はい!」
「はい。」
武田に名を呼ばれ、残夏は慌てて立ち上がる。その横を白石が悠々と歩いていくが、すれ違う寸前その目が嘲笑の色に染まるのが分かった。
白石は以前、残夏に14番隊などお飾りだと揶揄したやつだ。武田が担任になってから目に見える嫌がらせは無くなったが、その性根まで簡単に変わりはしない。だけど今日は丁度いい。清治や偶に梓に付き合ってもらって残夏の実技の腕も上がっている。
モヤモヤした気分を晴らすためにもその鼻っ柱を折ってやるのだ。
「よし、2人ともいいな。それでは構えーー、始め!」
武田の合図と共に組み合って、技を掛け合う。白石はその最低な性格に反し成績優秀で、実技も基礎が整っている。
だから今まで勝てたことはないが、何となく今日はいけるような気がしている。
その証拠に残夏の足を払おうとした白石に、残夏はわざと体勢を崩すとその勢いのまま白石を背負い投げた。梓がやっていた動きだ。
初めて実践してみたが、案外上手くいった。
「そこまで!……小鳥遊、腕を上げたな。」
素直に褒めてくれる武田に残夏の頬は熱を持った。凪も見てくれていたのか、嬉しそうに手を振ってくれている。
良かった。凪が喜んでくれるなら残夏も嬉しい。
心なしか周りの目も今日は攻撃的じゃない気がする。残夏は晴々とした気持ちのまま、自分の場所へと戻ろうとしーー、
「残夏くん!!」
凪の大声と、何かの影。武田の怒号に気がついた時には、残夏と白石の間で凪が蹲っていた。
いつものアイマスクが外れて、転がっているのに残夏は目を見開く。
白石だ。やつが、腹いせに残夏を背後から殴ろうとして、それを凪が助けてくれたのだろう。
瞬間、頭が沸騰しそうになるがそれでも凪の方が大切だ。それに此処には武田がいる。般若のような顔になって怒号を飛ばす武田に白石を任せて、残夏は凪の隣に膝をついた。
「凪、大丈夫?」
「だ、大丈夫……。ぼく、ぼくのアイマスク……。」
「アイマスク?ちょっと待って。」
頑なに目を開けずに周りを手探りで探している凪に、残夏はアイマスクを代わりに取る。
そのまま手渡そうとした瞬間、武田に怒鳴られていた白石が大声をあげた。
「そいつのせいだ!!!そいつの邪視が操ったんです!!!先生!そいつは危険です!!!」
「白石!!!貴様は!!!」
すぐさま武田の大声が遮るが、その言葉は残夏たちの耳にもはっきりと響く。
「邪視」。
その言葉に残夏が首を傾げるよりも先に、凪の身体が小刻みに震え出した。
「凪……?」
「そいつは人殺しで化物ですよ!?どうして一緒に訓練を受けさせるんですか!!!俺は反対です!小鳥遊も蓮池も化物だ!!!」
「黙らんか白石!!!」
首根っこを掴まれて白石が武田に何処かへと引きずられていく。だけどそれよりも残夏は凪の様子に驚いていた。
顔を真っ青にさせ、手を震わせて。だけどアイマスクだけはしっかりつけて。
残夏はその背を宥めるように撫でるが、周りはそうはいかなかった。武田がいないのをいい事に、ひそひそと囁き声がさざめく。
「見た?邪視。」
「見てない。見ると死んじゃうんだよ。」
「人殺しって本当なんだ。」
段々と大きくなっていく声に、残夏は眉を寄せた。またこいつらはありもしない事を。
腹立たしさと凪を守りたくて、庇うように立ち上がると残夏は声を荒げた。
「っ、何をーー!!」
「残夏くん。……いいの。」
しかしそんな残夏を止めたのは凪だった。そっと背を引かれ振り向けば、何時もの笑顔とは違う不恰好な笑みを浮かべて。
凪の声は静かで、だけどその瞬間に囁き声も鎮まるからはっきりと聞こえた。
「凪?」
「本当だよ。」
「何がーー、」
「……ぼく、人殺しだよ。」
そう言って、凪はその場から駆け出してしていった。その後を追おうにも、凪の運動神経は残夏以上。
すぐに見えなくなる背と、戻ってきた武田の呼び声に残夏は凪を追うことが出来なかった。
ここまで読んでいただきありがとうございます!
エピソード2開始です。
だいぶストックが貯まったので、来週から水曜日、土曜日の週二回投稿に切り替えます!
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