六花の灯②
「わあ……!」
雄星が鍋の蓋を開けた瞬間、立ち上る湯気と立ち込めた出汁の香りに、凪が歓声を上げた。
ぐつぐつと煮える鍋の中では、少しだけ奮発した海鮮が美味しそうに身をほぐしている。
司の部屋の炬燵に入りながら、残夏は感嘆の息を吐き出した。
来たる十二月三十一日。
残夏たちは朝からスーパーやコンビニで鍋の材料とお菓子や夜食を好きなだけ買い込んだ。
誰もいない寮は、共用の台所も休憩室もすべて残夏たちの天下だ。
走り回ったって、夜中まで騒いだって誰も怒らない。だから今日は寝ないで朝まで楽しむつもりだ。
「やー、司の部屋に炬燵あってよかったなぁ。」
「ふふん!感謝しろ!」
「お鍋美味しいね〜!」
「雄星、料理上手なんだね。」
寄せ鍋なんてもしかしたら初めてかもしれない。しかもこんな風に誰かと囲むなんて。
十分に出汁の染みた白菜を噛み締めながら残夏はこの時間に浸っていた。
一時はどうなる事かと思ったが、凪や皆んなが一緒に残ってくれて良かった。
もちろん、玲の誘いを断った罪悪感も無いわけではないのだけれど。
ーーそういえば隊長、どんな風に過ごしてるのかな……。
毎年、年越しは三島家で過ごしていると言っていた。残夏が断らなければ、そこに連れて行ってくれたのだろう。
彰良と清治と楽の四人で過ごすのだとか。
あの人たちは本当に仲が良い。清治を除けば別部隊だし、階級も違うのにいつだってお互い、気安い空気感がある。
ーー彰良さんも隊長とのハグレモノ討伐、慣れてそうだったし。
ついこの間襲ってきた上級のハグレモノと対峙した時は、二人とも余裕そうだった。
玲の力にただ圧倒されていた残夏たちとは違い、彼らの日常に組み込まれているかのように自然で。
あんな風にいつかなれるのだろうか。そもそも、彼らはどうやってあそこまで来てくれたのか。
残夏が切り裂きくんに助けを求めてからそんなに時間は経っていなかったはずなのに。
「ああ、それ俺も思った。水面から出てきたよな。なんかの転送術?」
いつの間にか口に出ていたらしい。
豆腐を食べながら雄星が同意するように頷いた。それに凪が楽しそうに口を開く。
「あ、それね。彰良くんの固有の転送術だよ。『水鏡』っていうの。」
「『水鏡』?」
そういえば玲も言っていた気がする。
水鏡。
彰良の水の霊力に関係するのだろうか。
「うん。水面に遠くのものを写す術でね、彰良くんの霊力をマーキングしておくと、彰良くんのいる場所からそこまで辿れるんだって。それで写すだけじゃなくて潜るとそこに通じるんだよ。あの時は、彰良くんが撃った弾に霊力を纏わせてたんじゃないかな。」
「へえ、すげーのな。」
「転送術は負担がかかり過ぎるだろう。それでよく平気な顔をしていたな。」
「それが、そんなに遠くまで行けないのと……彰良くんの霊力が辿れなかったり、自分より強い霊力で結界が張ってあったらダメみたい。だから結構お手軽に使えるって言ってた。」
「それでピアス……。」
以前聞いた、彰良の霊力石がついた玲のピアス。保険と言っていたが、そんな理由があったとは。
でもやっぱり、それだけでは霊力石の交換は説明が出来ない気もする。
心持ち微妙な気分になっていると、汁まで飲み干した雄星が次を皿にとりながら口を開いた。
「そういや俺も気になることがあるんだけどさ。14番隊の隊長の顔がはっきりしねーんだよね。でも司に聞いてもそんな事ないっつーし。」
「顔?」
「そうそう。眼鏡外したあとの美人じゃなくてさ、眼鏡してる顔。なんかぼやっとしててお前らといなかったら忘れちゃいそうな感じなんよ。多分俺、廊下ですれ違っても気付かないと思う。」
雄星の言葉に首を傾げる。
確かに眼鏡をかけている時とかけていない時で雰囲気は変わるが、玲の顔が分からないという事はないだろう。
あのどこか野暮ったい眼鏡は一度見たら忘れることはないと思うのだが。
「お前が覚えきれてないだけじゃないか?」
「そーなんかなぁ……。」
「それ認識阻害だよ。玲ちゃんの眼鏡に掛けられてる術。」
なんだろう、それ。
言葉から察するに、他人に認識されないようにするのだろうか。でも残夏たちは玲がいればすぐに気がつく。認識阻害を受けているとは思えない。
そんな事を考えながら残夏が首を捻っていると、司と雄星が少し驚いたように目を見張っていた。
そんなに凄い術なのだろうか。
「まあ、すげーていうか難しい術だよ。人の認識を操作するんだぜ?」
「……亜月隊長の眼鏡は、対象が不特定多数だろ。それは相当だと思うぞ。」
「あれね、玲ちゃんの先生がくれたんだって。司くんの言う通り色んな人から玲ちゃんを隠す術なんだよ。それでね、玲ちゃんに強い関心がある人には効かないの。だから雄星くんは初めましてだったから分かんなくなっちゃって、司くんは入院の時で印象が強かったから覚えてたんじゃないかな。」
なるほど。
確かに一番最初、断罪の際、玲はどこか希薄な印象だった。その後もなんとなく記憶がぼやけていたのはその眼鏡のせいだったのか。しかし。
「それ、何の為に……?」
「虫よけだって。」
「……。」
凪の言葉に、全員が微妙な顔になった。
虫よけは分かる。あれだけ綺麗な顔をしていて、久遠家に行く前も大変だったのだからその理由は十分に理解できる。
ただなんというか、玲がその発言をしたとすると他にも色々意味が含まれていそうで、どうにも解せない。
きっと凪以外、同じ意見なのだろう。そんな雰囲気を吹き飛ばすように雄星は明るい声を上げた。
「ま、まあまあ!それよりシメにしよーぜ。うどん入れて、余ったら雑炊!」
「おお……!!」
そのひと言に、全員の意識が食欲の方に傾いたのは言うまでもない。
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「うう……凪、残夏ぁ……。」
「え?玲、酔っちゃった?めっずらし〜!」
夜も更けてきた頃、日本酒の一升瓶に玲が抱き着いて泣き始めた。
まだ年も越していない時間帯。
そもそも玲が酔うところなんて初めて見た。ザルを通り越して枠なのに。
ぐすぐすと鼻を啜りながら呟くのは、彼が大切にしている可愛い部下たちの名前だ。
そんな玲に清治が苦笑を漏らした。
「凪にも残夏にも断られてたからね……。」
ああ、なるほど。それは泣いちゃうかもしれない。
玲は彼らを本当に大切にしているから。
とはいえこんな風に泣くなんて滅多にない。まるで子供みたいだと思っていると、視界の端で彰良が溜息を吐き出した。
「凪にも残夏にも友達出来て、良い事じゃねーか。子供離れしろよ。」
「うう……彰良がいじめる……楽……。」
「おー、よしよし。ちょっと彰良、いじめないでよ〜。」
「うざ……。」
抱き着いてきた玲の頭を撫でながら、悪戯っぽく彰良に視線を向ける。
簡潔に返してくる割には、苦々しい顔だ。羨ましいんだろう。
これだから彰良は揶揄うと楽しい。
楽はもうちょっと彰良が素直になれば良いと思っているのだ。
「そもそもお前が残夏を自立させたいって言ったんだろ。」
「……それとこれとは話が別……。」
「一緒だろ。残夏がお前に依存しないで青春してるならお前の狙い通りじゃねーか。それで態々記憶操作はマジでどうかと思うけどな。」
「……。……お前らがペラペラ俺のこと教えるのが悪い。」
「それこそ、それとこれとは話が別だろーが。」
彰良の言葉に、玲がしゅんと俯く。
いつもだったら口では負けないのに。それだけ酔っているのだろう。
楽に抱きついたままの玲の頬はほんのり赤く染まり、長いまつ毛に水滴がついていた。
「……だって、残夏には残夏の道を歩いて欲しいから……。」
「お前を助けたいのだって、あいつが決めたことだろ。」
「違うよ。……単に同情しただけ。捨て猫見て、可哀想って思うのと一緒だよ。その後のことまで考えてない。猫は十数年生きるんだよ?その場限りの覚悟じゃ、後悔するから。……それに、俺が嫌。だから……。」
「それで記憶封じ込めて、青春な。……バレたら嫌われるぞ。」
「それはそれでいいもん。……お前らがいるから、いい……。」
言葉はそこで止まり、代わりに小さな寝息が聞こえる。
彰良はその様子に溜息を吐き出すと立ち上がった。
「……なんか掛けるもん持ってくる。炬燵、風邪引くからソファで寝かせてくれ。」
「はいはーい。……珍しいね、ほんと。」
「そうだね。……疲れてたのかもね、ここ最近ずっと。」
清治に手伝って貰って、楽は玲をソファに運んだ。
相変わらず軽くて小さい玲は苦もなく運べて、少しだけ困ってしまう。
今日はそれなりに食べてはくれたのだけど。
テーブルを振り返れば、彰良と玲が作ってくれていた料理は殆ど無くなっていた。
彰良のための肉じゃがと、洋食好きな清治にはグラタン。甘いものが苦手な楽には麻婆豆腐。玲には彰良が作った鯛の酒蒸し。
そして何といっても毎年恒例のおせち。
料理が得意な玲のおせちは、毎年東條家に持っていくためのものだ。ついでに、皆んなで食べる用にと玲が多めに拵えてくれている。
そのどれもが絶品な上に丁寧で、あの多忙の中、いつ作っているのかと不思議でたまらない。
「やっぱりヒミズのせい?」
「それもあると思うけど……分からない。玲、隠すの上手くて。」
「だよね。」
いつだって何にも気付かせてくれないから、心配で仕方がないのだ。
隠し事が上手くて笑うばかりで。だけど。
「……珍しく泣いてたね。」
「うん。……泣けるようになったんだね。」
清治と顔を見合わせて笑い合う。
ずっとこんな日が続けばいい。
玲が素直に笑って泣いて、毎日楽しく過ごしてくれたら、それだけで。
「毛布持ってきた。……どうした?」
「ううん。……よし!飲もう!!今日はとことん飲もう!!」
「うるさ……!玲が起きるだろ!!」
「彰良も煩いよ……。」
それだけで楽たちも幸せだから。
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「あ、そろそろ年明けだな。」
司との一騎打ちに勤しんでいると、雄星の声が響いた。
雄星が持ってきてくれた流行りのレースゲームは結構楽しく、のめり込んでいたら、もうこんなに時間が経っていたとは。
あと数分で年が明けるのに、何となく居住まいを正す。カウントダウンなんて柄でもないが、年明けの挨拶はきちんとしたい。
そのまま残夏に倣ってか、全員で正座をしつつテレビをつけて、年越しカウントダウンを待つこと数十秒。
高らかに鳴る新年の合図に、顔を見合わせて笑い合った。
「明けましておめでとうございます!」
重なる声にまた笑って、足を解く。
そうか。残夏がここに来て、遂には年まで明けたのか。
「初詣どうする?今から行くか?」
「混雑してるだろう。……どちらにしろ混むなら朝がいい。」
「あ、じゃあ三島神社に行こうよ。玲ちゃんがおせち取りにおいでって言ってたからついでに!」
「え?おせち?」
凪の言葉に首を傾げると、凪が楽しそうに頷いた。
なんでも、玲に今年は年明けを一緒に過ごさないことを伝えたところ、おせちだけ取りにおいでと言われたのだそうだ。
年末は雄星がいるから食べ物に問題ないが、年明けは雄星も司も実家に帰ってしまう。
今度こそインスタント祭りだと思っていたけれど、玲は一枚上手だったらしい。
「玲ちゃん、料理すっごく上手なんだよ。毎年美味しいの。東條さんも楽しみにしてるくらい。」
「へえ……趣味って聞いてたけど、そんなに上手なんだ。」
それはちょっと、いやかなり楽しみだ。
あの司令官が楽しみにしているのだからきっと美味しいに違いない。
残夏と凪がその内容に想像を膨らませていると、雄星がぽつりと呟いた。
「いいなぁ……俺も食いたいかも。」
「しかし帰るのも帰らなければならないだろう。」
「でもさ、そこまで言われてるんなら食べたくない?パッて顔出して挨拶して帰って来れねーかな。どうせ南宮さんに挨拶するだけだし。」
「ううむ……。そこまで言われると僕も気になってきた……。」
「あ、じゃあ待ってようか?おせちって長持ちするんだよ。二人が戻ってきたら、四人で食べようよ。」
悩む雄星たちに、凪の言葉は天の声のようだったのだろう。
途端に顔色を明るくする二人もまた、食欲に忠実らしい。
「いーの?んじゃ、すぐ戻ってくるわ。今日は泊まるけど、明日戻ってくる!」
「あ、勝手に決めるな!……まあ、僕もそのくらいは……うん!よし!仕方ないなぁ!」
わ、と盛り上がる雄星たちに、残夏は凪と顔を見合わせて笑い合う。
今日は仕方ないが、明日はまた四人で過ごせるのだ。これを喜ばない理由はない。
残夏は年の明けたまだ暗い窓の外に目をやった。
ここに来てからの日々が、ゆっくりと蘇る。そのどれもが鮮やかで。
ーーどうなる事かと思ってたけど……。
残夏の毎日は間違いなく、幸せだ。
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「風邪引くぞ。」
騒ぎに騒いで寝落ちして。
ふと目を覚ませば馬鹿が一人、縁側で酒を飲んでいた。ガラス戸は閉まっているとはいえ、冷えるだろうに。
「彰良。ふふ、明けましておめでとう。」
「おう、おめでとう。……ほら。」
近くにあった半纏を掛けてやれば、ふわりと柔らかい笑みが浮かぶ。
それに彰良は目を細めて玲の隣に腰掛けた。
楽と清治はすっかり夢の中のようで起きる気配はない。寝相悪く炬燵からはみ出ているが、玲が掛けたらしい布団を二人とも被っているから大丈夫だろう。
だから、気にしなくていい。今は二人だけだ。
「はい。」
「ん。」
玲から差し出された猪口を手に取って、静かに注がれる透明にそっと意識を向ける。
まだ湯気が立つそれは、仄かに甘い香りがして、飲み干せば口の中にもその甘さが広がった。
玲が好きな甘めの良い酒だ。
「……何してんだ、こんな所で。」
「雪見てたんだよ。降り出したから。」
その言葉で、ようやく彰良はガラス戸の外に意識を向けた。確かにちらほらと白いものが舞っている。
相変わらず、風情があるものを好む。
「……ね、彰良。」
「ん?」
ぽつりと小さな声が落ちた。
雪に埋もれてしまうような、そんな声。
だけど彰良は、玲の声なら聞き漏らさない。聞き漏らさないように、ずっと努力している。
玲はそのまま雪を見ながら、静かに言葉を続けた。
「きっと今年は色々あるね。……俺は、子供を守れるような大人になってるかな……。」
ーーああ、こいつは……。
昔、高専の頃、玲は大切なものを増やさないように気を付けていた。心を乱される事がないように。何も感じる事がないように。
だけど、あの日から、生きると決めたあの日から、玲は大事なものを増やしてきた。
それが良いことなのかは分からない。大事なものが増えるたびに、こいつは自分を削るから。
大事なものが無くて空っぽな玲も、大事なものが多すぎて削られていく玲も、彰良は本当は嫌だけど。
「……お前は、間違ってない。俺は、間違ってると思った事は一回もない。」
例え残夏の記憶を消そうと、一人で抱え込もうと、玲の選択はいつも間違っていなかった。
それを彰良は誰よりもよく知っている。だからきっと、彼は他人に慕われるのだろう。
例えそれがどれだけ辛くとも。
ーーだから俺は……。
側にいられたらいいと思う。玲がどこに向かっても。
戦っても、逃げても、その先が地獄だって。
彰良はずっと側にいるから。
「そっか。」
目を伏せて玲が笑う。
幸せそうで、だけど少し寒そうで。
だからどうにかしたくて、彰良が玲の肩に手を伸ばした、その時。
「二人で何やってんの?」
本当にこういうタイミングで邪魔は入るのだ。
彰良は慌てて手を引っ込めると、声の主の方に目を向ける。そこには、眠そうに目を擦る楽が立っていた。
「楽。ふふ、雪見酒だよ。」
「えーずるい!ボクも!」
「お前声でけーよ。清治は?」
「もーぐっすり!お酒弱いからね〜。」
「ふふ、後でバレたら拗ねちゃいそうだね。」
バタバタと玲の隣に腰掛けた楽に溜息を吐き出す。
そのまま少し温くなった徳利を彰良は手に取った。
楽が飲むならこれでは足りないだろう。
「燗つけてくる。他にいるもんは?」
「ボクなんか食べたい!」
「俺は大丈夫。……手伝おうか?」
「いーよ。楽の相手してやれ。」
くしゃりと玲の頭を撫でて彰良は立ち上がった。背後から「寝癖すごいよ、楽」という玲の声が聞こえる。
後で清治ももう一度起こしてやろう。清治は一人だけ外されると悲しそうにするから。
ふと窓の外を見れば、雪はしんしんと降り積もっていた。
その白さに少しだけ祈る。
神がいる事を知っているからこそ、彰良は神頼みがどれだけ意味がない行為か知っている。
だからこれはただの験担ぎだ。どうか。
ーー少しでも長く平穏を……。
他の誰がどうなってもどうでもいいけれど、それだと玲が悲しむだろうから。
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三島神社は参拝客でかなりの賑わいを見せていた。
荘厳に鳴る楽の音と、明るい笑い声。それから出店なんてものも出ている。
そんな賑やかな様子とは正反対に、神域にある彰良の家は静かなものだった。
「まあ、本来旧暦だからな。祈ったとこでご利益あるか分かんねーぞ。」
「そんな身も蓋もない事言うなよ〜!可哀想!」
出迎えてくれた彰良と楽と軽く話しながら、玲を待つ。おせちを包んでくれているらしい。
ちなみに清治はまだ寝ているのだとか。
「お前らもこんな大人になるなよ。酒飲んで二日酔いとかな。」
「う〜る〜さ〜い〜!彰良お前ほんと余計なことばっか言うよね!」
大人たちの戯れ合いを眺めながら苦笑して待つこと数分。
奥から駆けてきた玲は、久遠家に行った時とはまた違う着物姿で、ラフな感じなのにとても綺麗だった。
耐性のない雄星と司が固まるのを横目に、凪と残夏で近寄る。
「遅くなってごめんね。はい、これ。あと、残り物で悪いんだけどあったもの他にも包んだから。風邪ひかないようにね。」
「あ、ありがとうございます!」
「わーい!玲ちゃんありがとう!」
受け取った包みはなかなかな重量で、もしかしたら今日もインスタントは免れるのかもしれない。
期待を胸に凪と笑い合っていると、玲がそっと目を細めた。
眼鏡がないと、その表情に少しだけドキドキしてしまう。
「二人は寮に帰るの?」
「あ、はい!」
「ゲームするんだよ!玲ちゃんは東條さんのとこ?」
「そう。……今から着替えて……考えるだけで大変。でも東條さん、毎年着物贈ってくれるから着ないわけにもいかないしね……。」
「わあ、あとで写真送ってね。」
目を輝かせる凪とは対照的に、玲は遠い目をした。
また久遠家の時みたいに、煌びやかな装いをするのだろう。それは残夏も是非見てみたいものだ。玲はそんは凪と残夏の頭を撫でると、柔らかく微笑んだ。
「明けましておめでとう。今年もよろしくね。」
「あ……よろしくお願いします……!」
「よろしくお願いします!」
頭を下げながら、手を振る玲たちに見送られて残夏たちは山を下りた。
駅まで歩いて、雄星と司とも手を振る。ほんの少し寂しいけれど、また明日だ。
「今年も楽しみだね、残夏くん!」
「うん。これからもよろしくね、凪。」
顔を上げれば、穏やかな朝日が輝いて見えた。
ここまで読んでいただきありがとうございました。
エピソード9完了です。
年末編いかがだったでしょうか?
今日は雪模様でしたね。ゆっくり雪見酒もいいかもしれません。
次回は学生達の進級前、最後のイベント編になります。
良かったら、また読んでいただけると嬉しいです。
次回更新は2/14土曜日です!(19:30目安ですが、前後する時はXでお知らせします)
水曜日は短編を投稿予定です!
バレンタイン編になります〜!
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