熱い氷水
――あんなやつ、もういい…!
そう、心の中で叫んだ。
夏の昼下がり。
真夏の太陽がジリジリと照りつける中、アスファルトの熱気が肌にまとわりつく。蝉の声が嵐のように、ジージー、ジージーと鼓膜を叩いた。
近くのファミレスにひとり、息を切らし駆け込んだ。
ハァ…ハァ……――暑い…
「おひとり様ですか?お好きな席へどうぞ!」
――店員の明るい声
今のあたしには頭にガンガン響く…
なんでひとりなの…
窓際の席につき、タブレットのメニュー表を無意識にスクロールする。ひとりで何か食べたいわけじゃない。ただ、誰にも邪魔されない、ひとりの居場所が欲しかっただけ。
――ドリンクバーの表示をそっとタップ
――動けない。動きたくない…
向かいの席のママ友たちの甲高い笑い声。
隣の席の高校生たち、ワイヤレスイヤホンからシャカシャカと漏れる音。
耳を塞ぎたくなるような、不協和音ばかりだ。
――ふたりの時は気にならないのに…
――間違えた。場所を間違えた…
どうして、あの光景を見てしまったんだろう。彼が、知らない女の子と楽しそうに笑いながら歩く姿。見なければ、今も彼の隣で笑っていられたのに。
喉の奥がツンッと痛んで、視界がじんわりと滲む。
――あれ?なんでだろう。涙が止まらない。
ポロポロ、ポロポロ。次から次へと溢れてくる。変なの。どうして止まってくれないの。
ぼんやりとテーブルを眺めていると、突然、冷たい感覚が首筋を襲った。
――カランッ…
氷のぶつかる音が、妙にクリアに聞こえる。
「冷た…っ!」
思わず顔をあげると、そこに彼が立っていた。
なぜ、ここに?
――トクン…
彼のまっすぐな視線に、心臓が大きく跳ねる。
彼は何も言わず、持っていた氷水の入ったグラスを、私の熱を持ったおでこに、静かに当てた。
――カランッ!
ひんやりとした感覚が、熱く頭に上った血を一気に冷ましていく。
「頭冷えた?お前なんか勘違いしただろ?あれ、妹。」
――トクン…!
彼の声と、グラスから伝わる冷たさに、私の心臓がもう一度、強く鳴り響いた。
――トクン…!
聞こえるのはこの音だけ。
冷たいはずのグラスも、エアコンで涼しいはずの店内も熱く熱く感じた。
――もう…全然冷えない…
――そう、きっと夏の暑さのせいだ――