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忌み子のボクが、“気”と自分を受け入れたら、いつの間にか世界の命運を握ってました  作者: 水波 悠
最終章 邪気の国

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邪鬼と人の違い

 ふと気が付くと、ボクはいつも魂量の修行のときにも訪れていたユグ山の焚火の前にいた。焚火は静かに揺れ、パチパチと木が爆ぜる炎の音だけが時間を刻んでいた。


「また、迷ってるんだね」


 焚火の前に座りやわらかい笑顔で幼いボクが話しかけてくる。


「うん。だってさ、ヴァル、いいやつじゃん」

「そう思えるのは、お兄ちゃんが優しいからだよ」

「そう……かな?」

「うん。あとね、甘い、のかもね」


 その言葉にボクの胸はズキンと痛む。


「お兄ちゃんはボクで、ボクはお兄ちゃんだから、はっきりというね。ボクはお兄ちゃんのことを信じてるし、大好きだから。そして、これが、最期になっちゃうかもしれないから」


 目の前の幼いボクはその小さな手のひらを見ながら手を握ったり開いたりしている。よく見ると、幼いボクは少しずつ輪郭が虚ろになりつつあった。


「お兄ちゃんはさ、身近にいる人、自分に良くしてくれた人を誰振りかまわず良くしたいと思う、よく思われたいと思う。そんな感じでしょ? それって、自分が嫌われたくないからなんだよ」


 幼いボクの言葉にボクは首を横に振る。


「ボクは……自分が大切だと思う人を守りたいだけなんだ」


 ボクの言葉に、幼いボクはまっすぐとこちらを見つめてくる。


「それってイリスのこと? フローラのこと? それともリゼのこと? なんならヴァルも、カイエンも、セルギスも、みーんなお兄ちゃんにとっては大切な人だよね」


 ボクは言葉がでない。


「お兄ちゃんがもし、これから出会ういろんな人たちを守りたいと思って、実際に守ったら。その結果、みんながお兄ちゃんを頼って、そしてお兄ちゃんはみんなを守りたくならない?」

「そう……かもね。でも、それが実現できる力があったら……」


 幼いボクはふぅと一息ついて言葉を放つ。


「冷静に考えてみてよ。その先にあるのは力への服従だよ、きっと。光に集まる虫にように、本当に意志があるわけではなく、ただなんとなくお兄ちゃんに群がってるだけだよ。そうすれば、たしかに嫌われはしないかもしれない。でもお兄ちゃんの力を恐れられ、異端の目で見られる。周りのためにと思ってやってたのに、気が付いたら忌み子と呼ばれた昔に逆戻りだね」


 幼いボクはあぁあ、とオーバーなリアクションでがっくりと肩を落とすふりをする。


「じゃあ、どうしたら……」


 ボクは問う。まるで見た目が逆転していたほうが、会話としては自然だったかもしれない。


「ねぇお兄ちゃん。お兄ちゃんは、今までずっと一人で誰かのことを守り続けるために戦ってきたの? そのときに、周りのみんなは足手まといだと思ってたの?」

「そ、そんなことは……」


 いわれてハッとした。自分が原因でもないことまで自分の力不足だと思ってしまっていた。大切な人の問題も、解決できないのは自分の問題だと思っていた。それは、もちろんその人の役に立ちたいという思いもあった。でも、その裏に隠れていたのは


「ボクは、自分がその人の役に立つことで、その人の傍で自分の居場所を作りたかったのかもしれない……」

「そんなことをしないと、その人たちの傍にお兄ちゃんはいちゃだめなの? そんな風に思ってる人の傍に、お兄ちゃんはいたいの?」


(たしかにそうだ……)


「そっか、自分に自信がないから……だから何かしなきゃと思っちゃう……」


 ふと、イリスに昔言われた言葉が思い返される。あれはイリスと初めてクエストに出て水鱗蛇と戦ったときだ。


「もっと自分に自信を持ってもよいと思うけど?」


 あれからボクは力をつけた。いろんな経験をした。あの時も、もっと自分を信じなきゃと思っていた。ちゃんと意識もしていた。でも、根っこの部分ではあまり変わっていたなかったのかもしれない。


「お兄ちゃんはね、イリスと出会ってからちゃんと自分を信じる努力はしてきてたと思うよ。ボクも中からみてて少しずつ自信が出てくるお兄ちゃんを見てて嬉しかった」

「そう……だったんだ」

「でもね、それと同時に、もう少し自分の信じたいと思った人のことを信じてみてもよいと思うんだ。この人ならなんとかできる、ってね」

「自分を信じるのと同じように、誰かを信じる……」


 思い返してみると、ボクはいろんな人に助けられながら、支えられながら今ここにいる。


 ――ボクに気の使い方を教えて育ててくれたリゼ

 ――ギルドで面倒を見てくれたセリナ

 ――剣を教わる機会を与えてくれたアグナルと実際に教えてくれたセバスチャン

 ――そして、時に命を守ってくれて、隣に誰かがいる素晴らしさ教えてくれたイリス


「たしかに、ボクはいろんな人を助けてることもあるかもしれないけど、助けられてもいるんだ」

「そう、その助け、助けられる輪を広げられる力が、本当の強さなんだと思うよ。そして、その強さがあれば、武力的な意味での力は本当はいらないのかもしれないね」

「それが、邪鬼達の個の強さ、武力の強さとは違う、人としての強さ、か」


 ボクはヴァルと話をしていて、ずっと腑に落ちずに引っかかっていた何かが“仲間への尊敬と信頼“であることに気が付くことができた。


 顔を上げ、改めて幼いボクを見る。


「うん、ありがとう。また君のお陰で助かったよ」

「ううん、それは違うよ。さっきも言ったけど、ボクはお兄ちゃんでお兄ちゃんはボクなんだ。だから、これまで魂量の修行をしてボクと会話を続けてきたお兄ちゃんの努力の結果だよ」

「そっか、でも、いいんだ。ありがと」


 そう言って、ボクは立ち上がって幼いボクの頭をくしゃくしゃと撫でると、くすぐったそうに微笑む。


「うん、いってらっしゃい。イリスを助けてあげて」


 ボクは頷くと周囲が真っ白い光で埋め尽くされて、気が付くとイリスに剣を突き立てた状態のヴァルが驚いた顔をしていた。


「ほう、あそこから、戻ってこれたのか。で、その気を使ってるということは、邪鬼になる気はなさそうだな」


 ボクの周りを黒と白が混じった調和気を覆っているのを見たヴァルがつぶやく。


「それなら、我ら邪鬼の繁栄に妨げとなるお前には力づくで邪鬼になってもらうしかないな」


 その言葉と同時に、ヴァルの体から真っ黒な気が噴き出し、まるで羽のように背中に広がる。ボクは剣を握りしめ地面を蹴るとヴァルも同時に玉座から立ち上がりこちらに正面から向かってくる。


 バヂヂヂヂヂヂヂヂヂッ

 光と闇がはじけ、空気が震える。


 ボクとヴァルの剣が真正面からぶつかり合い、黒と白の光の奔流が押し合う。


「いいのか? そんなに俺に近づいて?」

「大丈夫。この日のためにボクだっていろいろ鍛錬を積んだんだから」


 剣を押し合いながら、ボクは一瞬体を半身ひるがえし、ヴァルの剣を流しながら胴に蹴りを放つと、ヴァルはすぐさま剣を握った反対の手でボクの蹴りを受ける。片足で無防備になったボクの足をめがけて、今度はヴァルが足払いをかけようとしてくるが、ボクは片足で跳びあがって宙で一回転して距離をとる。


「まったく、行儀の悪い足だな」

「足癖の悪さは師匠譲りみたいだけどね」

「違いない」


 そんなやりとりをしながら、再びヴァルに向かってボクは地を蹴って接近しようとするが、今度はヴァルの背中にまとった真っ黒な羽を大きくはためかしたかと思うと、そこから数百の羽が飛来する。


(流石にあの数はまずい……)


 ヴァルと斬り結んでわかったのは邪気の放出量がザイレムで戦った幹部なんかとは比べ物にならないこと。ザイレムでの修行を行っていなかったら、ボクは最初に剣を交えた時点で邪鬼に堕ちていただろう。もちろん、処理量は当時から増えているものの、ヴァルの邪鬼はとにかく濃い。あれを全てまともに吸収したらきっとあちら側にいってしまうだろう。


 ボクは剣を構えてこれまでヴァルから吸収した邪気を変換した調和気を剣に集中させると、横一閃、剣を振りぬく。すると剣から調和気が斬撃として黒い羽根を迎撃しながらヴァルに向かって襲い掛かる。


「好きなだけ邪気を吸収できるってわけではなさそうだな」


 そういってヴァルも剣を一閃すると、黒い気の斬撃が繰り出され、ボクの放った調和気とぶつかり合ってその場で発生した白と黒の気の奔流によりヴァルが一瞬みえなくなる。そして、少しずつ薄くなった気の奔流の後ろから影がこちらに迫る。しかし、迫ってきていたのはヴァルだけではなかった。再び黒い羽根をこちらに飛ばしながら、それと追随するようにこちらへ向かってきたのだ。


「チッ」


 慌ててボクは剣を構えてヴァルを迎え撃つ。飛んできた黒い羽根は剣で振り落とすと、今度はヴァルの袈裟斬りが目の前に迫る。何とか体をひねって躱すと、その勢いでボクはヴァルに反撃する。すると今度はヴァルがくるりとその場で一回転しボクの剣を弾く。ボクはさらに飛んでくる黒い羽根をかわすために今度はヴァルの体を盾にするためヴァルに体当たりをかまし、肩を胸元にあてる。


「ガハッ」


 ヴァルは衝撃で肺から空気を吐き出す。しかし次の瞬間、剣の柄でボクは背中を強打され吹き飛ばされる。


 お互いが肩で息をしながら、剣を構えて目を合わせる。


「なかなかやるじゃないか」

「そっちもね」


 言葉を交わすと、不思議とお互い笑っていた。


「さぁ、第二ラウンドだ」


 そういってボク達は再び剣を交えた。


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