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忌み子のボクが、“気”と自分を受け入れたら、いつの間にか世界の命運を握ってました  作者: 水波 悠
第10章 揺れる思い

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交錯する気持ち

 宿に戻ったボクは、布団の中でひとり悶々とし続けていた。


(フローラからの告白にけじめをつけるためにイリスに思いを伝えたけど……もし、それでイリスと一緒にクエストに行けなくなったら? 一緒に肩を並べて歩くことができなくなったとしたら……?)


 後悔に近い思いばかりが頭を渦巻き、胸をぎゅっと締め付けていた。


 (こんなことなら、いっそフローラの告白を受けていたほうが、イリスとの関係は壊れずに済んだのかも……いや、それはさすがに不誠実か……)


 ボクはブンブンと頭を振り、がばっと布団をかぶる。ぐるぐると巡る思考を無理やり断ち切るように、目を閉じた。


 翌朝。


 すっきりとしない頭を無理やりたたき起こしながら準備を整え、食堂に降りると、すでにイリスが座っていた。


「おはよ」


 普段と変わらぬ声。なのに、妙に胸に刺さる。


「……おはよ」


 素っ気なく返した自分に気づきながら、ボクは口を閉ざす。無言の時が流れた。


(ボクはあんなに悩んだのに、イリスにとっては、なんでもないことなのかな……)


 そう思うと、目の前の朝食も、紙みたいに味気なく感じられた。


 イリスはボクの返事に何かを感じたのか、結局、二人ともほとんど言葉を交わさずに食事を終えた。先に食事を終え、立ち上がったイリスは、短く言う。


「見送り、行くから」


 そう残し、先に部屋に戻ってしまった。悲しさか、苛立ちか、寂しさか。自分でもよくわからない感情に押しつぶされながら、ボクは食堂にひとり残された。


 ――王宮前の広場。


 イリスと一緒に広場に到着するとすでにカイエン、ユエン、フローラ、リゼ、そしてガレドが待っていた。


「お待たせしました」


 努めて平静を装ったつもりだったが、フローラの眼差しにはごまかしは効かなかったようだ。ボクとイリスを一瞥したあと、彼女はほんのわずかに微笑んだ。


「コウ。今回はコウがいない間のセレフィアの防衛もあるから、リゼとイリスは同行せずにコウ一人で行ってもらうことになるけど、頼むね」

「うん」


 ボクは頷く。

 続けて、リゼが紙束を差し出した。


「これはな、私が黒の器について調べたことをまとめたものだ。本当は一緒に行って仕上げに付き合ってやりたいんだが、今回は叶わん。その代わりに読んでおけ。調和気の奥義なんかも載せてある」

「リゼさん……」


 紙束を受け取り、パラパラとめくる。癖のある字でびっしりと埋められたその中には、これまで教わったことだけでなく、初めて目にする知識も記されているように見えた。


「ありがとうございます。必ず、読み込みます」


 ガレドも胸を張って言う。


「この国は、リゼ様とイリスさんとで、必ずお守りします!」

「さぁ、挨拶は済んだか? 行くぞ」カイエンの声がかかる。


 ボクはちらりとイリスを見た。だが、彼女は俯いたままだった。胸に小さな痛みを感じながらも、顔を上げて告げる。


「それじゃ、行ってきます」


 ――最後の見送りまで、結局何も言ってくれないのか。

 失った代償を胸に噛み締めながら、馬車へ足を運ぶ。


「コウ……」


 その瞬間、耳に馴染んだ声が背に届いた。

 振り返ると、泣きそうな顔のイリスが立っていた。


「無茶、するんじゃないわよ」


 短い言葉。それでもイリスらしくて、胸が熱くなる。


「イリスこそね」


 小さく頷き返したとき、心の隙間がほんの少し埋まった気がした。


「よし、出せ」


 カイエンの声とともに、馬車は動き出す。街並みを抜け、ザイレムへ――。


 ***


 コウを乗せた馬車が遠ざかるのを見届けると、私は大きく息を吐き出した。

 そのとき、隣のフローラから声をかけられた。


「ねぇイリス、このあと、ちょっといい?」

「……うん、大丈夫」


 予定なんてなかったし、王女の誘いを断れるはずもない。フローラはそっと顔を寄せ、囁いた。


「コウとのこと、女二人でゆっくり話をしようよ」


 その笑みは、威厳ある王女のものではなく、どこか少女のいたずらめいたものだった。

 リゼやガレドに挨拶を済ませると、フローラの私室へ足を運んだ。


 豪奢な造りの部屋は気高さに満ちていたが、目の前の彼女は場違いなほど無邪気に笑んでいて、部屋の雰囲気が彼女のギャップをより引き立たせていた。


「ねぇイリス。コウと何かあったでしょ?」

「なんで?」

「なんでって、あのやりとりを見れば誰でもわかるわよ」


(……そりゃ、そうか……)


 私は観念して口を開く。


「そう……だよね。実はね……」


 しかし、それ以上は言葉が続かなかった。フローラの存在が、答えを阻んだ。


「コウに好きって言われたんでしょ?」


 フローラの言葉に、思わず顔を上げる。


「なんでわかったの?って顔してるよ?」


 心をすべて見透かされているようで、悔しい気持ちが湧いた。だが次に告げられた言葉に、さらに息を呑む。


「だって、私がそう仕向けたんだもん。いや、仕向けたは言い過ぎかも。でもね、私はコウに『好きだ』って伝えた。でも、私は好きな人がいるからって振られた。だからそのときに言ったの。『コウもちゃんと想いを相手に伝えて』って」


 フローラはあっけらかんと笑う。


「でも、今日の様子を見る限り、イリスはまだ答えを出してないみたいだね。ってことは、私にもチャンスが残ってるってことかも」

「……私なんかより、フローラの方がコウには合ってるのかもね」


 つい、そんな思いを口にしてしまった。

 だが、それは逆効果だった。


「イリス、本気で言ってるの?」


 フローラの瞳に、これまでの優しそうな表情から一変し怒りとも軽蔑ともつかぬ光が宿る。


「同情してくれてるの? こんな境遇にいる私を。お父様をこの手で討たなきゃいけなかった私を」

「ち、違う、そんなつもりじゃ……」


 口では否定した。けれど、心の奥底では確かにそう思っていた。フローラも幸せになってほしい。コウも彼女に好意を抱いている。だから、自分よりフローラの方がふさわしいんじゃないかって、そんなことを思っていたところは少なからずある――。


「馬鹿にしないで。そんな形でコウを譲られても、私は嬉しくない」


 きっぱりと突き放され、返す言葉をなくす。


「……ごめん、フローラ」


 かろうじてそれだけを口にし、私は逃げるようにその場を後にした。


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