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決着

 目の前に広がるアンデッドの群れを前に、ボクは状況を整理する。


 (いきなり身体強化と気の剣を使うのはよくない……となると優先すべきは……)


 身体強化を使いながらイリスの背後から迫るアンデッドに向けて駆け出す。


 (極力周りの数を減らしつつ、隙を見てイリスに意識が向いている忘却の騎士を討つ)

 

 忘却の騎士がイリスに斬りかかるのを横目に、ボクは近づいてくるアンデッドの騎士と剣を交えた。これまで以上の速度に風を置いてその場を駆け巡る。


 「っ……!」


 錆びつきながらも重みのある剣を、ぎりぎりの距離で受け流す。

 右足を軸にくるりと反転し、その勢いを利用して自分の白刃の気の剣を叩き込んだ。

 ガクン――と首がずれ落ち、アンデッドは崩れ落ちる。

 だが、休む暇などなかった。


 「……っ!」


 ふと正面を向くと目の前に、すっと横一線の軌跡が走った。矢だ――!

 首を傾けてなんとか紙一重でかわすと、その矢を放った骨弓兵に肉薄し、低い姿勢から足を払って体勢を崩し、そのまま喉元を突いて動きを止める。


 (イリス……)


 ちらりと視線を向ければ、彼女は忘却の騎士の剣を必死に受け止めていた。


 (隙を狙うためにも、あんまりイリスから離れちゃだめだ。攻撃できる距離を保たないと――)


 その思考の隙を突くように、三体の騎士が同時にボクへと斬りかかってきた。

 その殺気に、咄嗟に身を低くして剣を払う。ガキン、と金属音が連なる。


 (まず左――)


 一体目の剣を捌き、軸足をずらして右の騎士の剣を躱す。右側の騎士の空いた胸元に短剣を突き立て、残った中央の一体の攻撃は、倒した右側の騎士で受け止める。


 「ぐっ……!」


 盾にした騎士越しに斬撃を受ける。だが、そこで退くわけにはいかない。

 振りかぶりの隙をついて、中央の騎士も手早く横薙ぎで斬り払う。


 (……ちょっとしんどい。でも、今なら――)


 ボクは歯を食いしばり、イリスへと向かっていた忘却の騎士を見据える。


 (あいつの注意がイリスに向いてる……今、あそこに入ることができれば!)


 ボクは息を整える間も惜しみ、剣を握り直して再び駆け出した――。


 後ろからの攻撃を上手く捌きながら忘却の騎士の死角である背中側の足下へボクは滑るように踏み込み、腰の短剣を逆手に取って、一閃――!


 キィィンッ!


 ボクが忘却の騎士に放った一閃は鎧にあたる前に見えない何かに弾かれてしまい、そのまま剣を落としてしまう。


 「障壁っ……!?」


 (単純な物理攻撃はきかないってことか……?)


 反動で体勢を崩しかけながらも剣を拾おうと思ったその瞬間、背後から熱の気配が迫る。


 (火の気――!? まずい、このタイミングは避けられない!?)


 そう思ったときだった。


 「危ないっ!」


 ドンッ!


 イリスの声と同時に水流のような衝撃がボクの身体を横に押し飛ばした。視界が揺れ、地面に転がりながら声のする方をみると、イリスが水の気を纏っていた。

 だが、その一撃のせいで、ボクを庇ったイリスは無防備になってしまっていた。


 そこに――忘却の騎士の剣が、容赦なく振り下ろされる。


 「イリス――!」


 (だめだ、剣を取る余裕がない……)


 ボクは全身に気を巡らした状態で反射的にイリスに体当たりをして忘却の騎士の間に割って入った。


 ガンッ


 鈍器で金属を殴ったような音とともに、忘却の騎士の剣がボクの左肩を直接切りつける。


 (さすがに、気の強度が足りない……)


 身体強化をしているとはいえ、流石にこのクラスの相手の斬撃を無効化はできない。

激痛が全身を走る。片腕が力を失ってぶらりと下がる。


 「コウ……!?」

 「だ、大丈夫! 今はボクのことより……」


 血を垂らしながらボクは。だが、その間にも忘却の騎士は間合いを詰めてくる。


 「こいつの相手はボクがする。 イリスはそっちを!」


 イリスはこちらを心配そうに見ながらもこくりと頷くと、そのまま立ち上がり、剣を構える。


 (そっちは頼んだよ、イリス――!)


 騎士の剣を受け止めながら、イリスは気を練る。

 流れるような動きで間合いをずらし、足元へ滑り込むように抜ける。

 その剣筋は――以前、ボクが教えた“間合い”の考え方を活かしていた。


 剣が弧を描き、水の渦となって騎士5体をまとめて押し返す。

 その隙を見逃さず、イリスはさらにアンデッドたちを一太刀の中で流れるように切り捨てていく。


 (そうか……あの剣は、元々個対多を前提にした剣なんだ)


 水の力で敵をまとめ、足止めし、そしてその剣技で一太刀の中で葬り去る。水の気の特性と上手く調和した戦い方が流派に落とし込まれている。


 そんなことを思いながらボクは目の前の忘却の騎士に向かって片腕をだらりとぶら下げたまま立ち向かう。


 (後のことは、もう考えないでおこう)


 ボクは覚悟を決め、全身に気を巡らせる。右手の剣に集中し、足元の気まで総動員して身体能力を底上げする。丹田に流れ込もうとする命気の量をなんとか調整する。


 (この集中力は、長くは続かない。――行くよ)


 「はぁっ――!」


 地面を蹴る。舞い上がる土埃を追い越すように、ボクの体が弾ける。

 刹那、目の前に迫った漆黒の鎧。忘却の騎士の仮面の奥の瞳が、ぎょろりとこちらをとらえた。


 「――!」


 その刃が振り下ろされる瞬間、ボクはあえて懐に飛び込む。

 間合いを潰せば、大剣は活かせない。

 鍔迫り合いの形になると見せかけて、更にもう一歩踏み込んで相手の背後に回りながら剣を振る。


 ザッ!


 白い気を帯びた剣が鎧をかすめる。火花と白い光が散った。


 「……ちっ、硬い……!」


 ボクは左腕が使えない分、動きに一切の無駄が許されない。逆に、相手はこちらが左手を使えないことを理解してか、ボクの左側からの攻撃が中心となる。


 (こいつ、戦い慣れてる……)


 一歩の重み、刃の角度、腰の捻り――すべてを集中して、一撃一撃を積み重ねていく。

 距離を詰め、回り込むように動きながら、気の読み合いと攻撃の隙を探る。

 忘却の騎士は一瞬ごとに的確に剣を振るい、時に盾のように腕を振ってボクの剣を弾く。


 (……それなら――)


 ボクはあえて左側からの剣戟に対して、相手から迫る剣戟の方向に向かって飛び込み刃をなぞってその軌道をずらす。そして、がら空きになった相手の胴に向かって踏み込んだ。右手一本だけど、渾身の斬撃――


 「――はあぁッ!!」


 白い閃光が駆け抜けた。


 気の剣が、鎧の隙間を貫く。忘却の騎士はそれを持ちこたえ追撃をしようと剣を高く振り上げた。


 (もう一押し……!?)


 ボクは肩で息をしながら、リゼから受け取った命気量を抑える腕輪に手をかける。


(どこまでコントロールできるかわからないけど……これを外さないといけない……?)


 そのときだった。


 その場で重々しく、忘却の騎士が片膝をつくと、ゆっくりとその体が崩れ――他のアンデッドよりも一際大きな魔石を残して塵とともに消えていった。


 すると、イリスが相手をしていた他の騎士達も目の光が消えその場で崩れ去っていった。

 その場には、数え切れないほどの魔石が転がっている。

 

 先程までとは打って変わって、その場に聞こえる二人だけの粗い呼吸が、静寂を物語っていた。


 「……倒した、の?」

 「うん……終わった、ね……」


 イリスが駆け寄り、片腕のボクの肩を支える。


 「バカ……ほんとにバカ……」


 イリスはだらりと下がったボクの左腕を見ながら心配そうにしている。

 

 「ごめん……」

 「なんで謝るのよ」

 「だ、だって…イリスが心配そうにするから」

 「それはこの傷だもの。心配するのは当然でしょ」


 少し怒りながらも、照れているイリスが可愛らしい。

 

 「そっか……」


 ボクはイリスの言葉を受けて、改めて告げる。


 「心配してくれてありがと。あと、助かったよ」


 イリスはハッと驚いた顔をしたと思ったらふわりとその銀髪をなびかせ、くるりと後ろを向く。


 「ふ、ふん……あんたにお礼を言われたって、嬉しくなんてないんだから……!」

 「そっか」


 ボクはイリスが今、どんな表情をしているのか見たくなったが左腕が再起不能になりそうだったからやめておいた。


 「これで昇格クエストもおしまい…だね? ギルドに戻ろっか」

 「えぇ、そうね。 戻ろっか」


 そういったイリスの声は、昇格クエストを達成した割りに、どこか暗く聞こえたような気がした。

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