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初パーティクエスト

 セリナに言われて街の中を案内し終えたボクとイリスは、2人で揃ってギルドの扉をくぐると、心なしか空気が和らいで感じられた。今朝の険悪な雰囲気に比べれば、多少は打ち解けた……のかもしれない。

 ボクは受付にいるセリナの方に目をやると、一瞬こちらに気がついた様子だったが、他の冒険者の対応で手が離せないようだった。


 ボクとイリスは、ギルド内のクエスト掲示板へ足を運ぶ。イリスに確認するように、一つずつ読み上げる。


 「えっと、まず一つ目。『毒尾蜥蜴どくびとかげの群れを駆除せよ』。ランクはカッパー、場所は東の湿地帯。……うわ、毒持ちかぁ」

 「却下。泥だらけになるのなんて御免よ」

 「あ、じゃあ次。『飛爪鴉ひそうあの撃退』。山間の廃村に現れる夜行性の魔物で……」

 「却下。あんた、こないだあんなことを私にしたのに、そのあんたと夜を共に過ごせっていうの?」


 (あ、やっぱりあれ、無罪放免ってわけにはいかなかったんだな。 ちゃんと根に持たれてた……)


 てっきり、あれはもうなかったものにできたと思ってたけど、どうやら簡単に罪は消えないらしい。ボクはすぐさま話題を変える。


 「こ、これはどうかな? 『石殻亀せきかくき』。移動速度は遅いけど、硬い甲羅が厄介だって」

 「話を逸らしたわね。まぁそれはともかく。そんなの倒しても達成感がないわ」

 「……『赤泡蜂せきほうばちの巣を壊滅せよ』。えっと……場所は……森の奥……あ、毒針が――」

 「無理。刺されて腫れたらどうするのよ」


 (いや、もうどれもダメじゃん……)


 ボクが途方に暮れていると後ろから声が掛かる。


 「ふたりとも、仲良くなってきたわね」


 セリナは1枚のクエストを持ってきながらくすりと笑っていた。


 「……どこがよ」


 イリスは頬を膨らませながらも、言葉ほどの棘はなぜか感じられなかった。


 「じゃあ、これはどうかしら?」


 セリナが一枚の依頼票を手渡す。


 「ちょうど今入ってきた依頼で『水鱗蛇すいりんじゃ』の討伐。ランクはブロンズ寄りのカッパー。場所はエルダスの東にある森の水辺、日帰りで戻れる距離よ」

 「水鱗蛇って……水属性の鱗をもった、水の中からいきなり飛び出てくる跳ねる魔物だっけ?ちょっと強いけど……」


 イリスは少し考える素振りを見せたがうん、と頷く。


 「水辺っていうのが少し解せないけど、いつまでも贅沢を言ってられないわね。倒せない相手じゃないしこれにしましょ」


 こうして、ふたりの初めての共闘クエストが決まった。


 ***


 翌朝、エルダスの城門前には朝靄がかかっていた。街がまだ目覚めきっていない時間帯――

 ボクは少し早めに集合場所へ到着して、門の影で待っていた。すると、定刻の少し前にイリスが現れた。


 「……あら、早いじゃない」

 「イリスさんこそ。今日はよろしく」


 短い挨拶を交わすと、ふたりは東の森を目指して歩き始めた。

 目的地までは、おおよそ半日。そこには「水鱗蛇すいりんじゃ」という魔物が生息している。

 蛇のような体躯に、水の気を宿した鱗を持ち、湿気の多い岩場や森を縄張りにする、滑るような動きと高圧の水弾を武器にする獰猛な個体だ。


 (イリスにとって、正直相性の良い相手ではない……)


 ボクはそんなことを思いながら森の水辺に向かって歩みを進める。道中、何体か魔物に遭遇したが流れるような剣技を持つイリスの敵ではなかった。


 イリスがちょうど牙鼠を切り捨てて、少し休息を取っていたところでボクは改めて思ったことを口に出す。


 「イリスさんの剣技、本当に綺麗ですよね」

 「何よいきなり。褒めても何も出ないわよ?」


 イリスは少し驚いた顔をしるように見える。


 「こないだの模擬戦でイリスさんの剣を見たときにそう感じてたんだけど今日魔物を倒しているのを見て改めてそう感じて」

 「あんた、私の剣を受けながらそんな悠長なこと考えてたの」


 イリスは少し呆れているようにみえた。


 「蒼玲流っていうの。代々ヴァルティア家に伝わる水や氷属性を中心とした剣技よ」

 「やっぱり由緒正しい家の剣は、洗練されてるのですね」

 「まぁお陰様で、どこにいっても私はヴァルティア家の蒼玲流の使い手って目でしかみられないけどね」


 そういったイリスはどこか遠くを見つめ、少し悲しげな表情をしていた。


 「他の蒼玲流の剣をみたことないのでわかりませんが……」


 ボクは一呼吸おいて、でも、率直な思いを伝える。


「でも、ボクはイリスさんの剣、好きですよ」

 「バ、バカ! あんたに認められたって、ちっとも嬉しくなんてないんだから」


 そう言うとイリスは立ち上がり、そそくさと準備をしはじめる。


 「さぁ、早いところいくわよ。こんなところであんたと二人で野宿なんてごめんなんだから!」


 (もしかしてイリス、照れてる?)


 イリスの感情が少しだけ見えてボクはなぜだか嬉しくなり、イリスの後を駆け足で追った。


 ***


 水鱗蛇がいると聞いていた崖地帯に到着すると、そこは白い霧と湿気に包まれていた。しばらく探索していると、ぬるりと地を這う気配を感じる。


 「来る!」


 イリスが声を上げた瞬間、水鱗蛇が岩陰から飛び出してきた。青い光を纏った鱗が光を反射し、見るからに固そうにみえた。どうやら最初に目が合ったイリスを敵と判断したようだ。水鱗蛇はイリスに向かって飛びかかる。


 ガキィィン!


 イリスが水鱗蛇に向かって横薙ぎの剣を振るうと、まるで金属と金属がぶつかったような音を出しながら、その鱗にイリスの剣は阻まれる。


 「……やっぱり固いわね。 それならこれでどう?」


 イリスは剣に気を纏い、地を這う氷の鎖を水鱗蛇に向かって飛ばす。しかし、剣が鱗に触れた瞬間、氷の鎖はわずかな時間だけ拘束するも、すぐさま水鱗蛇はその鎖をふりほどき、自由になる。


 「やっぱり……通りにくい……! こんな蛇ごときですら私の剣は通じないっていうの……?」


 高圧の水弾をイリスに向かって吐き出すが、イリスは寸前で身を翻し、攻撃をかわす。 水鱗蛇の標的は完全にイリスになっていた。イリスが攻防を繰り広げる中、ボクは水鱗蛇の横に回り込む。彼女の攻撃が通じないなら、今度はボクの番だ。そのまま低く滑り込みながら短剣を握り直す。


 (こいつは水弾を放った後、一瞬硬直する癖がある)


 水鱗蛇は再度水弾をイリスに向かって放つのを確認し、ボクは大きく息を吸い込んで一歩踏み込む。水弾を放った硬直にあわせてボクは胴をぶった切るつもりで剣を振るう。


 ザシュッ


 血しぶきとともに表面をなんとか傷つけるがこれだけでは致命傷に至らない。


 標的をボクに切り替えて飛びかかってきた水鱗蛇に対して、先程傷を付けたところを目がけて、逆手に持った短剣で正確に突く。

 するとようやく水鱗蛇は動きを止めて、そのまま塵となって魔石を残して消えていった。


 「……っ、やった……」


 息を切らしながら振り向くと、イリスが唇を噛みしめてぼつりとつぶやく。


 「気も使わずに、あの相手を倒すなんて……」


 イリスは自らの剣に目を落としながら、何かを考えている様子だったが、そのまま帰路についた。

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