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第5転 ストリートファイト/後

 竹が座席の近くに立て掛けてあった刀を俺に投げて寄越す。鞘に入れてあるとはいえ真剣を投げられた事に慌てふためきながらも、どうにかキャッチできた。


「あっぶねえな! 刃物投げんな!」

「あんたの動体視力なら危ないなんて事ないでしょ」

「そういう問題じゃねえだろ! ったく……うわ、マジで真剣だ。おっかねぇー」


 刀を鞘から少しだけ抜いて刃を確かめる。今生では初めて見る本物の刀に戦々恐々だ。


「有名な刀という訳じゃないけど、それなりにはいい刀だから。とりあえず間に合わせね。今、あんたが生前使っていた刀を捜しているから、それまではそれ使ってて」

「いやいやいやいや。高校生に刀を振るえって何言ってんだ。いきなりできる訳ねえだろ」


 刀を鞘に戻す。怖いからあまり触らないでおこう。そう考えた俺は刀をソファの足元に立て掛けた。


「どうも覇気がないわね、あんた。前はもっと『バリバリに神の使徒!』ってタイプだったって聞いていたけど」

「あ? ああ、『桃太郎』だった頃の話か。生憎とそういうのは鬼退治の後にやめたよ」

「……ふーん」


 竹が探るような目つきで俺を見る。そんな風に見ても何も言う事はないのだが。


「ていうか、お前の方こそ高校生だろ、その格好。いや、もしかして中学生か?」

「高校生よ。あんたと同い年」

「同い年か。だったら、お前も俺と同じだろ。殺し合いとか神々の都合とか無縁の筈だぜ。なのに、やる気満々ってか?」

「私はあんたとは違うのよ。前世の記憶をなくされて一般人に転生したあんたと違って、生まれた時も『かぐや姫』のままだったもの。私には最初から神の一員としての意識があるのよ」

「マジかよ。……赤ん坊の頃、おしめとか恥ずかしくなかった?」


 言った途端、スマホをブン投げられた。額に命中して一瞬視界に星が散る。


「……サイテー」

()ってぇ……すまん、今のは俺が悪かった」


 養豚場の豚を見るよりも冷たい目をしている竹。眼力に気圧された俺は慌てて話題を変えた。


「そ、それにしても刀って結構な値段するだろ。それをポンと渡せるなんて、お前って本当に金持ちなんだな」

「ジェット機を用意するのに比べたらそんなの端金(はしたがね)よ。大した事じゃないわ」

「いや、それはそうなんだけどよ。一般市民に比べたら手が出せないってのは変わりな――うわあっ!?」


 俺が言い掛けたその時、車が急ブレーキを踏んだ。反動が車内を襲い、俺達は転倒する。


「何事なの!?」

「はっ! 前方に集団が立ち塞がっていまして!」

「ッ!」


 運転手の言葉を聞いた竹がすぐさま車外に飛び出す。俺もつられて車道に出た。

 そこに立っていたのは十数人の人間だ。胴部だけでなく頭部も四肢も覆う分厚い全身甲冑(プレートアーマー)を纏った兵士が多数。異世界転生者の襲撃がなければ現代社会ではコスプレとしか思えない格好だ。

 だが、俺達は知っている。こいつらがコスプレの集団ではないと。彼らの甲冑が実際の戦争に用いられる正真正銘の武具である事を。


 奴らの中にたった一人だけ、異なる格好をした少年がいた。中国の武術家を連想させる武道着だ。ぼさぼさの黒髪を三本の短い三つ編みにしている。童顔ではあるものの目つきはやや吊り上がっており、ネコ科の肉食獣を思わせた。


「貴様らが輪廻転生者か」


 少年が一歩前に出る。途端、少年の全身から湯気のような揺らぎが立ち上った。桃太郎だった頃、あれと同じものを見た。あれは魔力の放出だ。


「おれの名はクリト・ルリトール。異世界転生軍の八番隊長、『武闘家』の異世界転生者だ。おれ達の世界の為、大義の為に貴様らにはここで死んで貰う」


 右の五指をゆっくりと折り畳み、拳の形を作る。両腕を軽く曲げて掲げ、腰を落とした。格闘技の構え(ファイティングポーズ)だ。


「さあ、路上試合(ストリートファイト)を始めようではないか! フッハハハハハッ!」


 少年――クリトはそう言って歯を剥き出しにして嗤った。

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― 新着の感想 ―
世界を賭けて戦うというのは、構図は面白いと思います。 商業作品だと「終末のワルキューレ」なんかが近いですね。 互いの世界の価値なんかを口にしながら戦い合うのを想像すると、まぁ盛り上がりそうですね。
すっごい面白かったです!! プロローグみたときに????ってなってたんですが、本編は読みやすくてなんか「颯爽」って感じにスピード感を感じながら読み進めました!!金ちゃん見たかったなぁ笑 浦島は確かにな…
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